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ダム女

 黒部ダムからトロリーバスで駐車場に戻ろうとした時、これからどうする?という話になった。私には何も考えはなかったし、妻も特に立ち寄りたい場所があるわけでもなさそうだった。すると、「もっとダム見に行こうよ!!」と娘が言い出した。この旅行も、一度は行きたいと思っていた黒部ダムが目的地だから日程をやりくりしてついて来たほどの「ダム好き」であるから、そう言うのも納得できる。黒部ダムでも一番元気に歩き回っていたし、あれこれダムについての薀蓄を傾けてくれた。息子など途中から聞かなくなってしまうが、その説明がなかなか要点を捕らえていて面白いから、私も妻も思わず聞いてしまう。「まったく講釈タレなんだから・・」と思いはするが、久しぶりに娘のはしゃぐ様子を見るのも嬉しい。
 「どこに行けばいいんだ?」
私が聞くと、
「ちょっと遠いけど高瀬ダム」
と言う。手持ちのパンフレットにはしっかりそのダムの名前が書いてあるが、どうやっていけばいいんだろう?車のナビに道案内をさせるには電話番号を入力するのが一番早いので、私が携帯でググッてみた。
「おい、ダメだ、そのダム。車で直接行けないんだって。黒部みたいに車を置いて、バスかタクシーで行かなくちゃいけないらしい」
「それは今からだとちょっとしんどいね」
妻がそう言うと、娘は残念そうな顔をしたが、
「それなら手前にある七倉ダムと大町ダムなら車でいけると思うから、行こうよ。お願い!」
「仕方ないなあ・・。ダム女の言うことを聞いてやるか・・」

 しかし、そのおかげでものすごいものを見ることができた。


 「そこを曲がって」
と、かなり山奥まで登った頃に標識が出た。
 「分かった」と言って曲がった先に、なんと巨石の壁が行く手をふさいでいた。
 「何だ、これ!!」
 「すごいでしょう!!ロックフィルダムって言うんだよ。地盤が堅くなくて、コンクリートダムの建設が困難な場合に使われる工法」
 こんなダムを見るのは初めだ、思わず言葉を失ってしまった・・。車を止めて外に出たら、その巨大さに押し潰されそうだ。呆然としていたら、娘がダムの外壁に造られた階段を登り始めた。ダム湖を見に行くつもりだ。私も頑張ってみようか、と登り始めたが、もう途中まででヘトヘト・・。しかし、やっぱりダム湖は見たい。もう後はヤケクソ気味になって登っていった。

 

 先に登りきったはずの娘と息子の声が聞こえてこない。声も出せないくらい圧倒されているのか、棒のようになりかけた足に鞭打って最後の力を振り絞った。そのご褒美は・・。

 


 登ってよかった・・。なんて素晴らしい景色だろう。言うまでもなくダムは人工の建造物だが、この石を積み上げて造ったダムだと、自然の一部になっているように思える。なんという景観だろう!!
 それはこの後立ち寄った大町ダムと比べてみるとよく分かる。

 

 大きくて立派なダムだが、無機質な冷たさを感じてしまう。

 ダム女のおかげで、思いがけない美を発見した。ひょっとしたら、ダム見学が私の趣味になってしまうかもしれない。
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