すべてをひとつのことばに収めるように
心はおのれのたしかさを求めるように歩みたがる
思い知ったほうがいいことがある
どんな方角へ向かって歩んで行っても
心の外でことばをつづることはできない
*
夕日に照らされて川辺の道をともにしながら
なにも云わないでいることが小さな華やぎをつくり
茜色に染まった空がきらめき
シルクのつぶやきが風景を美しく織り上げる
「きれい」
つたえたいことばがあって
つたえられる相手がいて
つたわる地平に生きている
ふたりがふたりともに
感じているものを感じ合っている
そんなたしかさがひとりの心を満たしている
どこにも表示されない瞬きの時があって
そしてそれが幻であったことを思い知る
心がちりぢりに砕け散る転移の時がある
「なんとも思わない」
転移の時に出会ってはじめて思い知る
ひとりの心のうちに結語できない経験の本質について
そしてそれだけではない
ひとつの記述に収めることの傲慢
別の生を歩んでいる別の心に踏み入る独善について