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新、経営を考える第5回

2016年06月13日 | ブログ
両利きの経営

 「技術の日産、販売のトヨタ」などと云われていた時代。確かに日産のニューブルーバード(1967年)に搭載されたダットサン510のエンジンなど優れものであったそうだ。ところが次が出ない。そうこうするうち、乗用車としては新参の三菱自動車のサターンエンジン(1970年)や公害対策車ではホンダCVCC(1972年)の後塵を拝すことになる。

 当時から時代の先端技術を開発した企業は、当該部署の権限が強くなり却って次が続かないとは聞いていたが、その論証が昨年、BPマーケティング社から出た「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」(入山章栄 著) にある。

 車でも家電品でも、多くの部品から成り立っているが、それぞれの部品ごとの設計デザインの知識が「コーポーネントな知」であり、それらの部品を組み合わせて一つの最終製品にするための知を「アーキテクチャルな知」と呼ぶ。

 業界で新製品が生まれてしばらくは部品同士の最適な組み合わせが課題となるが、組み合わせが確立され業界内で標準化が進むと、これが「ドミナント・デザイン」と呼ばれるものとなり、その後は部品それぞれの機能を高めるため、「コーポーネントな知」が重要となる。

 ドミナント・デザインが確立するにつれて、企業の組織構造やルールもそれに順応し、部門間のコミュニケーションの大胆な変更・調整(部品を取り変えようなどという試み)を難しくさせる。その結果「新しい組み合わせ」によるイノベーションに対応しなくなる。そこに先端技術を開発した企業のその後の開発停滞の一因がある。

 ひとつの知識・技術を掘り下げることを「知の深化」と呼ぶ一方、自分達の知らない遠い分野の知を求めることを「知の探索」という。イノベーションの父とも呼ばれた経済学者ジョセフ・シュンペーターが80年も前に提示しているように、イノベーションの源泉の一つは「既存の知と、別の既存の知の、新しい組み合わせ」にある。人間は、ゼロからは何も新しいものを生み出せない。今ある知と、それまでつながっていなかった既存の知を新たに組み合わせることで、新しい知が生まれるのである。

 「両利きの経営」とは、「知の深化」と「知の探索」の両方をバランスよく推し進める組織体制・ルールづくりを持った企業といえる。

 『企業組織はどうしても「知の深化」に偏り、「知の探索」を怠りがちになる。人・組織には認知に限界があり、予算という制約の中で目先の収益を高めるためには、今業績の上がっている分野の知を「深化」させることのほうがはるかに効率が良い。他方「知の探索」は手間やコストがかかるわりに、収益に結び付くかどうか不確実であるため、敬遠されがちである。この企業の知の深化への傾斜は、確かに短期的な効率性は良いが、結果として知の範囲が狭まり、企業の中長期的なイノベーションが停滞する。これを「コンピテンシー・トラップ」と呼ぶ。』




本稿は、「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」入山章栄著 (日経BPマーケティング社2015年11月刊)を参考にしています。



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