万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

AIは政治判断よりシミュレーションが向いているのでは?

2018年07月16日 15時33分43秒 | 社会
 AIの急速な技術的進歩を受けて、近年、AIを政治に利用しようとする動きも強まっております。生身の人間とは違い、個人的な感情や私的利害関係に左右されませんので、中立的な立場からの公平な政治判断が期待されているのです。

 しかしながら、その一方で、AIによる政治には重大な問題点が山積しています。AIもコンピューターの一種ですので、入力データに偏りや誤りがあれば適切な判断は困難ですし、ソフト設計の段階でも、一定の政治的バイアスがかかる可能性があります。加えて、民主主義の観点からすれば、国民の政治参加の権利を奪いかねなませんし、AIの判断に対して誰が最終的な責任を負うのか、という問題も発生します。こうした諸点からしますと、AIに政治を任せるのは、AI、あるいは、その作成者に支配されかねない極めて危険な行為なのですが、仮に、AIを政治においても活用しようと考えるならば、それは、政策の効果や結果を予測するシミュレーションの分野なのではないかと思うのです。

 特に、多様な要因が連鎖的、かつ、複雑に絡み合う経済分野において、AIは、その能力を発揮するかもしれません。何故ならば、人には把握能力に限界がありますので、連鎖的影響が広範囲に及び、かつ、時間的経過による変化をも考慮しなければならない問題については、あらゆる要素を連鎖的な関連性を以って取り込めるAIの方が予測能力に優れている可能性があるからです。しかも、違った条件や状況の下でのシミュレーションを行うこともできますので、AIは、政治判断のように、必ずしも絶対的な一つの解を示すわけでもなありません。

 そして、特にAIシミュレーションで重要となるのは、その能力の高さが、現実のメカニズムの再現性、あるいは、模擬能力によって評価される点です。つまり、個人的、あるいは、政治的な偏向を排し、経済のメカニズムを忠実に再現してこそ、AIには、シミュレーションを任せる価値があるのです。例えば、頑迷な自由貿易主義者やグローバリストが主張するように、全世界の国境を完全に取り払った状態をシミュレーションさせるとしますと、AIは、全てが混沌化した人類の悲惨な未来を描き出すかもしれません(各国におけるプラス・マイナスの偏在をも予測…)。政治家は決してこのような想定未来図を口にはしませんが、高い再現性を備えたAIは、いたく正直に人類に‘その先の姿’を告げるかもしれないのです。もっとも、AIのシミュレーションに対して人々が信頼を寄せるには、ソフトのプログラムを公開するなど、透明性を確保する必要はありますが…。

シミュレーション利用であれば、人が政治判断を行う際の材料を提供するに過ぎず、AIに支配される心配も解消されます。AIを政治に利用するならば、判断型よりもシミュレーション型の方が有益であり、かつ、リスクも低いのではないでしょうか。AIは人類の味方なのか、敵なのか、それは、このテクノロジーをどのように利用するかにかかっているのではないかと思うのです。

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自由貿易には勝者も敗者もいない?-現実は逆では

2018年07月15日 15時56分38秒 | 国際政治
MRJ、16日から英で初の展示飛行も…「2強」覇権争いで埋没の懸念
米中貿易戦争を受けて、中国は、理論面からアメリカの根拠を崩すために、‘自由貿易には勝者も敗者もいない’とする経済学者の説を持ち出しています。しかしながら、この説、現状を見ますと、万人を納得させるほどの説得力があるとは思えないのです。

 多くの人々は、TPP11であれ、RCEPであれ、広域的な自由貿易圏が形成されれば、全加盟国は、自動的に繁栄を手にすることができるという幻想を抱いています。日本国政府も同様であり、自国を含めて特定の加盟国が‘負け組’になるシナリオなどは想定されていません。ところが、ヨーロッパを観察しますと、1993年に欧州市場が誕生した際の熱狂やユーロフォリアの時代は過ぎ去っております。その後、ギリシャを始めとした経済基盤の脆弱な加盟国がソブリン危機に見舞われると共に、結局、欧州屈指の経済大国であるドイツの‘一人勝ち’を帰結したとする評も聞こえてくるのです。自由貿易には、勝者も敗者もいないはずであったにも拘わらず…。

 理論と現実との間に乖離が生じる場合には、一般的には、理論そのものに欠陥があるものです。自由貿易については、確かに、比較優位による最適な国際分業の実現、資源の効率的配分の達成、あるいは、市場の自律的調整力の作用など、様々なメリットが論じられてきました。しかしながら、精緻な理論とは言い難く、現実との間に埋めがたい隙間があるとしか考えようがないのです。

 実際に、今日、世界規模で進展しているグローバル化に伴って顕著となっている現象は、政府による関税や非関税障壁の撤廃や削減に伴う競争の激化です。競争である以上、そこには、自ずと勝者と敗者が生み出されます。乃ち、広域的自由貿易圏、あるいは、グローバル市場の誕生とは、国家であれ、企業であれ、一般勤労者である国民であれ、‘弱肉強食’を原則とする激しい競争に晒される時代の到来を意味するのです。そして、市場は国内市場を越えて拡大するのですから、大競争時代において最も有利となるのは、‘規模’に優る国や企業となるはずです(労働力が豊富な国では安価な労働コストとして‘規模’が反映される…)。ところが、自由貿易理論の殆どは、肝心の‘規模’を無視してしまっているのです。

 今日の国際経済を見ますと、情報・通信関連等の主要産業において米中両国の企業による寡占状態が進行しているとの指摘もあり、‘規模’が如何に競争力に決定的な影響を与えるのかを物語っています。‘規模’が物を言う場合、日本国を含む他の中小の諸国は、苦境に立たされます。航空機市場は米欧の二強体制となるものの、アメリカのボーイング社がブラジルのエンブラエルを傘下に収める一方で、欧州のエアバスはカナダのボンバルディアを買収しています。小型航空機部門でMRJを開発している日本の三菱航空機にも余波が及びそうなのですが、ニッチ戦略で別路線を選択したとしても、資金力に優る巨大企業を前にしては、中小規模の企業が独自路線を貫くことは、日に日に困難さを増しています。

 こうした現実を直視すれば、自由貿易主義に‘ウィン・ウィンの関係’を期待はできず、むしろ、勝者と敗者を生み出すメカニズムを内包しているとしか言いようがありません(競争に敗れ、淘汰される産業、企業、国民は‘敗者’…)。そして、自由貿易主義、及びグローバリズムにおける‘規模’の有利性を熟知しているからこそ、中国は、最後の勝利者として勝ち残る、即ち、独り勝ちを目指した野心的な経済戦略を立案したのではないでしょうか。‘貿易覇権主義’の名にふさわしいのはむしろ中国であり、それ故に、アメリカから手厳しいカウンターを受けることになったのではないかと思うのです。

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中国の対米‘貿易覇権主義’批判は敗北宣言?

