ブルーノってだれ?

「ブルーノってだれ?」(アーヒム・ブレーガー 佑学社 1982)

訳は大島かおり。
ドイツの児童書。

子どもの本だからといって、子どもが主人公とはかぎらない。
本書の主人公、ブルーノはひとり者のおじさん。
厳密にしらべたわけではないけれど、おじさんが主人公の子どもの本は、外国に多いような気がする。
とくに、ドイツから北にかけて。
余談だけれど、主人公の性別や年齢などを気にかけて本を読んでみるのも、また面白いものだ。

さて、本書はブルーノを主人公にした短編集。
17編がおさめられている。

「ブルーノ、いいわけ考案係になる」
「ブルーノと電話」
「ブルーノ、有名人をこころざす」
「ブーノ、芸人をこころざす」
「ブルーノと夜間警備員」
「ブルーノとこびと」
「ブルーノと鏡」
「ブルーノとディノ」
「ブルーノ、皿洗いになる」
「ブルーノと銅像」
「ブルーノの頭」
「ブルーノ、旅をする」
「ブルーノ、強盗をこころざす」
「ブルーノと時間」
「ブルーノと雪だるま」
「ブルーノ、かかしになる」
「ブルーノとわらい」

おじさんが主人公の子どもの本で、さっそうとしたおじさんがでてくることはまあない。
ブルーノもその例にもれず。
空想癖があり、奇妙な職業につぎつぎとチャレンジする。

例をあげよう。
まず空想癖のほうから。
「ブルーノと電話」という話。

ひとりでうちにいるブルーノ。
テレビをみる気にも、本を読む気にもなれない。
なにをしたらいいか教えてくれるかもしれないと、電話案内所に電話をかけ、係の女性と話を。
女性は気さくなひとで、ブルーノの質問につきあってくれる。
そこで、ブルーノはからだを小さくして、電話線にもぐりこみ、彼女、電話案内係25番をたずねることに。
途中、混線していて道をまちがえたりするものの、無事到着。
勤務の終わった電話案内係25番と町へワインを飲みにいく。

…話はここで終わらない。
ラストはこんな風。

「けれど、ほんとうのことをいうと、こうじゃなかったのです。ブルーノは電話の中にもぐりこみはしませんでした。居間にじっとすわっていたのです。ざんねんだな、とブルーノは思いました。こんなことはただの空想で、じっさいにはできっこないんだ。そして、ブルーノはベッドに横になって、ねむりました」

奇妙な職業の例は、「ブルーノ、かかしになる」から。

いつもひろびろしたところに立っているかかしをうらやましく思ったブルーノ。
かかしになろうと思い、職業案内所をたずねる。
そんな募集があるのかというと、はたしてある。
112号室で採用の面接をしているという。
いってみると、面接官はかかし。
にこやかに応じてくれる。

「ここに来てくださるかたがあって、とてもうれしいですよ。職業紹介所かかし業面接室に来てくださって」

じつにシュールな展開だけれど、こういうとき、ひとり者のおじさんは驚いたりふしぎに思ったりはしない。
かかしから仕事のやりかたについて拝聴する。

「かかしは、時と場所にあった服装をすることもだいじです」

「そしてなによりも、かかしの仕事というのは、おだやかな方法しか使わないものでしてね。けっして暴力にうったえてはいけない。ほかの人ならとっくに鉄砲をもちだすようなばあいでも、かかしは立ってるだけで敵を追っぱらうんですからね」

翌日は畑で実地試験。
しかし、運悪くカラスの襲来をうける。
ブルーノは実力行使でこれを排除。

とにかく仕事への熱意を認められたブルーノは、かかしから、スズメ用のかかしになることをすすめられる。
スズメ用かかしとなったブルーノはめきめき腕をあげ、いまではあらゆる技に通じるように。
ラストはこう。

「来年は、南ドイツのすずめ大災害対策かかし主任に、任命されることになっています。ブルーノは、いまからそれをたのしみにしています」


本書を読んでいてしきりに思い出したのはチムニクの「レクトロ物語(福音館書店 2006)だった。
この本も、ひとり者のおじさん(もっと若い?)が、さまざまな職業にチャレンジする話。
その幻想味とせちがらさ、あるいはさびしげな感じには相通じるものがあるように思う。

ほかにも、子どもの本ではないけれど、「壜の中の世界」(クルト・クーゼンベルク 国書刊行会 1991)とか。
これはスイスの作品だけれど、「テーブルはテーブル(ペーター・ビクセル 未知谷 2003)とか。
どれも似た感じがする。

逆にいうと、チムニクはなにもないところから突然あらわれたのではなかった。
共通の感受性がある世界からあらわれたのだ。

これは、あまりにも個人的な興味にかたよった読みかた。
でも、このことがわかっただけでも、この本を読んでよかったと思った。


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