万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

各国の農業潰しの意図とは?-‘グローバル農業政策’の犠牲

2024年02月26日 13時02分10秒 | 国際政治
 目下、ドイツ、フランス、オランダなどのヨーロッパ諸国では、農家による政府に対する激しい抗議運動が起きています。同抗議運動の主たる理由として挙げられているのが、農家に対する補助金の削減です。ウクライナ紛争以来、何れの国も物価高に見舞われている折、政府は、補助金の増額どころか、削減の方向に動いているのですから、農家の怒りが爆発するのも理解に難くありません。フランスでは、既に農産物価格が原価割れとなっているそうです。そして、この農家による抗議の広がりは、農家を追い詰める不可思議な政策の推進が一国の問題ではない現状を示しています。それでは、何故、時期を同じくして数多くの諸国の農業が危機に直面させられているのでしょうか。

 政府による‘農業潰し、あるいは、’農業迫害政策‘とでも言うべき農家への圧迫は、近年、日本国においても顕著となっております。長期に亘る減反政策に加え、昨年は、酪農農家の経営が危うくなり、廃業数も増えています。日本国の場合、家畜飼料は輸入に頼っているために円安は飼料価格の高騰を招いていますし、光熱費や配送費も嵩んでいるそうです。このため、赤字経営に陥る酪農家も多く、事業継続が困難となっているのです。こうした場合、常識的に考えれば、政府は、経営維持のための支援策を実施するはずです。ところが、日本国政府は、飼育頭数を減らした農家に補助金を支給するという、事業縮小・廃業推進政策で応じているのですから理解に苦しみます。自らの手で牛舎を閉じさせようとしているかのように・・・。

 それでは、何故、多くの諸国において、政府による不条理な農家潰し政策が行なわれているのでしょうか。これは、全世界レベルでの一斉に起きた現象ですので、単なる偶然とも思えません。そこで、浮かび上がってくるのが、グローバルレベルで推進されている過激な環境政策です。世界経済フォーラムに代表される世界権力は、温暖化ガスの発生原因として農業、とりわけ酪農を目の敵にしています。飼育されている家畜は、生きているだけで‘反地球的存在’となり、その‘抹殺’が試みられていると言っても過言ではありません。昨今、各国の政府やマイクロソフトのビル・ゲーツ氏などが、人工ミートや昆虫食の普及に乗り出しているのも、環境政策とリンケージした‘グローバル農業政策’の一環であるのしょう。

 農家が潰れようが、人々が飢えようが、地球環境が大事という、殆ど狂信者としか言いようがないのですが、世界権力は、真に‘地球環境の保護’を自らの使命としているのでしょうか。‘地球環境の保護’を持ち出せば、全人類のために働いているというスマートな‘格好良さ’と口実を得る事が出来ます。また、反対意見を封じ込め、不満の言葉を飲み込ませるにもうってつけです。‘地球の破壊者’というレッテルを貼ることができるのですから。つまり、正義の仮面を被り、かつ、反対者を悪者に仕立てることであらゆる抵抗を抑えつつ、自らの未来ヴィジョンの実現に向けて歩を進めることができるのです。しかも、なんと申しましても、地球環境問題は、全人類が共に取り組むべきグローバルな問題として宣伝されています。このため、各国の政府が農業潰し政策を行なっても、国民からは当然のこととして見なしてもらえるのです(各国の政府が世界権力のコントロール下にあることに気がつかれない・・・)。

 環境問題は善意を装うために掲げた表看板に過ぎないとしますと、世界権力の真の目的は、別に探さなければならないこととなります。そしてそれは、労せずして自らの懐に巨額の利益が転がり込む仕組みをグローバルレベルで造ることのように思えます。このように推理する理由は、今般の農家迫害政策は、ウクライナ紛争と関連している節があるからです。

 今般のヨーロッパの農家の怒りは、環境政策ばかりに起因しているわけではありません。実のところ、物価上昇は対ロ制裁によるエネルギー価格の上昇、並びに、ウクライナからの安価な穀物の輸入増加も、その原因として指摘されているのです。現実を見れば、ウクライナ紛争における‘利得者’とは、エネルギー資源の輸出においてはロシア(制裁発動後の方が増収・・・)、穀物輸出においてはウクライナです。加えて、アメリカと言ったエネルギー資源や穀物・食肉輸出国も、価格上昇の恩恵を受けていることでしょう。その一方で、ヨーロッパ諸国や日本国は、高い価格で石油や天然ガス、並びに、飼料用を含めた穀物を輸入せざるを得ず、それが‘嫌’であれば、食糧不足に耐えるか、代替食品を受け入れるしかない状況に追い込まれているのです(農地も太陽光発電用に転用・・・)。自らの政府によって。

 全世界を舞台とする‘グローバル農業政策’の存在が表面化しているのですから、陰謀論として斜に構えていられる時期を既に過ぎているように思えます。グローバル時代と称される時代であればこそ、グローバルに構築されている理不尽な仕組みを熟知した上で、各国共に自立性を取り戻し、自国の農業並びに国民の食生活を護るための政策に立ち返るべきではないかと思うのです。

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