2018年07月14日 15時39分15秒 | アメリカ
米中摩擦の影響議論へ=21日からG20財務相会議
7月6日、終に米中貿易戦争の開戦の火蓋が切って落とされ、トランプ政権による対中制裁追加関税が発動されました。翌7日、中国の新華社通信は、アメリカの対中通商政策を‘貿易覇権主義’として批判する記事を掲載し、同記事では、貿易戦争で敗北するのはアメリカの側であると断言しておりますが、果たして、中国側の予測は当たるのでしょうか。

 同記事は、貿易には勝ち負けはないとする経済学者の見解から説き起こし、アメリカの巨額な対中赤字の発生は中国の国家戦略ではなく、主として米企業の経営戦略に起因する貿易構造や国際分業の結果であることを力説しています。そして、関税を手段とした対中圧力を‘貿易覇権種’と見なすと共に、米企業もまた、世界大で展開してきたサプライチェーンの切断という痛手を蒙ると主張しているのです。いわば、経済封鎖を実施した側が逆封鎖を受けて音を上げたナポレオンの大陸封鎖令の顛末を期待した中国側の勝利宣言なのです。

一方、中国以外の諸国では、米中貿易戦争の行方については、米中貿易の現状分析から中国を不利とする見解が大半を占めています。その理由は、対中制裁を実施するアメリカの狙いが、習近平政権が発表した野心的な産業プランである「中国製造2025」を潰すことにあり、先端産業分野において将来的に中国企業が覇権を握ることを阻止することにあるからです。乃ち、短期的には、上述した新華社通信の記事が指摘するように、中国からの輸入品の関税上乗せの影響から米企業や消費者も不利益を被るでしょう。しかしながら、長期的に見ますと、知的財産権に関して中国政府が実施してきた不公正な自国産業優先政策の下、アメリカの先端技術を貪欲なまでに吸収してきた中国企業が、価格のみならず、技術面でも米企業を凌ぐことが予測されるとなりますと、判断は違ってきます。

20年後において、中国政府、否、中国共産党の全面的なバックアップを受けて急成長を遂げた中国企業が国際競争力において一歩抜きんでた存在となり、‘グローバル市場’において独り勝ちとなる場合、米企業は、中国企業の攻勢を受けて国内市場からも撤退を余儀なくされるかもしれません。言い換えますと、中国企業優位となった将来における米企業の痛手は、今般の対中経済制裁発動によるダメージよりも遥かに深刻であり、そのリスクが予測されるからこそ、短期的な不利益を覚悟してまで、アメリカは、対中貿易制裁に踏み切ったと考えられるのです。いわば、‘肉を切らせて骨を断つ’という荒業なのです。

このように考えますと、新華社通信の記事は、アメリカの目的を直視せず、敢えて論点を逸らしたことにおいて、暗に自国の敗北を認めたのかもしれません。これを裏付けるかのように、以後、先進国に頼らずとも中国自前の技術革新が可能である、とする主旨の中国からの発信が目に付くようになりました。早、鼎の軽重を問うてしまった中国は、まずは経済面において苦境に立たされる結果を自ら招いてしまったように思えるのです。

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トランプ大統領への金委員長からの高圧的な親書

2018年07月13日 10時47分36秒 | アメリカ
トランプ氏、金正恩氏の親書公開 ツイッターに投稿
7月の6・7日の日程で北朝鮮を訪問したポンペオ米国務大臣は、金正恩委員長がトランプ大統領に宛てて認めた親書を持ち帰ったようです。本日、同親書を受け取ったトランプ大統領は、ツイッターを介してその内容を公開しております。

 それでは、この親書、どのような内容が書かれてあったのかと申しますと、まずは、その曖昧模糊とした言い回しにうんざりさせられます。6月12日の米朝首脳会談を‘有意義な旅の始まり(a meaningful journey)’と表現し、美辞麗句で飾られながらも、肝心の非核化については、‘核’の一文字も述べられていません。「共同声明の誠実な施行」という言葉を見つけることはできますが、非核化プロセスに関する具体的な措置についても沈黙しているのです。米朝交渉上の実務的書簡としては期待外れなのですが、それでも、この北朝鮮の‘ファジー戦略’にあっても、その行間から北朝鮮の真意を読み取ることができます。

北朝鮮が込めた真意は、同親書の最後の段落に見受けられます。まずは、「大統領閣下に対する不変の信用と信頼が、今後の実際的な行動のプロセスにおいてさらに高まることを願いつつ…」とあり、今後の米朝関係は、アメリカ側の行動次第であると述べています。言い換えますと、北朝鮮の要求通りにアメリカが行動を採らない限り、米朝首脳会談で築いた信頼関係も揺らぐとトランプ大統領に迫っているのです。この発言から、米朝関係を緩和し、朝鮮戦争の終結から平和条約の締結へと導くのが、北朝鮮側の最大、かつ、最優先の目的であり、未だに行動対行動を原則とする「段階的非核化」の方針を捨てていないことが窺えます。そして上記の文章は、「米朝関係を促進させる歴史的前進が次回の首脳会談でもたらされることに確信を深めている」と続いているのです。つまり、9月中とも囁かれている二度目の米朝首脳会談も、アメリカの具体的な行動を見てから決めると述べているに等しいのです。

同親書から読み取れる北朝鮮の態度は極めて高圧的であり、しかも、罪の意識も欠如しています。アメリカのみならず、国連安保理における制裁決議の下で国際社会から非核化を迫られているのは北朝鮮の側にも拘らず、公然と開き直っているのです。北朝鮮は、核・ミサイル問題を巧妙に朝鮮戦争の終結問題と結びつけ、一般的な米朝二国間交渉に矮小化することで、国際法上の違法行為を棚に上げ、自国の非核化をディーリングの交渉材料に利用しているのでしょう。

常識的に考えれば、こうした慇懃無礼な親書を受け取った場合、怒りの方が込み上げてくるのではないかと思われるのですが、不思議なことに、トランプ大統領は、同親書を肯定的に解釈しており、ツイッターに「北朝鮮の金委員長からの非常に良い手紙だ。大きな進展がなされている!」と書き込んだそうです。トランプ大統領は、本心から同親書を高く評価し、金委員長が誠実に非核化を実行すると信じているのでしょうか。あるいは、既に北朝鮮は、アメリカの要求を丸呑みして非核化のための具体的な措置を開始しているのでしょうか(北朝鮮は、ポンペオ国務長官のCVIDの要求に触れて“ギャングのよう”と反発しているので、この線は薄い…)。北朝鮮以上に掴み難いのは、トランプ大統領の真意かも知れないと思うのです。

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党利党略に走った参院定数6増案-権力は腐敗する?

