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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「羊の木」は面白いんだけど…

2018年03月04日 22時38分58秒 | 映画 (新作日本映画)
 吉田大八監督「羊の木」は、吉田監督の才能がよく判る面白い映画で、ヒットもしてるようだ。山上たつひこ原作、いがらしみきお作画のマンガの映画化だが、僕はそれは知らない。だけど、テーマが「殺人受刑囚の仮釈放と更生可能性」といったものだから、関心を持たざるを得ない。

 「刑務所にかかる費用の削減」と「過疎対策」を目的に、国家的極秘プロジェクトが実行される。普通なら仮釈放にならない受刑者を、10年間ある地域に定住するという条件で特別に仮釈放する。職業と住居は受け入れ自治体が責任を持って探す。プロジェクトは極秘とされ、地域住民も、仮釈放者どうしも、それどころか自治体内でも担当者以外には何も知らされない。

 ということで、日本海側の「人もいいし、魚も美味い」魚深市に6人の前科者がやってくる。担当者の月末一錦戸亮)だけが、上司から事情も告げられずに6人を出迎えることになる。まあ、大体の設定は観客も知って見てると思うが、月末も次第になんとなく気づいていって、上司に詰め寄ると前記のようなプロジェクトだと言われるわけである。

 その6人を演じるのは、松田龍平北村一輝市川実日子優香田中泯水澤紳吾と実に豪華キャスト。水澤紳吾はともかく、他の面々はもっと大きな役になってもいいわけで、誰が重大な役になっていくんだろうと思って見る。ドラマなんだから、「全員見事に更生しました」も、「全員が再犯者になりました」もないだろうと普通想定できる。だから一人ぐらいはまた犯罪を犯すんじゃないかと見てしまうが、それが誰かは判らないというサスペンスである。(これ以上は書けない。)

 地元に伝わる奇祭「のろろ祭り」をきっかけに、事態は大きく変わっていく。月末の同級生で地元に帰った石田文(木村文乃)を含め、地方の人間関係が描かれる中で「6人の元犯罪者」のありようがだんだん判ってくる。このドラマでは、設定上雇用主も前科を知らないことになっていて、そこで「バレるんじゃないか」というスリルもある。だけど、それは無理でしょう。現在でも多くの篤志家が刑余者を雇っているが、事情を知ったうえでないと雇えないし頼めない。他の従業員にはあえて知らさないかもしれないが、雇い主にも秘密じゃおかしい。

 吉田大八監督(1963~)は、「桐島、部活やめるってよ」や「紙の月」などの傑作を作った。2017年の三島由紀夫原作「美しい星」は見逃したが、面白い映画を作るという点では安心できる。「羊の木」もスリルやサスペンスにあふれ、とても面白かった。ただし、「奇祭」の扱い方など物語そのものへの疑問もある。考えてみれば、見てるうちは疑問に思わないんだけど、基本的な設定がおかしい。割と短い有期刑の受刑者が多く、なんでこの制度の対象になったのか疑問だ。

 本当は「犯罪とは何か」「犯罪者とはどのような人間か」「人を信用するとはどういうことか」といった大きなテーマにつながる話なんだと思うが、結局「誰が再犯するか」の興味本位になった感じがある。それが残念なんだけど、何人かのエピソードでは、「信用」の問題が大きく扱われている。実際はどんな人であれ、自分も含めてよく判ってないことが多い。だから自分なりの「肌感覚」で付き合うしかないんだろう。

 映画を離れてしまうが、もしこういう制度があったら「無期懲役」(あるいはそれに匹敵する長期刑)の人が対象になるはずだ。10年間定住しないといけないんだから、懲役10年以下の受刑者を対象にするのはおかしい。それに「仮釈放」なんだから、保護司に報告する義務がある。特例プロジェクトだから保護司がいなくてもいいというなら、それは「仮釈放」とは呼べない。行政が秘密に進めるんじゃなくて、保護司の苦労が出てきた方が話が深くなったと思う。現在無期懲役の「事実上の終身刑化」が進行している。その意味で、なかなか興味深い設定だと思うけど、やはりあり得ない設定だった。
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