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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

トランスジェンダーの苦難、「ナチュラル・ウーマン」

2018年03月18日 20時54分12秒 |  〃  (新作外国映画)
 今年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したチリ映画、「ナチュラル・ウーマン」。トランスジェンダーの人生を、自らがトランスジェンダーの女優が演じて評判を呼んでいる。アカデミー賞外国語映画賞はけっこう要注意で、案外な作品が選ばれたりする。この映画もちょっと期待外れの出来かもしれないが、テーマ的に重要だしチリ映画は珍しいので取り上げておくことにする。

 冒頭にイグアスの滝が出てきて、「彼」は「彼女」にイグアスの滝への旅行をプレゼントする。(それも南米らしい。)その前にサウナのシーンと、「彼」が紙袋をなく捨て探すシーンがある。それも一種の伏線なんだろうが、その時点ではよく判らない。「彼」は会社社長オルランド、「彼女」はナイトクラブの歌手マリーナ。歌手なのかと思えば、後で判るがウェートレスが本職で、歌手はアルバイト。今日はマリーナの誕生日で、二人は仲よくお食事である。

 事前情報でトランスジェンダーの映画だと知らずに見れば、この二人はただの中年男女である。仲良く家に帰るが、深夜に運命が暗転する。彼が突然体調不良を訴え、なんとか病院へ運ぶけど、もうマリーナの存在は迷惑そのもの。それどころか、警察に疑われて付きまとわれる。彼の兄弟、離婚した妻などが現れ、葬儀にも来るなと言われる。やはりセクシャル・マイノリティの権利は認められず、苦しい思いをしながら「彼」を思い出していく。遺品のカギがサウナのものと知り、サウナに「潜入」したりもする。そんな様子を通して、強く生きて行こうとするマリーナの姿を描く。

 このマリーナを演じるのは、トランスジェンダーの歌手であるダニエラ・ヴェガ。歌手としては、映画の中で「オンブラ・マイ・フ」(ヘンデル)が流れる。他のものはいらないから、二人で飼ってた犬のディアブラだけは手元に置きたいと奮闘するのも何だかよく判る。ダニエラ・ヴぇガは自らの体験も映画に注ぎ込んだようで、非常に難しい立場をよく演じている。監督はセバスチャン・レリオで、ベルリン映画祭銀熊賞(女優賞)受賞の「グロリアの青春」が日本でも公開されている。どっちもチリという感じはしなくて、普遍的なテーマを扱っている。

 トランスジェンダー(Transgender)は、LGBTという時のTに当たるが、いわゆる「性同一性障害」のことである。「性自認」と「性別」が一致せず、性別を「超える、向う側へ行く」(ラテン語でトランス)状態の人々である。同性愛者のような「性的指向」とは違う。一見すると、同性愛者のように見えてしまうが、そうじゃなくて「心は違う性」なのである。(トランスジェンダーとしての「異性愛」だけじゃなく、トランスジェンダーの「同性愛」もあり得る。)チリでもやはり多くの誤解や反発に囲まれていることが判る。最近は性的少数者の映画が多いけど、その中でも注目の秀作だった。
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