2018年07月12日 15時19分50秒 | 日本政治
“参院議員定数6増”参院特別委で可決
 近代イギリスの歴史家にして思想家、そして政治家でもあったアクトン卿は、「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」とする有名な格言を残しています。かくも厳しい権力批判の言葉を吐いたのですから、左派思想の持ち主と思いきや、アクトン卿こそ、フランス革命を否定し続けた保守系に連なる知識人であったのです。

 政治的スタンスや信条に拘わらず、権力腐敗の格言は全ての政治家が肝に銘じなければならないのですが、今日の日本の政治状況・政界を見ておりますと、自ずと脳裏にこの言葉が浮かんできます。与党であり、かつ、保守系の政権である自民・公明連立政権の現状は、権力の恣意的濫用において遂に腐敗の域に達しているように思えるからです。

 一般国民の意向を無視した政策が散見される中、今般、参議院で可決された公職選挙法改正案も、露骨すぎるほど党利党略が優先されています。いわば、自民・公明のための選挙法改正であり、到底、国民の支持が得られるとは思えません。

 第1に、国民の大半は、国会議員の定数を増やすことを望んでいません。高給を食みながら国会議員がその職務を全うしていない現状に国民の多くは呆れており、むしろ定数削減こそ民意なのではないでしょうか。政策立案能力や法案を可否をめぐるディベート能力などの政治家としての資質や能力は関係なく、法案の採決における‘数’だけが問題ならば、議員の定数は、大幅に減らしても構わないはずです。

 第2に、定数6増の理由として、参議院の定数の格差を最大で3倍未満に抑えるため、と説明されています。両院制の場合、特に一方の議院において一票の格差が生じるのは当然のことであり、アメリカでは、‘合衆国’と連邦制を採用しているとはいえ、上院は、人口数に拘わらず、憲法において議員の定数は各州2名と定められています(第1条3節1項)。‘3倍’という数字は、裁判所が主観的に示した基準に過ぎず、合理的な根拠はないのですから、議員定数を変更するならば、参議院議員の代表原則こそ先に議論すべきです。また、一票同価値の原則に固執しますと、人口数の多い都市部が全てを決してしまい、人口数の少ない地方の意向が無視されるという別の弊害も生じます(むしろ、多方面から視点が求められる参議院では、地方代表をも代表原則として確立すべきでは…)。

 第3に、極め付けとなるのが、一部ではあれ、拘束名簿方式による特定枠の導入です。参議院選挙の比例代表制は、有権者が党の作成した名簿から候補者を選択し得る非拘束名簿式が導入されている点において、より民主的であるとする評価を受けてきました。国民の多くは、衆議院選挙にも非拘束名簿式の導入を望んでいます。ところが、今般の改正案は、逆方向を向いております。同制度の導入については、合区対象県から候補できない候補者を救済するため、とする意味不明の説明がなされています(ストレートに合区を廃止した方が国民には分かりやすい…)。結局は、有権者ではなく政党に当選者決定権がある拘束名簿式を参議院にも広げたいとする思惑が見え隠れし、党利党略の怪しさが倍増しているのです。

 自民・公明両党による連立政権は、野党側の‘体たらく’ぶりに救われる形で長期政権を保っています。いわば有権者の消去法による政権なのですから、その権力が腐敗しますと、国民の不利益は計り知れません。アクトン卿の格言の正しさを立証するような今般の選挙法改正は、保守層をも含む国民の多くを失望させるだけではないかと思うのです。

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オウム真理教死刑囚の刑執行-‘カルトの黄昏’

2018年07月11日 15時05分40秒 | 日本政治
地下鉄サリン事件を始め数々の凶悪事件を起こしたオウム真理教の死刑囚7人は、今月6日、遂に刑が執行され、この世から去ってゆきました。突然の死刑執行に、マスメディアでは「似たような事件は必ず繰り返される」とする見解やオウム真理教の残党による報復テロを警戒する声も聞かれますが、松本智津夫死刑囚の処刑は、‘カルトの黄昏’を象徴しているのかもしれません。

 オウム真理教死刑囚の刑執行が‘カルトの黄昏’となる第一の理由は、教団の信者達にとっては神聖、かつ、絶対的な教祖であったとしても、テロや犯罪事件を起こせば、法の下で裁かれ、問答無用に死刑に処されるとする前例となったことです。1980年代末から90年代にかけて、日本国の支配を計画した松本智津夫率いるオウム真理教は、政官界を含むエリート層にも浸透し、衆議院選挙にも立候補者を擁立する程の勢いがありました。しかしながら、かくもあっさりと死刑が執行されたわけですから、“似たような事件”を起こすような教団が続々と登場するはずもありません。また、たとえ‘日本国王’を目指す教祖が出現したとしても、オウム真理教の顛末を知っていれば、誰も帰依しようとはしないことでしょう。

 第2の理由は、オウム真理教の仏教的な教義に従えば、死は恐れるものではなく、死しても輪廻転生すると考えられていることです。乃ち、オウム真理教系の後継教団の信者達は、教祖の仇を討つべく報復テロに及ぶよりも、‘生まれ変わり’を探すことに熱中することでしょう。松本智津夫本人は、徳川家光や朱元璋、果ては、古代エジプトのジェゼル王に使えた宰相兼技術者のインホテップでの‘生まれ変わり’と称したそうですが、教団から松本智津夫の‘生まれ変わり’と認定され、教祖の地位を約束されても、誰もが全力で逃げるはずです。

 第3の理由は、オウム真理教が活動した時代とは違い、現在では、インターネットによる情報の拡散が急速な点です。仮に当時、インターネットが存在していたならば、教祖の人柄や空中浮揚などの超能力が一般の人々からも様々な角度から検証され、‘いんちき’と断定され、ニット上で拡散したことでしょう。また、閉鎖的な教団内部における信者の修行の実態が、ネット上に漏れれば、その不気味さに多くの人々が戦慄を覚えたはずです。こうした情報が広く共有されれば、日本国内で15000程の信者を集めることはなかったことでしょう。この点からしましても、オウム真理教に匹敵するほどのカルト教団が今日出現するとは思えないのです。

