ブログ 「ごまめの歯軋り」

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平成経済 衰退の本質

2021年04月10日 | 書評
京都市中京区 「祇園東白川 吉井勇歌碑」

金子勝 著 「平成経済 衰退の本質」 

岩波新書(2019年4月)


② 金子勝・児玉龍彦著「日本病 長期衰退のダイナミクス」岩波新書2016年  (その2)

日銀は好景気観を株価で演出するため、ETEを購入し、年金積立金管理運用GPIFと3つの共済年金資金をリスクの高い株購入に投入する操作が繰り返された(官製株価操作)。GPIFの国内株式運用比率は2014年6月で20%に、2015年6月には23%になった。年金基金運用を国債投資から株式投資の比重を挙げている。経営者は株価上昇を歓迎し買収から遁れることを望む。金融資本主義はバブル循環に変質しているので、株価上昇は景気上昇の期待を抱かせる。政権にとって株価上昇が自己目的化するようになった。アベノミクスの失敗が年金や日銀による膨大な資金投入を招き、株式市場は国家信用に依存した「官製相場」になっている。アベノミクスの失敗の連鎖は、膨大な金融緩和政策によって円安になると、外国人投資家にとって日本株は下落したことになり、買収しやすくなる。だから株操作によって株価維持を図らなければならない。もしアメリカがゼロ金利政策離脱をはかるなら円安および新興国の軽罪減速となる。ますますアベノミクスは異次元金融緩和を止めることはできなくなる。偽薬が麻薬に変わる瞬間である。安倍政権は、自らの政治的目的(戦前体制への復古)のために、国民の財産である年金を利用し、リスクの高い株式に投入する愚策を延々とやっているのである。「官製相場」によって実体経済がよくなるわけではないので、株式相場の値幅調整機能は働かなくなっている。中国経済の停滞や欧州危機の外来ショックに対する耐性はないので、2016年2月より株価暴落が始まった。この官製相場に支えられて外資系の金融機関や外国人投資家の比率が高まった。外国人投資家にとって円安は株価下落と同じことである。これに米国のゼロ金利解除でさらに円安は進行するので、日銀は年金を投入してまで株価維持を図らなければならない。2014年には外国人株主の株保有率は31%、売買に占める外国人のシェアは60%を超えた。外国人の株保有率が三分の一を超えた企業を「外資系企業」と呼ぶなら、名だたる大企業はほとんど外資系企業になった。外国人株主が40%を超えた企業をあげると、三井住友FG,りそな、第一生命、東京海上日動、損保ジャパン、三井建設、三井不動産、三菱地所、日産自動車、スズキ、コマツ、日立製作所、ソニー、ファナック、栗田工業、オムロン、住友重機、村田製作所、任天堂、コニカミノルタ、中外製薬、アステラス製薬。オリックス、セコムなどが外資系企業である。アベノミクスの「日本を取り戻す」のスローガンは「日本を売り飛ばす」政策なのであった。長期衰退のメカニズムとは金融資本主義での企業行動の変化が大きい。景気循環を「バブル循環」に変え、企業自体も売買の対象とするようになった。こうした仕組みを「グローバリゼーション」の下で受け入れてきた。国際会計基準やBIS規制(バーゼル規制)が国際ルールとなった。国際会計基準ではバランスシートではなくフリーキャッシュフローが重要視されるので、持ち株会社方式が普及し、株主配当重視の短期利益優先の米国型経営となった。このため企業は内部留保を積み立て、デフレ期には国内市場の設備投資はしない。2014年の内部留保(利益剰余金)は354兆円に増加した。企業は純利益の40%を株主還元している。自己利益率ROEが追求される結果、賃金総額は抑制され労働分配率も低下し続けた。2015年6月までの実質賃金指数は26か月連続マイナスとなった。実質賃金の低下は確実に家計消費の現象をもたらす。2010年を100とすると2014年にはどちらも96%に低下している。異次元金融緩和による物価上昇効果で起きているのは消費税増税の影響と円安にともなう輸入物価の上昇分だけである。国内市場がやせ細ってゆく状況では、大手企業は国内に投資せずに、いまや企業買収M&Aや外国投資で稼ぐようになった。輸入原材料に依存し国内市場を相手にする中小企業は経営を圧迫されている。円安による貿易収支の悪化は2012年を境に急激に赤字幅を増やした。以前の半導体、スパコン、液晶パネル、テレビ、携帯音楽プレーヤ、太陽光パネル等の日本製品は競争力を落とした。そして「選択と集中」の名のもとに不採算部門の切り捨て、新興国への移転、技術者の海外流出を招き、日本の電機産業の衰退の一因となった。

