泉鏡花の短編、「竜潭譚」には満開の躑躅(つつじ)が多く描写されている。
その色彩の鮮やかさと、ただならぬ量感が妖気をおび、
躑躅という植物が見えない恐怖あるいは幽玄な美しさを生み出している。
路の左右、躑躅の花の紅なるが、見渡す方(かた)、見返る方、いまを盛りなりき。
行く方(かた)も躑躅なり。来し方も躑躅なり。山土のいろもあかく見えたる。
両側つづきの躑躅の花、遠き方(かた)は前後を塞ぎて、
日かげあかく咲込めたる空のいろの真蒼き下に、
彳(たたず)むのはわれのみなり。
目もあやに躑躅の花、ただ紅の雪降積めるかと疑はる。
泉鏡花 「竜潭譚」 より抜粋
躑躅の路。行けども行けども帰る家は近くならない。
姉にだまって出てきた悔恨が少年の心を不安にさせる。
途中でみかける鮮やかな蟲は躑躅の奥から現れた美女の化身だったのか?
不思議な一夜。 物語のラストは夥しい量の水で町は水没する。
現実と夢想のぎりぎりを描いた泉鏡花の作品。
花言葉◆燃える思い、情熱
他に使用した花◆パンジー