 以上に幾つかの理由を述べてきましたが、オウム真理教の存在は、むしろ、日本社会において、殺人をも公然と肯定するカルト教団の恐ろしさを広く国民に知らしめることとなりました。ロシアや北朝鮮との繋がりなど、まだまだ解明すべき謎は残されておりますが、オウム真理教死刑囚の刑執行は、カルト教団をも地獄への道連れとしたのではないかと思うのです。

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豪雨被害を最小限に留めるために-ダムの放水問題

2018年07月10日 15時45分03秒 | 日本政治
西日本豪雨死者132人、不明74人 広島・榎川が氾濫
西日本一帯で発生した今般の水害は甚大なる被害をもたらし、犠牲になられた方も既に132人を数えております。亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたしますと共に、ご家族の方々に対しまして心よりお悔み申し上げます。また、行方不明となられた方々の一刻も早い救出を願わずにはいられません。

 今般の豪雨では、土砂崩れやがけ崩れによる被害に加えて、河川の氾濫による浸水被害も広範囲に及んでおり、一村の凡そ全域が水没の危機に面した地域もあったようです。土砂崩れ等による家屋の損壊も多く、地震に優るとも劣らない水害被害の凄まじさを見せつけております。今後の生活に不安を覚えつつ、避難所での慣れない生活を強いられる方々の心中を察しますと、まことに心が痛みます。

 日本国は自然災害が多い国であり、古来、その備えにも心を砕いてきました。それでも自然の力を前にしてはなす術を失いがちなのですが、今般の災害で一つ改善すべき点としを挙げるとすれば、ダムの放水問題です。報道に拠りますと、被災地のダムの多くは、満水状態に至ったため、豪雨で河川が増水する中にあって放水せざるを得なかったそうです。愛媛県西与市では、上流の野村ダムの放水より肱川が氾濫し、市から避難情報が伝えられたものの、朝方であったことも災いして逃げ遅れた5人の方が亡くなっております。おそらく、他にもダムの放水によって被害が拡大した地域もあったことでしょう。

 雨量の増加によるダムの放水は、予め作成されていた放水マニュアルに従って行われており、この点、当局にミスがあったわけではないようです。放水措置を採らなければ、ダムの水が溢れ、その周辺にあって被害が発生することは確かです。しかしながら、数十年に一度というレベルの豪雨である場合には、マニュアル通りの措置が適切であったかどうかは疑問なところです。上述した野村ダムの場合、流入分とほぼ同量の水を放出する「異常洪水時防災操作」を行ったため、放水量は操作前の2から4倍に急増したそうです。ダムからの放水がなくとも豪雨のために河川は急激に増水しているのですから、ダムからの放水は、洪水被害を拡大さてしまったかもしれないのです。

 今後の被害状況の調査や分析によって、ダムからの放水が水害を悪化させる要因として確認された場合には、今後の予防策として、ダムの放水マニュアルを見直す必要があるように思えます。例えば、豪雨が長期的に続くとする予報が出されている場合には、降水に先立って放水作業を行い、ダムの貯水量を予め下げておくとか(ダムの貯水キャパシティーを上げる…)、一度に放水せずに、下流の水量に急激な影響を与えないように、少量づつ段階的に放水するといった工夫です。

 僅かな改善策で被害を防ぐことができれば、それに越したことはありません。今般の水害を教訓として、日本国は、国も地方も合わせ、より効果的な防災を実現すべく、マニュアル等の見直しにも取り組むべきではないかと思うのです。

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金世襲独裁体制が諸悪の根源なのでは?

2018年07月09日 15時23分57秒 | 国際政治
「北朝鮮もベトナムと同じ道歩める」 ポンペオ氏、非核化へ行動促す
ベトナムを訪問しているポンペオ国務長官は、首都ハノイでの講演において、北朝鮮に対してベトナムと同じ道を歩むよう促したと報じられております。両国は共にソ連邦を後ろ盾として戦後に建国された国ですので、同長官の期待にも根拠がないわけではありません。しかしながら、両国の間には、重要な相違点があるように思えます。

 両国とも南北に分裂していながらベトナムは既に統一している点において顕著な違いがみられるものの、もう一つ、重要な違いを指摘するとすれば、両国の国家体制です。国家体制を支える政治思想を見れば、両国ともマルクス・レーニン主義を発展させる形で、ベトナムはホー・チミン思想を、北朝鮮は主体思想を奉じています。ホー・チミン思想は、共産党一党独裁を土台としつつも個人独裁色は極めて薄く、小作人層を中心とした労働者を中心勢力とした国家体制を目指していたようです。実際に、ベトナムの国家体制は、「四柱」と称される共産党中央委員会書記長、国家主席、首相、国会議長による集団指導体制を採用しています。一方、北朝鮮の主体思想は、基本的には国家有機体説の流れを汲んでおり、頭に当たる最高指導者に絶対的な権力を与えています。しかも、平等に価値を置く社会・共産主義思想においてはあり得ない世襲制を採用しており、金一族による権力の独占が是認されているのです。

 それでは、世襲制を正当化し得る根拠を金一族が有しているのか、と申しますと、そうではないようです。ソ連邦によって‘建国の父’としてリクルートされた‘抗日戦線の英雄金日成’なる人物は、年齢や容貌が歴史上の金日成将軍とは違っており、別人であったそうです。つまり、建国当初から金家には歴史や伝統に根付く正統性が欠如しているのです。にもかかわらず、今では、‘白頭の血統’として半ば神格化されています。2013年に死刑に処された張成沢国防委員会副委員長に対する特別軍事裁判の判決文では、「歳月は流れ、世代が十回、百回交代しても変化することも替わることもないのが白頭山の血統である。…」と記されており、金一族による永遠の世襲が宣言されているのです。

 しかしながら、常識に帰って考えてもみますと、偽者を‘建国の父’と祭り上げた上に、暴力による脅しを以って‘白頭山の血統’として絶対化し、全国民に対して絶対服従を命じる体制は、馬鹿馬鹿しいカルト以外何者でもありません。一介の誰とも知れない人物に国家の全権力を与えることなど、理性を備えた一般の人々からしますと、正気の沙汰とも思えないのです。そして、こうした愚かしい世襲独裁体制こそが、核・ミサイル問題を生み出し、全世界に脅威を与えているとしますと、諸悪の根源は、騙しと暴力と醜い私欲に塗れた、北朝鮮の金世襲独裁体制なのではないでしょうか。

