経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

無意味な児童手当に狂奔するなかれ

2023年02月26日 | 社会保障
 少子化対策で児童手当が焦点になり、財源論が喧しくなっているが、皆、何か勘違いしているのではないか。理屈から言えば、既に生まれている子供への手当増は、ほとんど意味がない。例えば、来年、高校生に児童手当を与えるようにしても、来年、高校生の人口が増えるわけではない。増えるのは、来年、生まれた子供が高校生になる16年後である。

 そうであれば、財源については、16年後に給付することを決定し、16年かけ、ゆっくり用意すれば良いことになる。2025年度には、基礎的財政収支の赤字をゼロにする財政再建目標が達成されるので、それ以降は、成長に伴う税収増を新政策に充てることも可能になるので、増税なしに児童手当を拡大することは難しくない。

………
 もう一度、角度を変えて説明しよう。高校生の親は、だいたい40代半ばである。そんな親に児童手当を与えたとして、新たに子供を産むだろうか。年齢的に無理があり、産みたくても望めまい。すなわち、今の高校生に給付する児童手当には、出生を増やす効果はなく、少子化を緩和するには、ムダが大きいとしか言いようがない。

 高校生への児童手当に意味があるのは、来年、産むかどうか躊躇している若い人達に対して、「来年、生まる子供には、高校生になったときには給付があるから、先々の心配はないよ」と説明し、背中を押すところにある。約束が疑わしいなら、16年後に現金化できる交付国債でも渡せばよい。今の高校生への給付は、そういう社会に変わったと示す意味しかない。

 ※なお、筆者は、別の理由から、今の高校生への給付拡大には賛成である。

………
 それにもかかわらず、児童手当ばかりが注目され、来年の財源をどう賄うのかと白熱している。嗚呼、この国は、また少子化対策に失敗するんだなと、暗澹たる気持ちになる。どうして、袋小路に入ろうとするのか。出生を増やす施策とは、子供を持てるのか迷っている若い人達に、できると決意してもらえるようにする施策だ。その基本を外してはいけない。

 例えば、非正規への育児休業給付の拡大である。そうした生活の保障がなくて、どうやって子供を持てと言うのか。また、非正規への社会保険の適用の差別を放置して、どうやって、結婚後の家計を支えられるのか。低所得者の社会保険料の軽減を税の還付で行えば、勤労者皆保険が実現し、「年収の壁」もなくなり、年金の水準まで向上する。(参照:2023/1/1)

 教育費の負担であれば、今の大学生の学費を軽減する以上に、既に奨学金を抱えて結婚が難しくなっている若い人達の軽減策を考えなければならない。児童手当を増やしても、塾代が上がるのでは、子供を持とうとはならないから、学校の教材費を無償化して、誰もが必要十分な家庭学習にアクセスできるようにすることが大切だろう。

(図)


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 繰り返そう。児童手当がもらえることに狂奔してはいけない。子育て支援策は、これから生まれる子供に対する部分だけが少子化の緩和に効果を持つ。少子化を緩和するためには、若い人達に子供を持てると決意してもらうのに何が必要かを突き詰めて考えることだ。そうであれば、財源確保も、時間軸が伸びて容易になるはずである。


(今日までの日経)
 膨らむ新興国債務 最貧国の返済額3割増。植田日銀、副作用軽減探る。妊娠確認の初診補助へ。


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