ブログ 「ごまめの歯軋り」

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平成経済 衰退の本質

2021年04月22日 | 書評
京都市右京区 「仁和寺 五重塔」

金子勝 著 「平成経済 衰退の本質」 

岩波新書(2019年4月)

第2章 グローバリズムから極右ポピュリズムへ  (その3)

③ 対テロ世界戦争とリーマンショック  (その1)

2001年9月11日アメリカで同時多発テロ事件発生した。2763人の犠牲者が出たが、翌月10月にはブッシュJr大統領はアフガニスタンへの侵攻を開始した。アフガニスタンは内戦状態になりアメリカの不得意とするゲリラ戦の泥沼に落ち込んだ。ブッシュ政権中枢のネオコンによる際限なき戦争が始まった。そしてブッシュは急に矛先を変え、2003年3月フセイン大統領の支配するイラン戦争を開始した。大量破壊兵器を理由とする石油資源が絡んだ中東戦争の再発である。次にアメリカはISがイラク北部からシリアを占領したことを理由にしてシリア内戦に本格的に介入した。シリアの難民が400万人国外へ避難したという。2015年には100万人を超える難民がギリシャからトルコへ逃れた。欧州へはハンガリー、ドイツ、スウェーデンなどの国は難民を受け入れたが、これらの国では反移民を掲げる極右政党が勢力を拡大した。ドイツでは移民は、15年に110万人、16年に50万人が流入した。国連UNHCRによると難民支援対象者は世界中で約7144万人に達したという。2008年リーマン・ショック後のアメリカ大統領選で「チェンジ」を掲げたオバマ大統領が就任した。リベラルな価値の復活とイラク戦争で失われた権威の失墜をカバーする期待が持たれたが、金融危機を収束させ、格差社会を是正し戦争を終わらせる歴史的課題はほとんど達成できなかった。オバマはウォール街と結びついた民主党主流と歩調を合わせざるを得なかった。住宅ローン担保証券の買取りを含めた金融緩和策に依存し、公的資金を投入しながら大手銀行・投資銀行は責任を取らず、2011年反感を持つ若者は「ウォール街を占拠せよ」運動に参加した。人口のわずか1%の富裕層に99%の富が集中する状況への異議申し立てであった。金融危機の処理が中途半端になったオバマ大統領には強いリーダシップはなかった。金融規制法としてバブル崩壊が銀行に波及することを防ぐ「ブルカー・ルール」を策定したが、自己資本金の一部を「プライベート・エクィティ・ファンド及びヘッジファンドに投資することは許されていた。証券化手法と国際的資金移動が自由化されているのでどこからでも資金調達は可能であった。オバマが熱心に取り組んだのは第1に再エネつまり「グリーン・ニューディール」政策であった。第2に格差是正政策の2010年「オバマケア」であった。オバマケア自体は公的医療保険に反対する共和党との妥協で、私的民間保険会社に依存した制度であった。

対外的にはイラク駐留米軍の最後の引き揚げに失敗し、2014年内紛鎮圧に3000人を再派遣した。アフガニスタン駐留米軍の引き揚げにも失敗し2017年以降も5500人を駐留させている。結果的に米軍の中東紛争地制圧ができないため大量の難民がヨーロッパに流れ込むことになった。2016年12月トランプが大統領になって、にわかに「オルタナ右翼」が台頭しナショナリズムを煽り、移民に対して差別的発言を繰り返している。17年1月、トランプは6か国からの移民を禁止する「移民入国禁止令」を出した。またメキシコからの移民流入を阻止するため国境に壁を設けることを公約にした。壁の予算化措置は議会の反対によって阻まれている。トランプおよびオルタナ右翼は感情に訴えることがすべてを打開すると信じる「オルタナ・ファクト」、「ポスト・トゥルース」を振りまいている。トランプは自身のスキャンダルを批判するメディアに対して「フェイクニュース」と逆非難し攻撃している。その背景にはグルーバリズムによって生まれた白人貧困層の不満を吸い上げ、「米国第1主義」で留飲を下げているのである。この「ポピュリズム」(大衆迎合主義=衆愚政治)的手法は品がないまでに強く押し出されている。トランプの外交政策の手法は「ビジネスマンディール取引」手法(相手に力を誇示し制裁措置をちらつかせ乍ら要求をぶつけて、相手の妥協を引き出す)によって特色づけられる。そこから「米国第1主義」が出てくる。自分が強いアメリカを演出するために必要な人間であることを印象付けることが目的である。

(つづく)