 民主主義の価値に照らせば、ベトナムの共産党一党独裁体制を支持することはできないにしても、北朝鮮の国家体制の劣悪さは、ベトナムの比ではありません。ポンペオ国務長官は、ベトナムを引き合いに出すならば、せめてベトナムと同程度の集団指導体制に国制を改革するよう、北朝鮮に訴えるべきではなかったかと思うのです。

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北朝鮮の対米不満を読み解く-米朝首脳会談の怪

2018年07月08日 14時53分11秒 | 国際政治
非核化協議 北朝鮮「米側は強盗のような要求ばかり」
 アメリカのポンペオ国務長官は、北朝鮮側と今月6日から二日間の日程で非核化に関する協議を行ったそうです。同長官は既に北朝鮮を離れていますが、北朝鮮側は、外務省報道官を通してアメリカ側の一方的な非核化要求を遺憾とする談話を発表しています。北朝鮮による不満表明は、実のところ、米朝首脳会談において弄した詐術的戦略を自ら裏付けるようなものです。

 米朝首脳会談における共同声明ではCVIDに触れる箇所がなかったため、トランプ大統領は、お茶を濁すことで「段階的非核化」を目指す北朝鮮の詐術に嵌ったのではないかとする憶測がありました。「段階的非核化」とは、北朝鮮が核開発に着手した時点から温めている計画であり、核開発を以ってアメリカを交渉の場に引き寄せ、同国が非核化措置を採る度にその見返りを受取りながら、朝鮮戦争の終結を意味する平和条約の締結を目指すと言うものです。同計画の最終ゴールはあくまでも米朝国交正常化であり(在韓米軍の撤退…)、北朝鮮の非核化ではありません。否、「段階的非核化」では核兵器の申告や検証といった作業も伴いませんので、実質的には北朝鮮が秘密裏に核を温存させる可能性が極めて高いのです。

 こうした懸念に対して、トランプ大統領は、金正恩委員長による非核化の意思表明を高く評価し、‘騙された説’の火消しに努めたのですが、今般の北朝鮮側の対米批判からすれば、‘騙された説’が正しく、米朝首脳会談は同床異夢であったようです。上述した北朝鮮の報道官は、アメリカ側が要求するCVIDに対して“強盗のような要求”と批判しているのですから。核開発という国際法違反の行為を行い、国際社会から制裁を受けている身であることを棚に上げて、アメリカを“強盗”呼ばわりするところに北朝鮮の道徳・倫理観の倒錯ぶりが窺えるのですが、少なくとも、北朝鮮には、当初からCVIDの要求を受け入れるつもりがなかったことだけは確かです。乃ち、北朝鮮は、CVIDに関してアメリカを批判したことで、米朝首脳会談に臨むに当たって二心があったことを明かしてしまったのです。

 このことは、米朝交渉の行き詰まりを予感させるのですが、不思議なことに、北朝鮮は、自らが置かれている窮地からの脱出をトランプ大統領の‘救いの手’に期待しています。ポンペオ長官が同大統領の金委員長宛ての親書を手渡したこともあって、実務的交渉における対立は別として、首脳間の信頼関係は揺るがないとする立場を表明しているのです。となりますと、北朝鮮側は、米朝首脳会談において、トランプ大統領が、北朝鮮側の主張を受け入れて、「段階的非核化」を認めたと認識していることとなります。

 ここから推測されるのは、(1)米朝両首脳の間には、米朝合意の意味内容に関する認識に違いがある、(2)米朝首脳会談で、トランプ大統領は「段階的非核化」に合意していた、並びに、(3)同会談で、金委員長は、共同声明では文書化を回避したものの、口頭ではCVIDに合意していた、の凡そ三つの可能性です(もっとも、茶番である可能性もないわけではない…)。今般のポンペオ長官の訪朝時の態度が相当に強行であり、かつ、北朝鮮がそれを批判しているところを見ますと、やはり、(1)の可能性が最も高いようにも思われるのです。

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北朝朝鮮が日本国に要求する“過去の清算”とは?-根拠の欠如

2018年07月07日 16時04分12秒 | 国際政治
北朝鮮「対話望むなら見合った行動を」 日本に過去の清算要求
今月3日、北朝鮮は、朝鮮中央通信を通し、日本国に対して‘過去の清算’を要求したと報じられております。果たして、同国が要求する‘過去の清算’とは、一体何を意味するのでしょうか。

 北朝鮮が‘過去の清算’という言葉を使う時、最初にイメージされるのは、日本国による朝鮮半島併合によって生じた被害に対する賠償要求です。1965年の日韓基本条約、並びに、日韓請求権協定の前例があるため、日本国内でも、北朝鮮に対しても同程度の経済支援をすべきとする見解が広まっています。しかしながら、この問題、原点に返って考えて見ますと、極めて奇妙な要求なのです。

 国際法に照らしますと、北朝鮮には、日本国に対して“過去の清算”を要求する法的な権利がありません。日韓請求権協定締結の発端は、サンフランシスコ平和条約の第4条にあり、同条約の第2条で日本国が朝鮮の独立を認めたため、双方の国家、並びに、国民間の財産に関する請求権を処理する義務があったからです。言い換えますと、日韓交渉における当初の‘過去の清算’とは、日韓双方の実質的な被害に基づいて財産上の問題を解決することを意味したのです。こうした財産権の相互処理は、第一次世界大戦においてオーストリア・ハンガリー帝国から中東欧諸国が独立した際にも用いられており、国際法上の一般的な解決方法に従ったものでした。日本と朝鮮半島との関係は、どちらかと言うと、アジア・アフリカにおける本国とその植民地という関係よりも、オーストリア・ハンガリー帝国といった同君連合からの異民族国家の独立に近かったのではないでしょうか(韓国併合条約では、‘韓国皇帝の日本天皇への統治権の譲与’としている)。

 ところが、韓国側は、日韓交渉を日本国の‘植民地支配’に対する償いを要求する場として利用しようとします。日本側は、朝鮮半島におけるインフラ等の残置財産を清算に含めようとしますが(同条約は、残置財産の処分権は中国にのみ認めている…)、結局、平和条約第4条(2)に、日本国は、「米軍政府により、又はその指令に従って行われた日本国およびその国民の財産処理の朝鮮半島でとった効力を承認する」とする一文があり、また、冷戦を背景に韓国支援の必要性も強く認識されたことから、当時のアメリカ政府が韓国の要求を半ば認める形で、財産権の相互放棄と日本側の一方的な経済支援が決定されたのです。ただし、日韓請求権協定ではあくまでも経済支援とし、‘植民地支配’の償いとする立場は採らなかったのです。

