ぶらぶら人生

心の呟き

ナズナ咲く

2008-03-07 | 散歩道
 昨日、海辺の小屋で、浜の漁師と話している友達と別れて、私は帰路に着いた。久しぶりの散歩なので、海辺を背にして上る、急勾配の坂道が応えた。坂を上りつめると、そこは平坦な、私の名づけた<トランペットの丘>である。
 
 海の見える丘に、色とりどりのエンジェルストランペットを植え、通りがかりの人を楽しませてくださるSさんが、その近くにある畑で、ちょうど仕事中だった。私が、<花づくり名人>と勝手に呼んでいる人である。
 永らく散歩をサボっていたので、Sさんにお会いするのも、実に久しぶりであった。私は足を止めて挨拶し、坂道を上ってきたばかりの荒い呼吸を整えた。

 Sさんの方は私と話している間も手を休めず、草取りに余念がなかった。
 草を抜かれた畑の土は、草色から黒褐色に変わってゆく……。
 大方の草は、オオイヌノフグリのようだった。
 私は、畑の近くにしゃがんで、春の野に命を吹き返し始めた草花を眺めた。雑草の花は、申し合わせたように地味で、花も小さい。
 紫色の「オオイヌノフグリ」が、今一番目立つ雑草だが、「ナズナ」(ペンペン草)も、潮風に抗うように咲いていた。厳しい海風に苦しめられ、茎はいじけて伸び悩み、春草らしい勢いはない。(写真)

 Sさんとの雑談は、雑草の話から、先ほど見て来た若布の話になった。
 Sさんの住まいは、土田海岸に近い集落にある。
 かつては船を持ち、漁業を生業として、若布採りもされていたのだという。海の仕事だけでは生活が成り立たず、船も手放してしまったと話しておられた。しかし、経験者なので、船に乗って海に出て、どのように若布刈りをするのか、その動作の一部始終を具体的に話してくださった。
 船は波に揺れるし、若布も波に揺らぐ。その状況の中で、若布を刈り取ったり、引き上げたりするのは、そう容易なことではない、と。想像では、結構のどかで、楽しそうに思えるが、実益を考えながらの仕事となると、確かに大変だろう。

 Sさんと話しているうちに、海風を直接受けた左耳が、我慢ならない痛さを感じ始めた。暖かそうな日差しが注いでいても、海風はまだ冷たい!
 引き上げようとしたとき、先ほど浜辺で別れた友達が、バイクで坂を上ってきて、<さよなら>の合図に片手を挙げて、走り去った。
 私は、左耳を左手で覆い、暖を取りながら、帰り道を急いだ。
 耳だけでなく、身体の芯にまで、寒さが沁み透った気がした。
 大地には春草が芽生えても、まだまだ冬の名残は留まっていて、じっと佇むには寒過ぎる午後であった。 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

若布干し

2008-03-07 | 散歩道
 昨日も、天気予報が当たらず、好天に恵まれた。
 家に潜んで暮らすのがもったいない気がしたし、運動不足ぎみでもあったので、午後、散歩に出かけた。
 ただ、外に出てみると、意外に風が冷たかった。

 朝の散歩コースとは異なる道を辿って、久しぶりに海辺に出てみた。
 波打際に沿って歩き、来た道を引きかえそうとしたとき、海を眺めている同級生に出会った。過日、水仙の里への入り口で、偶然出会って、お焼きをご馳走してくれた友達である。改めてお礼を言うと、お焼きの一つ二つ、と意に介さない様子であった。

 海に係わりを持つ人は、よく海を眺めている。
 散歩の道すがら、しばしば、そんな光景に出会う。時には車を止めて、またある時には、友達のようにバイクを止めて。しかも、かなり長い時間。
 明らかに、私が海を眺めるのとは、その目線に異なる色合いを感じる。獲物を探る目とでもいえばいいのだろうか。どこか真剣みが違う。

 「明日の朝、若布を採りに来ようか、どうしようかと思って…」
 と、何の目的があって海に来たのかを尋ねた私に、友達は言った。
 「あそこらの海を見て! 黒ずんでるでしょう。あそこには若布がある」
 と、友達は言った。
 私は、今まで、単なる岩礁としてしか眺めていなかった。そこにある海草の若布や魚介類を想像したことがない……。
 今が、若布の旬なのだそうだ。これから四月ごろまで。
 若布が長けてくると、色も落ち、品質も下がり、売値も安くなるのだと、友達は教えてくれた。

 漁船のつながれた入り江横の広場には、若布が干してあった。
 「今日は、風があるから、よく乾くと思うよ」
 と、友達は、干してある若布を指差して言った。
 若布の干し場には、漁師の姿があった。乾き具合を点検している様子だった。
 私は、友達と入り江に下り、半乾きの若布を見せてもらった。(写真)
 竿から垂れ下がった若布は、絶えず風になびき、カメラに収めるのに難儀した。

 海辺の近くに生活しながら、若布干しの光景を見るのは初めてだった。
 夕方までには乾いて、明朝には出荷されるのだという。
 若布の香りが、そこら一帯に漂っていた。
 春の海の香りであった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする