ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/07/14 国立劇場鑑賞教室「毛谷村」にも満足

2006-07-17 14:03:47 | 観劇
国立劇場の歌舞伎鑑賞教室を急遽今月も観ることにした。社会人のための鑑賞教室に行けば上演台本つきの冊子がいただけるし、直前なので当日引取りでいいし、二等席がとれて1500円だというのも有難い。
1.「歌舞伎のみかた」
これにつきあうことに躊躇してはいたのだが、男女蔵の解説の評判がよかったのでちゃんと観る。袴姿に茶髪の今風の若いパパという感じ。ゆっくりとキーワード(もそうでないものも)を繰り返しながら丁寧に説明する姿に好感を持った。「おめちゃんとでも呼んでください」には少々無理も感じたけれど(笑)
今月は国立劇場の研修風景映像もまじえながら18歳から27歳までの研修生6人を紹介。志望動機などもききだすなど、鑑賞教室の若い観客には同世代が頑張っている世界により親しみを持ってもらおうというねらいがあるようだった。
スクリーンを多用し、「毛谷村」の概説にも人物関係図などもわかりやすかったのもよかったと思う。しかし、微塵弾正を「デビルデビルデビル、デビルの3乗のような悪」っていう説明は.....さすが男の子のお父さんかも。

2.「彦山権現誓助剣-毛谷村-(ひこさんごんげんちかいのすけだち-けやむら-)」
日本には仇討ち物が多数あり、この作品の主人公の毛谷村六助は天正年間に剣術の師匠の敵・京極内匠を討ったとされている。天明6年に大坂で人形浄瑠璃芝居として初演され、翌年には歌舞伎化されて江戸でも評判をとって人気演目のひとつになっているという。見取り上演では「六助住家」のみが多い中、今回は「杉坂墓所」も加えるのでよりいきさつがわかりやすいという。あらすじは以下の通り。
「杉坂墓所」の場
豊前国彦山麓の毛谷村に住む六助は剣術の達人。領主からも仕官を望まれているが断り続けている。かつて吉岡一味斎から秘伝を授けられていた折の教えを守っているのだが、「毛谷村六助に勝った者を召抱える」という旨の高札が領内の随所に出されていた。幕開けは彦山杉坂にある在所墓で六助が亡母の墓に小屋がけをして四十九日の通夜の最中。そこに老女を伴った浪人者が通りかかり、六助と知ると微塵弾正と名乗って願い事を申し出る。死期の迫った老母のために仕官の夢をかなえたいというのだ。母への孝養の思いに打たれた六助はわざと試合に負けてやる約束をする。六助が水を汲みに沢に下りたところに一人の老人が山賊に追われてきて襲われる。六助が戻って山賊を追い払うが既に瀕死の重傷。伴っていた幼子を六助に託して息を引き取る。
「毛谷村六助住家」の場
約束通り弾正との試合にわざと負けてやる六助。うって変わって尊大な態度で六助の眉間を割る恥辱も与えて去る弾正。それでも親孝行を助けた思いで見送る六助。
そこに旅の老女がやってきてこの宿の主が六助と気づくと「休ませてほしい」と上がりこみ、さらには「母にしてくれ」と手土産の切餅(50両の包み)を投げてよこす。それを「思案させてほしい」と投げ返し、奥の一間で休ませる。
亡母の回向の念仏の鐘の音に外で遊んでいた幼子が帰ってきて「母に会いたい」と泣く。母恋しさの思いに自分も重ねてともに泣く六助。
幼子の着ていた四つ身を外に干していたのに目をつけて謎の虚無僧が現れる。偽の売僧と見破られると六助に「家来の敵」とうちかかる。編み笠をとった女姿に「伯母さま」とかけよる幼子を抱きかかえての立ち回り。六助が事情を説明して名乗ると態度は豹変。その女は六助の女房だと言い出し押しかけ女房のように勝手に炊事を始め空焚きをしたりの大失態を演じる。ようやく自分は一味斎の娘お園と名乗り、父はお園を六助と娶わせようとしていたこと、幼子は妹の子どもであることを語る。驚きながらも師が息災かを尋ねる六助に、父が同じ家中で剣術師範をしていた京極内匠に暗殺されて自分が敵をたずねて歩いていたことを打ち明ける。そこに奥から老女が現れて一味斎の妻でお園の母のお幸であると名乗り、許婚どうしの婚礼を挙げさせる。六助は師であり義父にもあたる一味斎の敵をともに討つことを約束する。
そこに同じ村に住む斧右衛門の母の遺骸が運び込まれ、微塵弾正の偽母の役目を終えて殺されたことがわかる。自らを欺いた弾正への怒りを燃え上がらせる六助。斧右衛門の無念の思いを晴らしてやると約束する。
お幸が持っていた敵の京極内匠の人相書きなどで弾正が同一人物であることが明らかになる。あらためて御前試合を申し入れ、正体を暴いた上で敵討ちを上申することにして裃姿に姿をあらため、お園からは紅梅の枝をお幸からは白椿の枝を餞に贈られて出立するという絵面に決まって幕。