 日韓請求権協定の実態とは、法的な解決と言うよりは、アメリカの仲介による政治的な妥協ですので、このモデルを北朝鮮にそのまま適用することはできないはずです。そして、北朝鮮がサンフランシスコ講和条約の締約国ではないにせよ、仮に国際社会における一般ルールに従って純粋に日朝両国間で朝鮮独立に際しての法的清算を行うならば、むしろ北朝鮮が、日本国に対してインフラ等の財産の対価を支払う立場にあります。また、‘植民地支配’の償いについても国際法上に根拠はなく、欧米諸国から独立を果たしたアジア・アフリカ諸国にあっても、‘過去の清算’として賠償金が支払われた事例はないのです。これらの植民地では、毎年、朝鮮半島に財政移転を行った日本国とは逆に、植民地から本国への富の移転が行われていたにも拘わらず…。

 さらに、もう一つ、指摘する点があるとすれば、かの「日朝平壌宣言」では、日韓請求権協定と同様に日朝双方の国および国民の請求権を相互放棄している点です。請求権が相互に消滅する以上、‘過去の清算’はあり得ませんので、北朝鮮の清算要求は、北朝鮮が同宣言を空文と見なしている証ともなりましょう。

 何れにしましても、北朝鮮は、日本国に対して財産上の請求を成し得る歴史的根拠も法的根拠も有してはいません。あるいは、独立を失った精神的な苦痛に対する償いを根拠とするかもしれませんが(朝鮮は、歴代中華王朝の冊封体制における属国でもあったので、中国に対しても請求することに…)、ウィルソン米大統領の「十四か条の平和原則(1918年1月8日)」の提唱により民族自決権が確立するのは第一次世界大戦後のことです。一方、日本国による朝鮮半島の統治が開始されるのは、同原則成立以前の1910年なのです(もちろん、民族自決の原則が確立することは、人類の道徳・倫理的向上…)。日本国政府は、北朝鮮の主張を鵜呑みにしてはならず、不当な要求に対しては正当なる根拠を挙げて拒否すべきではないでしょうか。

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音声入力は主流となるのか?-疑問とリスク

2018年07月06日 10時53分32秒 | 社会
近年、IOT化の掛け声とともに、様々な分野で音声入力が普及を見せております。家電メーカー等でも、遠隔地にあってもスマホを利用した音声入力で自宅の家電を操作できる技術等の開発に凌ぎを削っているようです。しかしながら、この音声入力方式、機器操作の主流となるのか、と申しますと、そうでもないかもしれません。その理由は、その便利さとは裏腹に、疑問やリスクが潜んでいるように思えるからです。

 音声入力の第一のメリットは、入力速度の速さです。今では、PCのキーボードよりも音声入力を愛好するライターの方も登場しているとのことですが、口語と文語とでは、文章表現に相当の違いがあります。後者の場合には、全体の論理構成や前後の文脈を整える必要から、しばしば後からの修正、加筆、文章の切貼りなどの作業が行われます。音声入力ですと、入力後にこれらの作業を正確に行うことが難しく、例えば、本記事の‘第一のメリットは’を‘最大のメリット’に修正しようとすれば、“入力終了”と音声で指令して一旦入力作業を止め、“修正開始”と発声した上で、“第二段落の第一節目の‘第一’を‘最大’に変更せよ”と口頭で命じなければなりません。トータルでは、キーボード入力の方が時間的にも簡便さにおいても優れているかもしれないのです。仮に、音声入力の方が便利なケースがあるとすれば、それは、試行錯誤を伴う創造的な分野ではなく、最初から出来上がっている文章を音声で読んでデジタル化するといった事務的、あるいは、機械的な作業となりましょう(もっとも、それでも漢字の誤変換の問題も生じる…)。

 文書作成には音声入力が不向きとしますと、この方法が最も効力を発揮しそうな場面は、家電や自動車等の機器操作です。しかしながら、ここにも、幾つかの問題を指摘することができます。

 特に問題となるのは、音声収集の持つ公開性と広域性です。例えば、社内にあって自宅の家電を操作しようとして、“手洗いモードで洗濯開始!”などと突然しゃべろうものなら、オフィス内で爆笑が起きるかもしれません。また、スマートフォンでの音声入力中に、周囲の声を拾ってしまい、命じられた機器が全く別の作業を始めてしまうかもしれません。例えば、ある人が自宅のエアコンの音声入力操作中に、隣の人が、偶然、両人が現在居る部屋の室温について‘もっと温度を下げて欲しい’と言ったといたしますと、音声入力式のエアコンは隣の人の発言の方に反応してしまう可能性もあります。こうした事例は大事には至りませんが、自動車の運転や重機の操作等にも導入されますと、運転手や操作者の独り言や助手席に座っている人の声に反応して事故が起きてしまうといったリスクがないわけではありません。同乗した人物に悪意がある場合には、大声による音声操作によって事故が故意に起こされる可能性も指摘できるでしょう。

 こうした問題を解決するためには、声紋による本人確認技術の確立や入力ミスを想定した安全装置の開発などを急ぐ必要がありますが、それでも、発音や表現に多様性があり、文法が複雑な言語ほど、AIによる意味理解の精度が低下します。この点、日本語は、母音が多く、発音において明瞭な点では音声入力向きですが、漢字、ひらがな、カタカナの使い分けがある上に、言葉に細かなニュアンスの違いがある言語ですので、音声入力には不向きにも思えます。あるいは、音声入力社会の到来が言語の単純化を要求するとしますと、音声入力方式が文化を劣化させるという重大な問題も持ち上がります。

かくして音声入力方式には課題が山積しているわけですが、スマートフォンの普及以降の産業の動向を見ておりますと、情報通信至上主義者の人々が描いている特定の未来モデルに縛られ過ぎているように思えます。全世界の諸国が同一の方向に向かって脇目も振らずにこのモデルの実現へと邁進する姿は、どこか常軌を逸しております(ソフトな全体主義?)。‘敷かれたレール’を走らされるのではなく、ここは一先ずは立ち止まる必要があるのではないでしょうか。未来モデルは唯一絶対でも、一つでもなく、人類により幸せをもたらす道が他にもあり得るのですから、狭い道に追い込まれることなく、柔軟な発想を以って広く視野を開いてゆくべきではないかと思うのです。

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北朝鮮のミサイル基地拡張疑惑-時間との闘い

2018年07月05日 14時39分09秒 | アメリカ
北朝鮮、ミサイル工場を拡張か 米紙報道、衛星写真の分析で
 先月12日に鳴り物入りで開催された米朝首脳会談。共同宣言にも両国首脳が署名し、漸く合意に漕ぎ着けたものの、その行方には暗雲が立ち込めています。

 合意成立当初から北朝鮮の非核化の意思について懐疑的見方もあったのですが、この疑いの正しさを裏付けるかのように、ウォールストリート・ジャーナルは、北朝鮮が依然としてミサイル基地を拡張していると報じています。金正恩委員長が真剣に非核化に取り組んでいるとするトランプ大統領の楽観的な認識とは正反対であり、この情報が事実であれば、アメリカは、再度、政策転換を迫られることになりそうです。

 仮に、北朝鮮がミサイル基地の拡張を秘かに行っていたとしますと、その思惑は、アメリカ本土に対して核攻撃可能なミサイル、即ち、ICBM等の保有を急いでいるとしか考えられません。米朝会談直後、トランプ大統領の口から金委員長によるミサイル施設の破壊が約されましたが、実際には、秘密基地を拡張していたのですから、同委員長は、最初からアメリカを騙すつもりで米朝首脳会談に臨んだこととなります。おそらく、6月12日の時点では、ICBM等の長距離弾道ミサイルが未完成、あるいは、配備段階に至るほどには十分な開発段階ではなかったのでしょう。このため、対米交渉の立場も弱く、結果として、アメリカの要求を呑まざるを得ない状況にあったのかもしれません。

 そこで、北朝鮮は、米朝首脳会談にあって、一先ずは非核化への意思を明言することでアメリカに屈したポーズをとりつつ、対米核攻撃を可能とすべく、時間的な猶予を確保する戦略に出たのではないでしょうか。共同宣言では‘逃げ道’を残す文言となるよう巧みにアメリカを誘導し、その実、秘密裏にICBM等を完成させるという作戦です。アメリカが米朝合意の履行を信じている限り、この作戦が成功する可能性は高く、しかも、朝鮮戦争の終結という格好の対米交渉材料も手中にあります。こうした材料を駆使してアメリカを継続的に交渉の場に引き留めておけば、その間、北朝鮮は、狙い通り、ミサイル開発に勤しむことができるのです。

 9月には二度目の米朝首脳会談が設けられるとの報道もありますが、あるいは、北朝鮮は、この頃までに長距離弾道ミサイルの保有による対米核攻撃の能力を備える計画なのかもしれません。第一回目の会談では劣勢でしたが、今度は、対米脅迫の手段を手にして交渉の席に就くことができるのですから。こうした場合、時間との闘いになりますので、トランプ政権は、金委員長をこのまま信じ続けるのか、それとも、見切りを付けて軍事制裁をも視野に入れた厳しい対応に転換するのか、重大な岐路に立たされることになりましょう。上述した情報が事実であれば、後者一択となるのですが、時間が経過すればするほど、騙す側の北朝鮮が有利な状況となりますので、トランプ大統領が、再度、決断を下さざるを得ない日はそれ程遠くないように思えるのです。

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恐るべき中国企業の警察用レーザーガンの開発-‘暴力政治’への道

2018年07月04日 15時41分02秒 | 国際政治
中国企業が警察用レーザーガン開発 デモ参加者の髪にも着火可能
昨秋の中国共産党全国代表大会における習近平国家主席への権力集中は、中国に未来に暗い影を落としております。本日も、中国企業が、警察用のレーザーガンを開発したとするニュースが報じられています。

 開発されたレーザーガンの性能とは、800メートル先でデモをしている参加者の髪に着火したり、横断幕に燃やすこともできるそうです。一般の犯罪者の取締り、即ち、治安維持のために開発されたわけではなく、政府に対する抗議活動を行う国民に対する弾圧用であることは、この性能説明からも明白です。この最新鋭の武器を以って、中国の一党独裁体制、否、習独裁体制を維持しようと言うのでしょう。こうした武器を開発せざるを得ない程、あるいは、習独裁体制に対する国民の反発は強まっているのかもしれません。

 そして、この警察用レーザーガンが全世界の人々を震撼させたのは、その非人道性にあります。上述したように、レーザーガンには、人の頭髪に火を付ける性能を備えています。開発企業であるファイバーレーザー企業「ZKZM」は、「はっきりと殺害を目的として設計されてはおらず、また人間の皮膚や細胞を『瞬間炭化』させることもない」と説明しておりますが、対象物を高温で燃焼させ得るということは、衣服に着火させれば、参加者を‘火だるま’にしてしまうことも可能となります。また、軍事用のレーザー兵器の存在が示唆しますように、殺害目的ではないとする説明も怪しいものです。想像しただけでもあまりの残酷さに血の気が引くようなお話なのですが、天安門事件において学生たちを問答無用で虐殺したその残虐性に思い至りますと、何としても体制を維持したい中国共産党にとりましては、国民殺傷用のレーザーガンの開発には何らの良心の痛みも感じないのでしょう。

 中国当局からすれば、この開発情報を流すこと自体が、国民に対する最大の脅迫効果となります。民主化要求であれ、政府に対して抗議活動でもすれば、命を奪われかねないのですから。国民に対して恐怖心を植え付けることで抵抗を封じ、為政者が一方的に権力を振るう体制は恐怖政治と呼ばれておりますが、中国の場合、恐怖政治を越えた暴力政治の域に達しているかのようです。
 
 国民に対して暴力を振るう体制にあって生きなければならない中国国民はまことに不幸なのですが、警察用レーザーガンの脅威は、中国国内に留まらないかもしれません。何故ならば、開発者は中国企業ですので、海外にも輸出される可能性があるからです。アジアやアフリカ諸国では、独裁者の下で強権政治への傾向を強め、中国モデルに靡いている諸国も多く、こうした諸国では、体制維持のために積極的に同レーザーガンを輸入するかもしれません。国民の反乱に怯える北朝鮮も、制裁項目に含まれる禁輸の対象ではないとしてその導入を図るかもしれないのです。

 このように考えますと、中国企業による警察用レーザーガンの開発は、人類を暴力的な支配へと導く悪魔の仕業としか思えません。今日、国際社会において中国警戒論が高まっておりますが、こうした情報は、中国の脅威に対する確信を強めるにあまりあるように思えるのです。

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アメリカのWTO脱退は何を意味するのか?-‘中心国必衰’のメカニズムからの脱皮

2018年07月03日 15時54分49秒 | 国際経済
トランプ大統領、WTO脱退計画を否定
自由貿易主義に背を向けてきたアメリカのトランプ大統領は、遂に、WTOからの脱退を示唆したと報じられております。この発言は、即、否定されたとはいえ、仮に同方針が実現すれば、戦後の国際通商システムの大転換となるのですが、その根本的な原因は、自由貿易主義理論に対する過信であったのかもしれません。

 近現代における自由貿易体制には、二つの波があったとされています。その一つは、世界に先駆けて産業革命を成し遂げ、抜きんでた生産力で「世界の工場」と化したイギリスを中心とした自由貿易体制であり、1860年頃にピークを迎えています。この体制は、やがて新興国であったアメリカの挑戦を受けると揺らぎ始めます。世界大のブロック経済化を経て、第二次世界大戦における連合国側の勝利を機にブレトン・ウッズ協定、並びに、GATTが成立すると、アメリカを中心とした自由貿易体制が誕生するのです。何れの自由貿易体制も、牽引役となるイギリス、及び、アメリカといった経済大国が存在しておりました。

 ところが、こうした自由貿易主義の旗振り役の国が永遠にトップの地位に留まることができるのか、というと、イギリスの衰退に象徴されるように、そうではないようです。関税や非関税障壁の撤廃を意味する自由貿易主義には、当然に国際的な自由競争が伴いますので、仮にトップの座を維持できるとすれば、それは、国際競争力における優位性を維持している場合に限られます。しかも、こうした自由貿易の中心国の通貨は、ブレトン・ウッズ体制における固定相場制に典型的に見られたように、貿易決済、海外投資、及び、外貨準備等に用いられる国際基軸通貨としての高い安定性を強く求められます。結果として、自国通貨高=米ドル高となり、自国製品の輸出には不利となるのです(自国通貨高により、「世界の市場」として輸入品は増加する一方で、他の対米輸出諸国は潤う…)。言い換えますと、自由貿易主義体制には、‘盛者必衰の理’の如く、‘中心国必衰’のメカニズムが組み込まれているのです。そして、この傾向は、グローバル化の加速によって、自由貿易が想定してきた財のみならず、サービス、資本、労働力、知的財産、情報等が自由に移動する時代を迎えると、新興国の台頭も手伝って、中心国の衰退に拍車をかけるのです。

かくして、アメリカもまた衰退に見舞われるのですが、自由貿易体制が、中心国の犠牲と寛容の下で維持されてきたとしますと、今般、アメリカがWTOからの脱退を模索しているとしますと、それは、自由貿易体制の中心国としての重荷を降ろす意向を示したことを意味します。と同時に、国際通商体制もまた変容を迫られるのであり、全ての諸国に対して劣位産業、あるいは、国際競争力に劣る分野に対して淘汰という犠牲を強いる現行の体制が望ましいのか、という根本的な問題に直面することとなりましょう。リカードに始まる比較優位説では、非情な淘汰を当然のプロセスとして正当化し、競争上の重要な勝敗の決定要因となる‘規模’の格差問題も看過されていますが、アメリカのWTO離脱問題は、古典的な理論に固執することなく、現実を見据えた新たな国際通商体制を再構築すべき時期の到来を告げているのかもしれません。

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アメリカへの対抗策としてのRCEPは日本国の自滅行為では?

2018年07月02日 15時06分02秒 | 日本経済
7月1日、東京都内で東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の拡張会議が開かれ、年内での大筋合意を目指すとする共同声明が発表されました。かくも日程を急ぐ理由は、アメリカの保護主義への対抗とされておりますが、RCEPの成立は、日本経済にとりましては、自滅行為なのではないでしょうか。

 第1に、たとえ日本、中国、インド、東南諸国等を含む16カ国によってRCEPが成立したとしても、それ自体、アメリカの保護主義政策を変更させる効果は期待できません。アメリカが保護主義に転じたのは、NAFTA等の経験から、自由貿易協定への参加が自国や自国民に不利益を与えるとする判断からであり(産業の空洞化の加速…)、そもそもRCEPに加わる理由がないのです。経済格差を有する諸国による自由貿易圏の形成は、一部のグローバル企業は別としても、一般的に先進国が不利となる点を考慮すれば、広域自由貿易圏としてのRCEPが成立すれば、アメリカが参加していない以上、日本国こそ他の諸国から‘草刈り場’にされてしまう可能性があります。

 第2に、アメリカへの対抗の意味が、EUの欧州企業の如く、アメリカ企業に匹敵する規模の‘アジア企業’を育成することにあるとすれば、それは、既にグローバル企業として巨大化した中国企業のさらなる規模の拡大を意味しかねません。言い換えますと、RCEPを枠組みとして資本移動の自由化が進むことで、日本企業は、技術もろともにM&A等を介して中国企業に飲み込まれる可能性が高いのです。

 第2点に関連して第3として挙げられるのは、中国の企業政策のリスクです。中国共産党は、自国企業に対して共産党員の経営参加を法律で義務付けていますが、中国企業の日本市場への進出、並びに、日本企業の中国市場進出は、同時に、日本経済と日本企業が、中国共産党の政治的影響を受けることを意味します。政経一致体制である中国を含むRCEPは、中国からの経済的支配に留まらず、政治的支配を受けるリスクを含意しているのです。

 第4に指摘し得る点は、貿易決済通貨の問題です。TPP11では中国が参加していないため、貿易決済通貨は国際基軸通貨である米ドルが中心、あるいは、日本円が使用される可能性がありますが、RCEPともなりますと、各国とも、中国の人民元が決済通貨として使用するよう圧力を受けるかもしれません。乃ち、RCEPは、中国の野望である‘人民元通貨圏’の形成に手を貸してしまうかもしれないのです。

 そして第5点を挙げるとすれば、米中貿易戦争が激化する中で、日本国がRCEPに軸足を移し、対米の構図で通商政策を展開しますと、日米同盟にも亀裂が生じ、軍事的野心をもはや隠さない中国を利してしまう点です。RCEPの成立を急いだ結果、中国の軍事的脅威が高まるようでは、安全保障を含めて日本国に対する影響をトータルに評価すればマイナスとしか言いようがありません。

 報道では、従来消極的であった中国が、米中貿易戦争に直面したことで、ようやく歩み寄りを見せたかのように説明しておりますが、習近平政権下の中国の国家戦略の基本路線が‘中国の夢’の実現である以上、RCEPもその踏み台に過ぎないのでしょう。対米要塞としてのRCEPが出現した時、日本国は、気が付かぬうちに中国陣営に組み込まれてしまいかねません。RCEPが、政治経済の両面において日本国の自滅となるリスクが存在する以上、拙速は避けるべきではないかと思うのです。

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