病院の待合室に置かれた水槽の底に、スッポンモドキが微動だにせず這っていた。(写真)
いつもは、この一匹だけが水槽の住人として、ゆるやかに上下左右に動いている。そんな姿しかみたことがない。
毎日、看護婦から定期的に餌をもらい、苦労もなさそうに生きている。
何が楽しくて生きているのだろう? そんなことを思いながら眺めた日もある。人間だって似たようなものだろうかと考えたりもした。
命があるから生きている、明日はないかもしれないと、ちらと寂しいことを思いながら、今日を生きている。スッポンモドキも、そんなことかもしれない。
ところが、今日は様子が異なっていた。
スッポンモドキが動かない。四肢も頭部も、底の砂利に這わせ、小岩のように沈んでいる。おや? と思いながら、顔を近づけ、指でとんとんガラスの面を叩いてみた。動かない。
眠っているのだろうか? もしかして死んでいる?
私は、しつこく水槽のガラスを叩いた。
しばらくして、わずかに頭部が動いた。
<寝てたの? ゴメンナサイ!>と、私は無音の呟きを発した。
と、その時、私の右隣から声がした。
「よかったですね。生きていて!」
私のかけた長椅子に、患者の一人が来て坐られたことに、私は全く気づかなかった。私同様、静止したスッポンモドキを不審に思って眺めておられたのかもしれない。
私は、稚気を見透かされたようで、少々恥ずかしくなりながら、
「お休みしてたのですね」
と、言った。
「こんなに小さかったのに…」
と、その人は、親指と人差し指で、大きさを示された。
私が水槽の中の小動物に気づいたのは、もっと大きくなってからのような気もしたが、確かに、その成長は著しい。
スッポンモドキも、亀の仲間だから、長寿なのかもしれない。
この病院を訪れる、たくさんの患者の悲喜こもごもを、これから末永く、水槽の中から見続けることになるのだろう。
ゆらゆら水中に揺れたり、今日のように眠りをむさぼったりしながら……。
いつもは、この一匹だけが水槽の住人として、ゆるやかに上下左右に動いている。そんな姿しかみたことがない。
毎日、看護婦から定期的に餌をもらい、苦労もなさそうに生きている。
何が楽しくて生きているのだろう? そんなことを思いながら眺めた日もある。人間だって似たようなものだろうかと考えたりもした。
命があるから生きている、明日はないかもしれないと、ちらと寂しいことを思いながら、今日を生きている。スッポンモドキも、そんなことかもしれない。
ところが、今日は様子が異なっていた。
スッポンモドキが動かない。四肢も頭部も、底の砂利に這わせ、小岩のように沈んでいる。おや? と思いながら、顔を近づけ、指でとんとんガラスの面を叩いてみた。動かない。
眠っているのだろうか? もしかして死んでいる?
私は、しつこく水槽のガラスを叩いた。
しばらくして、わずかに頭部が動いた。
<寝てたの? ゴメンナサイ!>と、私は無音の呟きを発した。
と、その時、私の右隣から声がした。
「よかったですね。生きていて!」
私のかけた長椅子に、患者の一人が来て坐られたことに、私は全く気づかなかった。私同様、静止したスッポンモドキを不審に思って眺めておられたのかもしれない。
私は、稚気を見透かされたようで、少々恥ずかしくなりながら、
「お休みしてたのですね」
と、言った。
「こんなに小さかったのに…」
と、その人は、親指と人差し指で、大きさを示された。
私が水槽の中の小動物に気づいたのは、もっと大きくなってからのような気もしたが、確かに、その成長は著しい。
スッポンモドキも、亀の仲間だから、長寿なのかもしれない。
この病院を訪れる、たくさんの患者の悲喜こもごもを、これから末永く、水槽の中から見続けることになるのだろう。
ゆらゆら水中に揺れたり、今日のように眠りをむさぼったりしながら……。