経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

戦う前から負けが決まっているような少子化対策

2023年06月07日 | 社会保障
 2022年の合計特殊出生率が過去最低の1.26になったことについて、官房長官は、静かなる有事だとしたようだ。有事の割には、勝つ戦略の立案より、財源をどうするかが焦点になっているのは、情けない状況だ。少子化対策において、足りないのは財源ではない、理念の徹底である。勝つために何が最善かを考えるのではなく、財源の枠でやれることを考えてしまう。それでは、戦う前に負けが決まる。どうして、この国は、こうなってしまうのかね。

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 面倒くさいので、先に財源を3.9兆円出しておく。少子化なんだから、子供に関する財政負担はどんどん減っていく。12年後には、小中高の人口は270万人減る。1人当たり100万円の学校教育の公費負担があるのだから、2.7兆円の財源が出る。同様に、保育は、74万人減の1人70万円で0.5兆円、児童手当は、297万人減の1人13.2万円で0.4兆円だ。合わせて、3.6兆円で、偶然にも、「こども未来戦略会議」が示した3兆円半ばの政府案が賄える計算だ。

 加えて、高校生の年少扶養控除を廃止すると、0.3兆円の財源が出てくる。高校生に月1万円の児童手当の拡大には0.4兆円が必要なので、大半が賄える。当然ながら、5割を占める低所得層にはプラスだが、3割の中所得層はトントン、2割の高所得層はマイナスになる。少子化対策でマイナスはないので、高所得層には、特例を設けるか、高校無償化の所得制限の撤廃で補うべきだろう。

(図) 


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 問題は、勝つ戦略の立案だ。「会議」の戦況分析は的確で、若者、特に非正規の経済的苦境が少子化の要因とする。それで、どうするかというと、「賃上げ」だよ。なんて、迂遠な。そして、非正規への育児休業給付に必要となる雇用保険の適用拡大については、「検討し、2028年度までを目途に実施」だ。「会議」の事務局長役の山崎史郎さんの「人口戦略法案」では目玉だったのに、どうしてこうなった。

 本当に、若者の苦境を救いたいのなら、育児休業給付の普遍化や低所得層の社会保険料の軽減を断行すべきだ。本コラムが示したように、0.7兆円と1.1兆円で実現できることだし、財源を社会保険の枠外から投入すれば良い。おそらく、その枠が破れなかったのだろう。破れなければ、連合の芳野構成員がネガティブなペーパーを「会議」に出すのも仕方なく、こうなると、実現までの道は遠いものになる。

 戦いに勝つには、要衝を攻めなければならない。カネの算段がつかないと言って、攻めをあきらめていたら、戦う前から負けが決まってしまう。勝つためには、最善を尽くさなければならず、それでも本当に勝てるのかと思えるほど、少子化との戦いは厳しいのに、投入する戦力を渋っているようでは、結果は見えている。異次元の少子化対策とは、従来の枠を破るものでなければならない。

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 「会議」では、若者の所得を増やす、社会の構造・意識を変える、すべての世帯を切れ目なく支援するという3つの基本理念を掲げている。非正規に育児休業給付を出さずに、所得は十分なのか、非正規への子育て支援の差別は、変えるべき社会の構造・意識ではないのか、非正規に育児休業給付がないのを切れ目とはしないのか。理念は立派でも、非正規は、その視野に入っていないようだ。

 非正規を少子化対策の対象にするということは、勤労者皆保険を実現するということでもある。社会保険で正規・非正規の壁があることが、労働時間の柔軟な変更を難しくして、正規の子育てを辛くし、皆保険にしないことが厚生年金の全体の水準を低くとどめ、壁が労働供給を制約して成長を妨げている。情けは非正規のためならずだ。非正規の仲間を助けようという思いこそが大切で、結局、それが正規の厚生の改善にもつながる。

 少子化の緩和には経済合理性があり、持続可能性を高めるので、制度設計を工夫すれば、本来的に負担増なしでできるものである。負担増の問題をうまく処理できないのは、財政的な狭い枠を破れないからに過ぎない。この国が衰退するのは、少子化によってではない。大局を知らず、狭い視野で問題に対処しようとするからである。


(今日までの日経)
 日経平均続伸、33年ぶり3万2000円台。少子化加速と社会保障 小塩隆士・正々堂々、増税を掲げよ。翁百合・低所得世帯の負担率が諸外国よりもかなり高い、低所得の若い人たちへの支援が急務。

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