経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

子供の貧困対策は未来への投資

2015年09月20日 | 社会保障
 「子どもの貧困」が言われたと思ったら、今度は「下流老人」が話題である。日本経済は、1997年以来、名目GDPを増やせていないのだから、そこかしこで貧困が炸裂するのも当然だ。特に、若者や女性を直撃したから、打ち続く少子化で人口崩壊も避けられない事態に至っている。企業は日本をあきらめ、海外に活路を見出すまでになった。

 こうなった原因は、あまりに稚拙な経済運営にある。1997年の消費増税などの大規模な緊縮財政でデフレに転落させて以来、景気が回復しかけると、緊縮財政で芽を摘むことを繰り返してきた。アベノミクスの円安株高で勢いに乗った2013年、消費増税でマイナス成長に暗転した2014年、停滞の続く2015年は、「いつものパターン」である。

 成長の範囲内で再建を進める「穏健な財政」に変えるだけで、日本経済は着実に成長する。緩やかでも成長するようになれば、企業も国内に目を向け、設備にも人材にも投資するようになり、貧困も徐々に癒されよう。それは出生率を押し上げ、社会保障を安定させ、財政負担も楽にする。しかし、「緊縮策という病」は、日本に取り憑いて離れないのである。

………
 日経ビジネスの中川雅之記者は、本誌とオンライン(NBO)で「2000万人の貧困」という特集を組み、反響も大きく、『ニッポンの貧困』の出版も実現した。日経が貧困を取り上げたこと自体も注目を集めたようである。社会問題は、様々な要因が絡むので、何が原因で、どうすれば良いかは、簡単に答えが出ないものだ。しかし、貧困は、「様々な」で済ましておくわけにはいかない重大な問題である。  

 それを端的に示せば、前節のとおりとなる。中川記者は、「必要なのは慈善より投資」と主張するが、企業が正社員採用という「投資」をしなくなったのは、政府が「摘芽型財政」で需要リスクを加え続けてきたからである。投資がリスク次第であることは、今回の消費増税で、低金利と企業減税の下、課税対象でない設備投資でも反動減が起こり、そこから回復と停滞という経過をたどったことからも明らかだろう。

 社会問題の解決には、マクロとミクロの双方の対策が要る。失業には雇用増大と労働移動の両面が欠かせず、職業訓練だけで解決できないのと同じである。特に、日本では、130万円の壁があり、職業訓練によって、仕事を得させるだけでなく、非正規から抜け出させなければ、貧困脱出にならないという関門が待つ。

 母子世帯の母は、子供の面倒を見る必要があるため、「残業が当然」の正社員であることも苦しい。130万円の壁があるために、8時間労働の正社員という程よいポストがほとんどなく、パートか長時間かの選択を迫られ、非正規と正規の間を行き来することも叶わないという不自由な立場に置かれている。

………
 貧困対策には、安定的な経済運営、税・保険料の制度改革といったマクロの対策とともに、ミクロの対策を丁寧に積み上げて行くことも必要だ。その第一に挙げられるのは、貧困の連鎖を断ち切る、子供への学習支援である。具体的な取り組みは、NBOの『脱・貧困、足立区で始まった挑戦』(3/25)でも紹介されているところだ。

 貧困ゆえに学習環境に恵まれず、学力が十分でなく、全日制高校に進学できなかったり、進学してもドロップアウトしたりでは、良い仕事に就くのは難しくなる。NBOの『日本社会の「前提」が崩れ、貧困が生まれている』(9/4)で、阿部彩先生が指摘するように、生活保護から脱して、非正規で働ければ、約7000万円の社会的便益になり、正規なら、約1億円になるのだから、学習支援で卒業が勝ち取れるとしたら、安いものだろう。

 学習支援には、様々なタイプがある。一つのパターンは、就学奨励員が貧困家庭を回って、進学の相談に乗り、中三を中心に学習支援への参加を促すとともに、集まった子供に、退職教員などの学習指導員が、週に1,2回、個別に勉強を教えるものである。費用は、支援内容にもよるが、1人当たり25~30万円かかる。(参照:三菱総研『生活困窮世帯の子どもの学習支援事業』2015年3月)

 「お高く」感じられるかもしれないが、貧困家庭では、生活に追われて将来への希望を持ちがたく、宣伝すれば集まるというものではない。勉強が遅れ気味の子供には、個別指導が欠かせないこともある。本当は、中三の時だけでなく、それまでに学習習慣を身に付けさせておくことが大切だし、加えて、高校進学後のフォローも非常に重要だが、そこまで手が回っていないのが現状だ。

 この関係の厚労省の2015年度予算は19億円、地方負担分を含めた総事業費は38億円に過ぎない。子供の貧困率(収入122万円以下の世帯の児童)は16.3%であり、人数では約330万人、1学年当たりで約18万人もいる。つまり、ニッポンの貧しい子たちへの「投資」は、中三の時に1人当たり2万円ちょっとということだ。仮に、1人25万円が必要であるとすると、対象者の8%の1.5万人分だけしか用意されていないことになる。

 もし、対象者全員に行き渡らせるとすると、国費で200億円程の追加が必要になる。数兆円規模の景気対策の補正予算からすれば、限られた大きさである。稚拙な経済運営で需要を締め過ぎ、ゼロ成長に慌てて還元しようというのだから、貧困を蔓延させた罪滅ぼしに、せめて、貧しい子たちの未来を閉ざさぬよう、「投資」をしてはどうか。これこそ、将来の税収増と社会保障の負担減につながる、活きたカネの使い途に思える。

………
 成長を無視した緊縮財政は、需要リスクを企業に与えて、設備や人材に対する投資不足という不合理を生み出す。また、目先の財政収支を少しでも良くしようとするあまり、少子化を放置し、必要な教育を怠ってしまうのは、長期的に国を衰亡させ、将来の経済力を捨てるに等しい。こうした長期的な合理性に反する政策に固執するとすれば、もはや「病」としか言いようがあるまい。子供の貧困対策は、温情ではなく、理性に基づく政策である。今、我々は、未来の日本人に試されているのだ。



(今日の日経)
 ゼロエネ住宅一斉販売。安保法成立、首相が国連総会で説明。



コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 9/16の日経 | トップ | 9/25の日経 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お子様の給食費ぐらい (アルピーヌ)
2015-09-21 08:19:32
無償にして当然だと思います
有用な記事を 何時もありがとうございます。
Unknown (Unknown)
2015-09-21 11:15:02
民主党が高校無償化、子供手当て税額控除から直接給付の政策提案したけど自民信者が在日が需給したらどうすんだとごねて葬りさられたから無理。
金持ちは貧乏人に税金がいくのはいやなの
貧乏な家庭に生まれても自力で大学出て出世した人がいるから人に頼るのは甘え。努力が足りない
子供の貧困の連鎖は起こらない、なぜなら貧乏人は子供を作れないから、皮肉にも子供を作らないことが清和会
日本会議を殺す一番有効の手段だと奴隷が気づいてしまった。

コメントを投稿

社会保障」カテゴリの最新記事