2日にパナソニック汐留美術館で『オディロン・ルドン展 光の夢、影の輝き』展を見た。国立映画アーカイブで『藤十郎の戀』という戦前の映画を見た後で、ちょっと行きたいところがあったので地下鉄で新橋に出た。(歩いても行けるけど大雨だったので。)その後にたまには美術館でもと思ったのである。美術館には珍しくシニア割引があるし。オディロン・ルドン(1840~1916)は近代フランスの画家だけど、印象派じゃなくて幻想的な作風である。印象派、後期印象派に比べて、あまり知らないんだけど、昔から気になっていた。日本では岐阜県美術館がたくさん所蔵していて、今回も展覧会でも展示物の中心になっている。
ルドンの画家としての出発は遅かった。フランス南西部のボルドーに生まれて、恵まれない少年期を送った後で、24歳でパリに出て石版画(リトグラフ)の指導を受けた。1970年の普仏戦争に従軍し、その後ようやくパリに定住したが、当初は石版画や木炭画で奇怪で幻想的な暗い絵を製作していた。それらがユイスマンス(作家)やマラルメ(詩人)などに評価され、ギュスターヴ・モローとともにフランス象徴派の代表的な画家と認められた。その初期の暗い画風にふさわしいかのような自画像がある。
1890年以後になるとパステル画や油彩も始めて、明るい作風に変わっていったが、それでも神話や宗教などを画材にした幻想的な絵が多い。日本画に古代を描く絵が多いように、ヨーロッパではギリシャ神話、キリスト教、さらに文学(『神曲』の作者ダンテと恋人ベアトリーチェ、『ハムレット』のオフェーリアなど)が画材に多い。神話や宗教的な素養がないから今ひとつ理解出来ないんだけど、詳しい人が見れば図像学的な楽しみがあるだろう。チラシにもある『神秘的な対話』(1896頃)が見ごたえがあった。
それとともに、後半に出てくる花瓶に挿した花の見事な彩りも目を奪われる。一室まるごと花の絵になっていて、実に見事。中には同じ花束をちょっと花の様子を変えて描いた絵もあるという。花瓶の花なんてありふれた題材なのに、なんでこんなに素晴らしいのだろう。そんな大きな絵ではないけれど、ズラッと並べられると心をつかまれるのである。花にある自然な原色の氾濫が美しいということだろう。ありふれた題材なのに、世界の見え方がちょっと変わってしまう。それが絵を見る楽しみだ。
パナソニック汐留美術館はルオーのコレクションがあって、常に一室で展示されている。今は「ルオーとルドン ̶見えないものを描く」と題した展示をしている。両者には直接の交流はなかったというが、「見えないもの」を見つめるという作風に共通点がある。そこも興味深いところだった。土日祝日は事前に時間予約が必要。(時間だけで支払いは現地。)
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