写真は雲南の文山地区の白酒の一つ「小村姑」。村の娘、という素朴なネーミングだが、じつは地名でもある。トウモロコシと八宝香米と水で発酵されたもの。「小曲清香型」と小さく書かれているのは、酒の特徴を記したもの。
曲は音楽のことではなく、麹(コウジ)を穀類を砕いて水で溶いて固めて煉瓦状にし、クモノスカビを生やせた「麯」をつくるのだが、その簡体字が「曲」。小曲は餅麹が一般に小さい形をしていて、お米を主体にして香草(薬材)を混ぜ込んだもの。香草は地域により蔵により異なり、数十種類をブレンドしたものもある。大曲は煉瓦状の大きなもので代表的なものは麦、エンドウ豆などでつくられる。ほかふすまを固めた麸曲との3つが代表的な餅こうじだ。
雲南の西南地区はたいていが「小曲」。家内制工場には使いやすいタイプなのだ。
白酒は香りが特徴なので香りにもいろいろある。「清香型」はさわやかな香り。ほかに「醤香型」「濃香型」「兼香型」「米香型」など、さまざまな呼び名がある。
【陶淵明の酒】
六朝時代の陶淵明の詩の一つ「飲酒」の第20首に
「若(も)し復(ま)た快飲せずんば、空(むな)しく頭上の巾(きん)に負(そむ)かん〈快く酒でも飲まなければ、せっかくかぶっている酒漉しの頭巾に申し訳がたたぬ〉」
と書かれています。つまり自分の頭巾で酒を漉していたのです。
当時、自家用の酒などは甘酒のようにどろどろとしたまま、熟成させていました。頭巾は麻など、目の粗い素材。漉して飲む、ということは蒸留酒ではなく、醸造酒だったことがわかります。
陶淵明といえば、日本でも中学や高校の国語の教科書で田舎に帰って自由な生活をおくろうという『帰去来の辞』や桃源郷の言葉の起源ともなった『桃花源記』が有名な詩人。当時の政治の腐敗を嫌い、官僚から身を引いて、田舎暮らしを楽しもうとした詩で知られています。
楊慎は自らの境遇を重ねて、陶淵明をきどって酒を頭巾で漉したのかもしれません。
※茂田井円・松井康子「陶淵明と酒」(『日本醸造協会誌』第86巻、第8号、1991)
(つづく)