梅玉の六助と芝雀のお園はそれぞれ何回もつとめているが共演は初めてだという。お二人ともくせがないさっぱりしている印象がある。梅玉は台詞もよく通って聞き取りやすいのが好き。ただ二枚目の役はどうも物足りないのだが、こんなに子どもに優しく誰からも好かれるような好人物を演じるには適役だと思った。
お園の役というのは女武道できりりとカッコよく、許婚に出会うと途端にしおらしく豹変する魅力的なキャラクター。この演じわけがきちんとできるかどうかが問われるのだと思うが、芝雀は最近父譲りの可愛らしい芸風の魅力がどんどん出てきているようでしおらしい演技がなかなかよかった。

微塵弾正役の松江はこういう悪役は初めてということだったが、なかなか堂々としていた。これも襲名による自信がついてきたためだと思う。息子の玉太郎が幼子弥三松役で出ていて可愛らしかったが、自分の為所が終わるとボーっとしていてまだまだお芝居が好きになっていない様子。梨園の子どもって大変だ。

歌江のお幸もきりりとしていてよい。切り餅のやりとりの場面などは客席がどよめいていた。立役どうしではこういうやりとりがよくあるが、老女とのやりとりは珍しいのだと思うし、剣術の名人の妻としての格を匂わせる演出なのだろう。
最後に弾正から送り込まれた忍びの浪人役で梅玉の弟子の梅之が頑張ってくれていて嬉しかった。隙をついてお園の命をねらうがあしらわれ続けて最後は成敗されるのだが、難しい姿勢からとんぼを切ったり身体の動きの良さがかわれたのだと思うが、お園の豪傑ぶりを強調するための存在なので自分を主張しすぎてもいけないし目立たなさ過ぎてもいけないだろう。そこをすっきりとした拵えと動きのよさできちんとつとめていたと思う。
今回公演の満足度もなかなか高かった。

座頭が梅玉丈ということで演目の選定もされたようだ(昼の方のプログラムに書いてあった)。鑑賞教室の演目決めはどのようにしているのだろうと思っていたのだが、やはり座頭を決めてその方が他のキャストのことも目配りしながら演目を決める権利を持つのだなあとあらためてうかがい知った次第。
芝雀丈についてはこのところの株の急上昇を今回も確認。歌舞伎座ではなかなか立女形の役が回ってこない位置にいると思うが、こうしたところで一役一役を立派にこなしていく時期なのだろうと思う。

写真は「毛谷村」のプログラム表紙より芝雀のお園の虚無僧姿。
「毛谷村」に興味が湧いた理由を書いた記事はこちら
6月の鑑賞教室「国性爺合戦」の感想はこちら
先月には資料と一緒にアンケートをいただいた覚えがないのだが、今月は提出すると粗品進呈のアンケートがついていた。字幕についての受け止め方をきく設問もあった。幕間にしっかりと書いて最後になにやらミニペンをいただいた。
終演後、3階席のロビーでharukiさんと遭遇。短時間だったがミニミニオフ会とあいなり、楽しくおしゃべりさせていただいた。またよろしくm(_ _)m