ブログ 「ごまめの歯軋り」

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平成経済 衰退の本質

2021年04月09日 | 書評
京都市下京区西洞院通四条下がる 「杉本家(奈良屋)」

金子勝 著 「平成経済 衰退の本質」 

岩波新書(2019年4月)


② 金子勝・児玉龍彦著「日本病 長期衰退のダイナミクス」岩波新書2016年  (その1)

本書、金子勝著「平成経済 衰退の本質」(岩波新書2019年4月)の方法論をなすのは、金子勝・児玉龍彦著「日本病 長期衰退のダイナミクス」岩波新書2016年であるので、その内容はできるだけ詳しく述べたい。かなり本書と重複しているが分かるはずである。
2012年から始まるアベノミクスに見られるように、日本経済は長期停滞から長期衰退へと変化した。それはインフレターゲット論という予測(期待)の操作を最大の特徴としていた。インフレターゲット論とは、日銀が物価上昇率目標を掲げ、金融緩和で貨幣供給量を増やせば、人々がインフレ期待を抱き消費を増やして経済は良くなるという考えである。マネタリズムともいう。はたしてこの政策はうまくゆくのだろうか。制御のメカニズムが重なった市場では、経済政策は思わぬ副作用を起して頓挫することがある。市場経済政策は病気の治療に似て、多重の制御下において周期的な動きをしながら変わってゆくのである。ダイナミクスとは複雑なシステムが変わってゆく様子を予測する方法である。長期衰退はアベノミクスが直接の源因というより、失われた20年の間に実施してきた政策の失敗の上塗りが遠因であり、かつアベノミクスはその規模を大きくしたことによる。誰も1990年代初期のバブル崩壊の責任を取らず、不良債権を国家財政に付け替えただけで、失敗した政策が繰り返された。長期衰退の兆候はいたるところに見られる。国内総生産の停滞と、円安によるドル建てGDPの急速な減少、産業の国際競争力の低下と日本製品のシェア率の低下、雇用の非正規化と年金など社会保険の破綻の見通し、ブラック企業による過酷な労働の横行、格差と貧困の拡大、少子高齢化と人口減少による地域衰退等々である。日本ではバブル崩壊柄25年経過したが、経済成長はストップし長期の停滞が続いた。その経過は経済政策の失敗だけでなく、構造と科学技術の衰退からもたらされた。特に先端産業における停滞が日本経済の衰退の原因であることは明らかである。半導体、コンピューター、画像デバイスなど電子産業での衰退が著しい。反面原発や新幹線などの半公共事業に頼る社会インフラの輸出が強調される。小泉内閣が掲げた公共事業削減が、第2次安倍内閣では全く正反対の「国土強靭化法」という名の公共事業策に何の反省もなく移ってしまった。産業構造の転換に遅れた旧来型産業の経営者が経済界の中枢を占めて、出口を失った企業が泥沼に陥っている。例えば東芝はアメリカのGEの原発部門を高値で買い取り、かつ不良債権化する原発の損出を隠したことが不正会計事件の原因であった。さらの安倍政権は歴代政府の武器輸出禁止三原則を破り、武器輸出を国策として促進している。そのための貿易保険を適用し、損失が出れば税金で補填するという。集団的自衛権の行使容認で世界中のアメリカの戦争に参加し、日本製の武器輸出を図るということである。結局政府の産業政策は国内市場を作ることができず、競争力を失った既存大企業をンフラ輸出や損出補てん策で救済し、中国や韓国との競合領域で争う状況になっている。旧態依然たる日本企業は、情報通信産業の急激な進歩についていけないという悪循環に陥っている。小泉政権以来の規制緩和が制御系を解体することで経済成長を目指そうとすることが、制御系の機能不全から逆に長期停滞を生み出した。失敗の経済政策の責任者が、安倍政権の下で従来戦略を異常なまでに膨らませ、偽期待感効果を総動員している。偽薬だったつもりの金融緩和拡大(大量の国債引き受けとゼロ金利、マイナス金利)と官制相場(年金基金の株投資投入)が、どこまでもやめられない麻薬となり、天文学的財政債務が日本経済を蝕んでいる。国債を保有する日銀がどこまでも持ちこたえられるか、出口のないまま株価暴落で止めを刺されるのか、いけるところまで行く政策と化している。

(つづく)