皆川博子さん、『骨笛』 再読

 皆川さんにどぷり…。まだしばらく浸っていたい。今回も再読。妖しく哀しく、怖い連作短篇集です。
 『骨笛』、皆川博子を読みました。 

 くっきりとした輪郭と、危なげな魅力をあわせ持つ少女たちの棘に、うかうかと刺される「沼猫」や「夢の雫」。生者と死者の何気ない出会いと、透明な交流を描いた「月の光」、「冬の薔薇」…などなど。どこがどう繋がっているのか、散りばめられた符牒を掬い上げていく楽しみは、連作集ならでは。

 嗚呼、それにしても。
 小説の中の少女たちは、どうしてあんなに不思議な存在になれるのだろう? そう、例えばまるで猫の化生でもあるかの如く。 
 残酷で無垢で、気まぐれ…かと思うと頑な。くねりくねりと捉えどころがない。そして、とても気むずかしい。いつか失われることを約束された上での、一瞬の煌きのように研ぎ澄ましたその魔性を、惜しげもなく見せつけてくる。あくまでも観念的にのみ存在し得る、物語の内側に永遠に縫い止められた…そんな、少女たち。
 マユ、泉、そしてミオ…。からかうように嘲るように、そして徒に誘うように、私の瞳の奥を覗き込んでは身を翻し去っていく。それはそれは軽やかに、私の行けない向こう側へと。 

 この、常識という名のクリームをまんべんなく塗り付けた物憂い世界にも、繋ぎ止めてくれる大切な存在がある限り、私はここから逸脱することはない。それは、分かり切ったことだけれど…。ほんの束の間の、現実からの逃亡。その感覚に、溺れさせてもらうこと。皆川作品を読む醍醐味は、そんなところにあるのやも知れず。ただただ、うっとりと。
 (2006.8.11)

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