たにしのアブク 風綴り

86歳・たにしの爺。独り徘徊と追慕の日々は永い。

澤田ふじ子著・長編時代小説「もどり橋」を大活字本で読みました

2017-04-07 13:37:09 | 本・読書

最近、こんな本を読みました。
大活字本シリーズの<上><下>2冊の長編時代小説、澤田ふじ子著「もどり橋」
底本は中央公論新社 (中公文庫)です。

なぜ、この本を手にしたのかというと、例によって、
池波さんの「鬼平犯科帳22巻・3分冊」を借りて、後の2冊分として目に付いたからです。
澤田ふじ子という作家の本を初めて読むことになりました。



京都――上嵯峨野村の百姓の娘・お菊は15歳になる前年、
働きものの父、病状の母と二人の妹弟をおいて、
三条東洞院の料理茶屋・末広屋に5年の季奉公に出ることになった。

お菊は、奉公先を紹介してくれた仲買人の与兵衛に伴われて旅だった。
やがて堀川に架かる「一条もどり橋」にさしかかる。
ああ、「あれがもどり橋どすか――」
この世とあの世の境界とも言われ、何かと死にまつわる因縁が付きまとう。
刑場の様を見てしまったお菊は、身のひるむ思いに駆られるのだった。



末広屋に着いたお菊を待っていたのは、しきたりの厳しい京料理の調理場だった。
何よりも仕事の仕分けと序列による厳しい修業を知ることだった。
板場頭の留五郎のもと、脇板、煮方、脇鍋、焼方、八寸方(盛方)、
立回り、見習い、下洗いなど、あらゆる雑用をさせられる追回しからなっていた。
煮方以上が一人前として扱われ、それまでは職人ととして扱われなかった。



お菊は寂しさと不安のなか日々、身を粉にして立ち働くのでした。
修業人の中には有名料理屋の息子で何かと横柄な才次郎、その腰巾着の市松。
武家の御賄人の嫡男の小仲太、生真面目な又七らの同輩と、
女中頭のお千代、雑用のお小夜の下、
しきたりや仕事の手順にも慣れていく日々となった。

お菊はやがて、一方的なものと知りながら又七と心を通わせるようになる。
又七もまた、お菊の存在が日々の励みになっていた。
その又七が主の目に留まり、跡取りの一人娘・奈みの婿養子に入ることになる。



又七とは約束した訳でもないお菊には、どうすることもできない。
落胆ぶりを見せないように立ち振る舞うお菊ではあったが、‥‥‥‥
憔悴ぶりは誰の目にも明らかだった。

そんなお菊にある日、思いがけない訪問者が末広屋に訪れていた。
お菊の運命を拓く大きな虹がかかっていた。
彼女の胸裏で、堀川のもどり橋と冬の虹が一つに重なった。



有名料理屋の調理場で困難や失敗にめげず、
未来を切り開いていく若者群像の姿が清々しい長編時代小説。
物語の舞台は京の料理茶屋ということで、
京の食べ物や当時の料理界の様子がきめ細かく描かれています。



料理に関しては日ごろ、まったく何もしないたにしの爺、
一生懸命働く人の運命には十分興味深く読めました。
会話がすべて「京ことば」で書かれているのも慣れるのには苦労しました。



作家・澤田ふじ子、初めての作家でした。
巻末で清原康正氏が解説で作家・澤田さんについて述べています。
作者のデビューから最近まで、また、作品系列について詳細に紹介しています。
時代小説で捕り物から江戸市井物まで描く凄い作家だということを知りました。



池波さんの「鬼平」もそうですが、
藤沢周平、山本周五郎はじめ、時代小説には清々しさがありますね。
澤田さんの小説、これから気にかけて読んで行きたいと思います。