ブログ 「ごまめの歯軋り」

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平成経済 衰退の本質

2021年04月12日 | 書評
京都御所 「葵祭 京都府警騎馬隊」

金子勝 著 「平成経済 衰退の本質」 

岩波新書(2019年4月)


② 金子勝・児玉龍彦著「日本病 長期衰退のダイナミクス」岩波新書2016年  (その4)

金融資本主義は企業そのものを売買の対象とするため1990年の国際会計基準はそのルールとなった。グローバリズムが席捲し世界中で中期の周期性は、1980年代後半は不動産バブル、1990年代末はITバブル、2000年代半ばは住宅バブルという様に10年ごとにバブルとその崩壊が繰り返される「バブル循環」へ変質した。株価や不動産などの資産価格が景気をけん引した。そして他方でレーガノミクスに始まる「新自由主義イデオロギー」に基づいた労働市場を含めた規制緩和政策が採られた。金融緩和と構造改革の政策バッテリーは資産を持つ者の地盤をより一層有利にし、非正規雇用者を貧困に落とし格差の拡大を猛烈に進めていった。1980年代末の世界的な不動産バブルが発生し、1990年代には投機マネーが襲い、金融通貨危機が次々と発生した。92年の欧州通貨危機、94年メキシコテキーラ危機、アルゼンチンの通貨危機、97年東アジア経済危機、98年ロシアのデフォルト危機、2000年アメリカのITバブル崩壊が起きた。東西冷戦が終焉した1990年代にアメリカの情報・金融産業の覇権が強まり、日本は90年代からバブル崩壊の不良債権処理に失敗して衰退した。ヨーロッパはEUを組織して独自経済圏の囲い込みに成功した。法制化された金融市場の規制の束が剥がされるたびにバブルは悪化し、パッチワーク式に応急策がとられ(BIS規制、バーゼル2)、量的金融緩和策が繰り返された。「影の銀行システム」と言われる金融規制を迂回する仕組みや、プログラムで取引をする「ハイフリークエンシートレーディング」のような情報技術を応用した金融工学が拡大した。その結果2008年サブプライムローンをきっかけに起きたリーマンショックのため世界中が経済危機に陥った。米欧日の中央銀行は政策金利をゼロにし、金利機能をすべて殺したため、金融市場は麻痺状態に陥った。経済の制御系が壊れてゆく過程をたどってゆこう。日本経済の長期衰退期は、市場経済の制御系が次第に破壊されてゆく過程でもあった。中曽根時代の新自由主義的政策にはまだバブルを引き起こす力が残っていた。バブルがはじけ大量の不良債権が発生すると急激な信用収縮が進み、政官財の無責任体制で制御の仕組みが破壊された。素政府は低権利製作や財政政策で銀行の流動性を供給して当面の破綻を防いだものの、貸し渋りや貸しはがしが横行し中小企業の弱い部分から壊滅した。1990年代は「失われた10年」となり、長期停滞を産み落とした。

(つづく)