経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

結婚不要社会に生きる

2019年07月21日 | 社会保障
 結婚ほど、常識で考えてはいけないものはないと思う。時代によって大きく変化してきたものなのに、今ある形が当然で、それ以外は倫理に反するとまで感じてしまうからだ。我々の当然が未来の非常識にだってなり得るという、価値観に対する謙虚さが必要である。結婚を語る上で、学術的成果を学ぶことは欠かせないのであり、その際、山田昌弘先生の『結婚不要社会』は、かっこうの手引きとなるだろう。

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 かつての「嫁して3年、子なきは去る」ということわざは、女性の人権蹂躙そのものという感じがするが、社会保障などない昔は、イエを存続させるしか人々に生きる術はなく、相手を変えてみる以外に不妊の原因を知りようがないのでは、互いのためにやむを得ない仕儀であった。むろん、今では、結婚せずとも老後の保障は得られるにしても、社会を持続させるために、変わらず、結婚は重要な要素であり続けている。

 山田先生は、新著の第1章で、結婚難の原因は、意識変化ではなく、年収の高い男性と結婚できる確率の低下という経済条件の変化にあると指摘する。その背景には、1997年以降の非正規雇用の増大がある。むしろ、夫の収入への期待は変わらないまま、「婚活」という相手探し競争が起こり、結婚が愛情だけに基づくものになるという欧米のような方向とは逆に、想定外の「恋愛の衰退」までもが起こってしまったと説く。

 日本の結婚における経済的要素の強さについては、再認識させられる。日本では、家事の一環として妻が夫のお金まで管理するし、愛が冷めたからといって、夫から離婚される心配はなく、逆に夫がリストラされて無職になると、あっさり離婚に至るとされる。これだけ経済的要素が強いと、欧米のようなパートナーを組むことへの社会的圧力がない以上、男性の経済的地位が悪化すれば、結婚する理由がなくなってしまう。

 問題は、多くが結婚を選ばない社会は、持続可能でないことだ。これまでの少子化対策は、女性の仕事と家庭の両立という観点が強かったが、それだけでは足りないように思える。待機児童対策は着実に進んでいるものの、出生率の改善は停滞している。むしろ、環境整備に伴い、男性が共に働ける女性を求めるようになると、非正規にしか就けない女性にとっては、結婚のハードルは上がることになろう。

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 今後の施策の方向性としては、山田先生も言及する「非大卒若者」に焦点を当てたものが欠かせない。具体的には、非正規も、被用者の社会保険に加入できるように適用を拡大したり、育児休業給付を実現したりするものだ。結婚、妊娠すれば、仕事を辞めざるを得ない弱い立場にある人に対して、こうした「差別」があるようでは、結婚しようにもできないというのが実情だろう。

 もちろん、適用拡大をすれば、中小零細企業にも負担が生ずるから、これを緩和する必要があるし、すべての人に育児休業給付をするとなれば、雇用保険料を上げたり、公的負担を入れたりせざるを得ない。いずれも財源がいるわけだが、現状の緊縮財政を緩和することで、順次、実現していくことは可能である。次世代に借金を回すなとして、緊縮をしているわけだが、肝心の次世代が先細りでは、苦行は無意味であろう。


(今日までの日経)
 「最低」に張り付く賃金。食品値上げじわり浸透 シェア奪うPBも。


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