1990年代のバブル崩壊後、経済政策は、規制緩和中心の「構造改革」路線と、財政金融政策による景気対策の間を揺れ続け、次第にスケ-ルをエスカレートさせてきた。金融自由化とグローバリズムがもたらしたものは「バブル循環」であった。バブル崩壊がもたらすリスクを回避すると称する金融イノベ―ションが開発され、次のバブルを用意する。企業と官僚は責任を回避するために当面の景気を持たせる対策を取り続けるが、本質的原因(厳格な債権査定と経営責任)は隠蔽したままであるため、かえって対症療法は経済停滞を長引かせ、そしてますます政策手段はエスカレートさせるだけであった。大手企業は株主優先の短期的利益追求によって、不良採算部門の整理統合、事業のリストラ、国際会計基準の導入と相まって内部留保をため込み配当を増やし、株価上昇を期待する。その一方技術開発、人材養成、設備投資を怠ることになった。金と時間のかかるものは敬遠し、現在の経営資源の切り売りで経営体質を脆弱にして蝕んでゆくのである。「アベノミクスの3本の矢」とは、金融緩和、財政出動、規制緩和と旧来の手法の焼き直しに過ぎない。だがそこには出口はなく、長期衰退への入り口が待っていた。つまり日本病を生み出した重要な要因は、不良債権を処理せず、当面の景気対策として財政金融政策という薬を投与し続けて、それも効かないとなると、よりスケールを拡大し(異次元の・・といっても本質的に何も変わらない)、ついには体力(実態経済)を衰弱させるプロセスに入っていくのである。これは抗生物質と耐性菌のイタチごっこである。強い薬ほど体を痛めつけるように、体力のなくなった日本経済には、中国バブル崩壊、欧州経済の停滞、米国のゼロ金利離脱による新興国経済の悪化といった外的ショックに耐えられない。資本主義経済が周期性をもって変化してゆくプロセスでは、間違った予測に基づく介入の結果が次のサイクルの原因となり、間違いが増幅される。日本病は土地バブルの不良債権処理の失敗に始まった。不正会計と経営責任を問わないまま、公的資金注入を行い、財政金融政策と構造改革が繰り返され、100兆円に及ぶ不良債権が公的債務に付け替えられた。国の借金は21015年6月でおよそ1057兆円に達した。これだけの借金を平時に返金した例はない。戦争かハイパーインフレに頼りたくなるのは第2次世界大戦の前であった。国内貯蓄が1400兆円あるので、国内暴落はおきないとされてきたが、日銀が財政赤字を拡大するとそのリスクは確実に高まってゆく。異次元の金融緩和策は出口のない行き着くところまで行く政策である。日銀が量的金融緩和を行っても、銀行から先に金は流れていない。銀行の当座預金勘定が増加している。2015年10月時点で、銀行全体でおよそ246兆円の当座預金勘定が積みあがっている。2015年の銀行預金残高は656兆円に対して、貸付金は454兆円にとどまっている。国内市場が停滞しているために銀行信用が拡大しないのである。銀行経営もまた官製相場に依存しており、収益を上げるには海外しかない状況である。日銀の2015年の買い入れ額は年間110兆円で、2015年国債発行額計画126兆円の90%近くを買い入れている。こうして日銀の国債保有残高は326兆円を超えた。近いうちに日銀が国債の最大保有者になるだろう。もしアベノミクスが物価上昇率を押し上げてゆくならば、金利が上昇し、日銀が天文学的な評価損出を被るリスクを負う。つまりアベノミクスはもし成功したとしても、とたんに破綻する矛盾を抱えている。実質マイナス金利の状況でしか成り立たない日銀の金融緩和政策なのである。何らかの不測の事態で物価上昇が起き、国債価格の下落と金利の上昇が起きそうになると、日銀は国債を大量に買い入れる金融緩和策を止められなくなる。アベノミクスは出口のない政策なのである。赤字財政を削減するために、社会保障費の自然増を抑制するならば、労働法制の改悪とあいまって格差と貧困を一層深刻にし、国内市場を縮小させ経済再生が遠のくだけである。「グローバル資本に国境はない、国内市場がだめなら外国で稼ぐだけだ」というなら何をかいわんや、絆は断たれ日本社会は崩壊する。インフレターゲット論や原発安全神話は、「主観的な事前予測」と言い換え自分の都合のいい結論を最初のモデルとし、都合のいいデータのみで議論する成功シナリオしか描かない。インフレターゲット論は日銀が供給するマネーの多くが当座預金勘定に積みあがったままでは、実体経済に何の効果もないので、官製株バブルは日銀と年金基金が価格暴落のリスクを負うのである。都合の悪い情報にはメディアに圧力を加えて抹殺することは、日本経済を死に至らしめる大きな危険を秘めている。2016年2月高市総務相と安倍首相はテレビ放送局の電波停止権を振りかざして、「公正」を判断基準として政府に非協力的な言動を抑え大政翼賛会的な放送局にしようと画策した。これは自分自身の死を早めることである。「非国民」という死語がゾンビのように復活するのだろうか。

(つづく)