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経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

コロナ禍の設備投資の大変動と金融政策

2023年05月07日 | 経済
 今年のゴールデンウィークは観光地が賑わいを見せ、コロナ禍も過去のものになろうとしている。この間、設備投資は、また一つ大きなイベントを経験した。設備投資は、金利によって調整されるというのが教科書的な理解だが、実際には、需要の変動のリスクに強く影響を受け、イベントで揺れ動くのが実態だ。これを眺めるにつけ、金融政策で、設備投資を促進し、成長を加速するなんて、机上の空論にしか思えないのである。

………
 日本の設備投資が、バブルの膨張と崩壊を経て、増加トレンドを失ったのは、橋本デフレの大規模な緊縮財政でデフレに転落した1997年である。設備投資の4割を占める機械・設備の代表的指標である鉱工業生産の資本財(除く輸送機械)の推移を眺めると、1998年に急落したのを受けて、日銀がゼロ金利を始めて以降は、急落しては戻していくを繰り返すだけになっている。

 急落のイベントを順にたどると、橋本デフレ、ITバブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍と続く。急落の激しさを測るため、4か月スパンでの変化率を使うと、1978年から2023年までの全月の平均が4.0%で、標準偏差が3.7%であるのに対し、それぞれのイベントでの標準偏差の倍率は、橋本デフレでの下げが3.8倍、ITが3.6倍、リーマンが7.9倍、大震災が2.6倍、そして、コロナ禍が3.2倍、直近の2023年1月の挽回生産終了が3.1倍だ。

 標準偏差の3倍を超えるイベントがこれだけ頻発すると、設備投資の変動は、正規分布でなく、対数正規分布にはなっていて、リーマンでの異様に大きな倍率からすると、べき乗分布の可能性もある。あまりに変動のリスクが大き過ぎ、収益率の期待値に基づいて、合理的に設備投資を判断するなんて、とても無理であり、ひたすら、変動をひき起こす需要の動きに着いて行くだけで精一杯だろう。

 金融緩和は、実質金利を低下させ、収益率を上乗せし、設備投資を促すものだ。産業政策での投資減税や補助金も同様である。しかし、変動のリスクを踏まえれば、どれほど役に立つものかと思えてくる。大事なのは、需要の安定ではないだろうか。そこを、橋本デフレだったり、小泉構造改革だったり、アベノミクスだったりと、緊縮で需要を抜いて、みずからリスクを加えているようでは、話にならない。

(図)


………
 植田日銀は、過去25年間の金融緩和の検証をするらしい。相関だけで言えば、ゼロ金利にしたら、設備投資が成長しなくなったというのが事実関係だから、金利のない金融政策は無力だったという結論になりそうだ。金融政策にできることと言えば、せいぜいバブルを作らないよう運営し、崩壊の過程での設備投資のフリーズを避けるくらいかもしれない。もっとも、FRBのように、地方銀行の長期投資のバブルを急速な金利の引き上げで潰し、金融不安でインフレを抑制しようという新たな試みもあるようだがね。


(今日までの日経)
 CO2排出、負担軽い日本企業 欧州の7分の1どまり。WHO、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表 3年3カ月。米FRB、0.25%利上げ インフレ抑制を優先。少子化財源の負担抑制策検討 茂木幹事長。


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