ブログ 「ごまめの歯軋り」

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平成経済 衰退の本質

2021年04月21日 | 書評
京都市左京区上賀茂 「賀茂川」

金子勝 著 「平成経済 衰退の本質」 

岩波新書(2019年4月)

第2章 グローバリズムから極右ポピュリズムへ  (その3)

② 移民社会の出現と新しい福祉国家

グローバリゼーションは金融自由化の事であったが、一般に人、金、物も国境を越えて移動する。そのため国民国家単位で歴史的に形成されたセーフティーネットを破壊する作用を持つ。生産要素市場ごとに調整速度に温度差があり、ITを伴った金は一番早く動く。人(労働)はそれより遅い。土地・自然は移動できない。土地や自然は動かず生産できないため投機の対象となる。農業や自然が破壊されるとその回復は容易ではない。この調整速度の違いやずれによってグローバリゼーションは社会や経済に歪と軋轢をもたらす。国内での貧富の格差は拡大されそこに労働規制緩和によって社会保障費が削減される上に、労働の国際移動が進み、低賃金労働者が増える。格差の拡大に移民問題が加わると社会の調整が追いつかない。移民問題は政治的統合を困難にした。1980年代以降移民排斥を叫ぶ極右勢力が台頭し、欧米では白人貧困層を基盤に広がった。「新自由主義」は金融富裕層の要求であるばかりでなく、税負担の軽減と社会福祉の削減をもとめる「草の根」運動でもあった。1976年カルフォニア州で増税反対運動「プロポジション13」が起きた背景にはメキシコからの不法移民問題があった。財産税の負担が白人中間層に集中し、福祉サービス受給者はヒスパニック系移民であったからだ。イギリスでは70年代後半に移民が都市中心部に集中するインナーシティ問題が起こった。サッチャーは「人頭税」を課したが失敗した。欧州では移民排斥と租税抵抗を引き起こした。こうした新自由主義的政策は移民の暴動を発生させ、80年イギリスではランベス暴動、92年ロスアンゼルス暴動、2005年フランスのパリ郊外暴動が起きた。欧米では労働組合の組織率の低下、労働規制緩和で不安定就労が増えたことが原因である。組織率の高かったイギリスでも2017年には23%、ドイツは16年に17%、アメリカは17年に11%に低下していた。労使の協議の場が少なくなったことや組織化されない「個化」された人々の増加が、マスメディアの情報に煽られて極右ポピュリズムに流れた。「新自由主義に対抗する左派・リベラルは移民排斥問題に「多様性ダイバーシティー」の尊重を課題に掲げた。かっての福祉国家では労使対立を軸に所得再配分政策が中心テーマであったが、今では差別と貧困をなくする「普遍主義」政策に移っている。現金給付は普遍主義的給付であるが、格差が是正されるわけではない。地方自治体に財源と権限を委譲しサービス分野で現物給付の充実が図られた。高齢者福祉において地域包括ケアーではニーズを持つ人は弱者救済の対象ではなく、当事者主権を持つのである。

(つづく)