☆「アクティブ・バイスタンダー」
「日本に劣らず「痴漢大国」であり、かつ同じく被害者が声をあげ難い社会である」エジプトに、「ハラスマップ」という団体がある(2010年設立)という話を、後藤絵美さん(東京大)が雑誌「f visions」(アジア女性資料センター発行) 6月号に書いている。
「ハラスマップ」発起人の4人の女性が呼びかけたのは、「ハラスメント行為が起きそうなときや起きたときに、周囲が各々に適した方法で行動を起こすこと」だった。ウエブサイトには、「あなたが声をあげたとき、止めに入ったとき、誰かがあなたを見ている。その人は感化されて、次にあなたと同じ行動をとるかもしれない」と書かれているという。
その論稿を読んだ数日後、NHKの「視点・論点」(7月29日)で、小笠原和美さん(慶応大、写真)が、「性暴力のない社会を目指して」と題した話の中で、子供向けに性暴力を許さない啓発をする絵本があるとし、その中で、友だちの被害を見たときに声を上げることの大切さが強調されていると紹介していた。
小笠原さんによると、それを「アクティブ・バイスタンダー(Active Bystander)」というそうだ。「加害者・被害者だけの問題とひと事にせず自分のこととして捉え行動する」ことだという。
“行動する第三者”とでも訳せるのかもしれない。後藤さんが紹介しているエジプトの「ハラスマップ」はまさに「アクティブ・バイスタンダー」の運動化にほかならないだろう。
すぐに思ったのは、「アクティブ・バイスタンダー」の重要性は、セクハラ・性暴力に対してだけではないことだ。学校内の「いじめ」もそうだろう。
とりわけ重要なのは、在日コリアン、そして技能実習生など日本にいる外国人に対する差別・人権侵害に対してだ。差別の場に居合わせたとき、見聞きしたとき、われわれは声を上げているだろうか。被害者を孤立させていないだろうか。
先の論稿を後藤さんはこう結んでいる。「エジプトのハラスマップがとった方法―周囲の積極的な介入を促すこと―もまた、日本社会全体の「空気を変える」ために有効なように思われる」
確かにそうかもしれない。「アクティブ・バイスタンダー」が普及・定着すれば、この焦げ付いた日本社会も、変わっていくかもしれない。いや、その前に、どんなときも自分が「アクティブ・バイスタンダー」であり続けなければならない。
☆俵万智とコロナ・東京五輪
『サラダ記念日』『チョコレート革命』など恋愛歌人の印象が強い俵万智だが、最新歌集『未来のサイズ』(2020年9月初版、角川書店)はひと味違っていた。
濃厚な不要不急の豊かさの再び灯れゴールデン街
殺人の婉曲表現「人災」は自然のせいにできないときの
国、首相、社長、官僚 見殺しの方法ばかり歴史に学ぶ
声あわせ「ぼくらはみんな生きている」生きているからこの国がある
何一つ答えず答えたふりをする答弁という名の詭弁見つ
この道はいつか来た道ああそうだ茶色の朝に聞こえるノック
(フランク・パヴロフ著『茶色の朝』―引用者)
「ただちには」ないってことか戦争も徴兵制も原発事故も
自己責任、非正規雇用、生産性 寅さんだったら何て言うかな
(寅さんシリーズには「寅次郎「サラダ記念日」」あり―引用者」
<東京オリンピック2020>
テンポよく刻むリズムの危うさのナショナリズムやコマーシャリズム
「あとがき」で、この歌集の期間(2013~2020)は「子育てを通して、社会のありようへの関心を深めた時期でもあった」と述べている。また、現在の宮崎に移る前に「まる五年間暮らした石垣島」の体験も大きかったと。
「子育て」と「沖縄」が俵万智の新境地を開いた。