安倍政権とIOCは24日やっと東京五輪(パラリンピックを含む)の「1年延期」を決めました。諸外国やアスリートからの批判が高まってきたためです。しかし、「延期」では問題の解決になりません。現在の五輪は、「廃止」を含め抜本的に見直すべきです。
「延長」に至る経過の中で、五輪の本質的問題が改めて浮き彫りになりました。
第1に、五輪の政治利用です。東京五輪は招致(2013年9月)の時から安倍晋三首相と森喜朗組織委会長の政治利用の標的になっています。
今回、安倍氏の最大の狙いは「中止」の回避でした。「政権にとって五輪開催は政治的遺産(レガシー)と位置付けられ、中止回避は『最優先の課題』(関係者)」(25日付共同配信)だったからです。
「延長」を2年でなく1年としたのも、「首相の自民党総裁3期目の任期満了は2021年9月末。『2年延期』で22年夏の五輪となれば首相の退任後となる」(25日付毎日新聞)からです。そこには、東京五輪を政権の“業績”にし、あわよくば総裁4選、そして安倍政権のさらなる続行を狙う思惑があります。
第2に、五輪の商業主義です。IOCはコロナ感染の広がりにもかかわらず数日前まで頑強に「予定通り開催」にこだわりました。収入減を避けるためです。
「IOCの強硬な姿勢は異様にも映る。背景には巨額の協賛金を払うテレビ局や企業への配慮や、中止による大幅な減収への懸念が考えられる」(19日付沖縄タイムス=共同)
そのIOCが「延期」に踏み切った背景にも、「IOCの収入源の一つで、五輪大会への影響力がある米テレビ局NBCが、延期を受け入れる意向を打ち出したのも大きかった」(25日付朝日新聞)といわれています。
第3に、巨額の税金投入です。中止でなく「延期」することによってさらに巨額の追加費用が必要になります。大会組織委関係者は、「1年程度の延期で追加費用は3000億円」(25日付毎日新聞)と試算しています。
そもそも「組織委は大会経費の上限を総額1兆3500億円(予備費を除く)と設定したが、会計検査院は関連経費を含めれば3兆円を超えると指摘」(同毎日新聞)しています。
東京都の幹部は、「延長」によって都が負担することになる追加費用は「1千億円はくだらないのではないか」(25日付朝日新聞)とみています。「大会招致時に、都の負担として明確に示されたのは新しい会場の整備費1538億円のみ」だったにもかかわらず、すでに「都はこの4年間、関連経費を含めると大会予算計1兆3700億円を計上」(同)しています。「延期」はこれにさらに「1千億円」以上追加することになるのです。
それでなくても新型コロナ対策で財政出動が求められているとき、五輪にこれだけの巨費(税金)を投じることが妥当かどうかは明らかでしょう。
第4に、招致問題です。五輪にこうした巨額の費用がかかることから、招致に名乗りを上げる都市(国)は減少の一途をたどっています。今回、IOCが「中止」を回避したかったのも、「中止になれば、五輪の開催費高騰に伴う立候補都市のさらなる減少を招く恐れがある」(25日付共同配信)と考えたからだとも報じられています。
招致をめぐってはIOC委員への賄賂も後を絶ちません。武田恒和JOC会長(当時)もその疑惑で会長の座を降りた(19年1月)ことは記憶に新しいところです。
こうした諸問題のほか、商業主義とあいまって各国のメダル至上主義が強まり、五輪が「憲章」の精神にも反して国家間の競争、国威発揚、国民統合の舞台となっていることは周知の事実です(日本の場合、これに天皇制が絡みます)。
記録や勝利に向けて努力・健闘するアスリートの姿、フェアプレーの試合は感動的です。だからこそ、アスリートの努力が生かされ、スポーツの素晴らしさが発揮される場を、国家の壁を越えて(壊して)、新たにつくる必要があるのではないでしょうか。現在の五輪がその場になりえないことは明白です。