中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

経営のこと、政治のこと、社会のこと、趣味のこと、人生のこと

経済性入門第5回

2012年03月13日 | Weblog
資本コスト

 前号の設問の解法で、限界利益の増加分と広告費を相殺したことに疑問があったかも知れないので、老婆心ながら解説を加える。実は損益分岐点売上高で、固定費は消え、その後の売上の増加は変動費を差し引いてすべて利益になっているのだ。最近の激安航空会社の航空運賃はさておき、通常の航空会社の定期便でも旅行会社の団体ツアーなどに相当安い運賃で航空券を販売できるのは、このカラクリによる。一定の席数(損益分岐点)を通常運賃で販売できれば、残りの席は変動費より高い料金で販売できれば、その差額はすべて利益となる。

 うどん屋の問題の場合を検証してみよう。このうどん屋の損益分岐点売上高は1,188杯、正確には1,187.5杯だった。そして2,000杯の売上の利益は26万円だった。(2,000-1,187.5)[杯]×(500-180)[円/杯]=26万円。すなわち損益分岐点売上高を超えた部分の売上からの利益は、販売価格から変動費のみを差し引いたもの(限界利益)がすべて利益になっていたのである。

 今回の主題に入る。企業が事業を行うためには、何といってもお金がいる。その調達先は自己資金(資本金=株主資本)であり、借入金(他人資本=有利子負債)である。自己資本は返済の必要はないし借入金のような利子も付かないが、株主への配当としてやはりコストがかかる。一方借入金は負債として返済の必要があり、利子の支払いが生じるけれど、利子分は営業外損失として計上出来る(法人税法上損金算入される)ため、その分税金が減るメリットはある。

 これら配当や税引き後の利子にかかるコストを「資本コスト」と呼ぶ。複数の資金調達源泉がある場合、それらの加重平均を求めて得られる値であり、加重平均資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)*2)と呼ばれる。投資の採算性を比較する場合などに、将来に見込まれる投資額や収益を現在価値に割り戻す(正味現在価値法)場合にこの資本コストが使われるため、採算性分析に必要となる。

 企業は調達した資金のコスト(資本コスト)を投資して利益を生み出すが、その収益率は資本コストを上回る必要がある。資本コストは必要収益率の最低であるため、将来の投資額を現在価値に並べて比較する場合に、この資本コストで割り戻すのである。資本コスト3%の企業の5年後の1,000万円の現在価値は、1,000/(1+0.03)5=862.6万円である。

 有利負債が3,000万円で、自己資本1,000万円の会社のWACCを求めてみる。それぞれの税引き前資本コストは有利子負債が3%、自己資本を4%とし、実効税率を40%とすると、{1,000/(1,000+3,000)}×0.04+{3,000/(1,000+3,000)}×0.03×(1-0.4)=0.0235、すなわち2.35%となる。




*2)加重平均資本コスト(WACC)
  ={E/(E+D)}×rE+{D/(E+D)}×rD×(1-T)
  E:自己資本、D:他人資本(有利子負債)、rE:Eの資本コスト
  rD:Dの資本コスト、T:実効税率
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする