爆弾魔(承前)

続きです。
今回もまた、各短編の内容に触れていますので、未読のかたはご注意ください。

「サマセットの冒険――余分な屋敷」
次は、サマセットの物語。
シガー・ディヴァーンをでて、冒険をもとめてロンドンを歩きまわったサマセットは、白い手袋を優雅にはめた手に手招きされ、馬車に誘われる。
そこにいたのは老婦人。
老婦人はサマセットを邸宅に連れていき、一緒に夕食をとったあと、自身の身の上話をはじめる。

「気骨のある老婦人の話」
牧師の娘で、継母と折りあいが悪かった老婦人は、従兄のジョンと駆け落ち。
ところが、ロンドンのホテルで落ちあうはずだったのに、けっきょく相手がこなかった。

父の弁護士を訪ねると、二度と家に帰れなくなったものの、わずかな手当てをもらえることに。
そのお金を使いはたしたり、うっかりテムズ川に投げこんでしまったりして、ついには下宿代も払えなくなる。
夜逃げを決意するが、トランクが重くてうごかない。
そこで、街で大金持ちそうな紳士の腕のなかに突撃。

紳士は下宿まできてくれ、トランクを外にはこびだしてくれる。
さらに辻馬車で自分の邸宅に連れていってくれる。
紳士の名はヘンリー・ラクスモアといい、事情を聞いたヘンリーは求婚。
こうして老婦人は、ラクスモア夫人となった。

ヘンリーとは20年間連れ添うことに。
娘のクララが生まれたが、クララはいま家出中。
なんでも反体制派となり、ラクスモア、レイク、フォンブランクといった名前をつかって、なにやら活動しているらしい。

さて、ヘンリーが亡くなったあと、ラクスモア夫人は7つの屋敷をもつ身となり、借家人を追いだそうとして裁判に負けたりしている。
サマセットが連れてこられたこの屋敷は、なんと以前、ジェラルディーン大佐とフロリゼル王子に貸していたのだと夫人は話す。

ある8月、夫人がこの屋敷を訪れてみると、鎧戸が閉まっていた。
そこに立派な馬車で立派な格好をした連中がやってきて、食器類などをはこび入れ、食事の支度をして去っていった。
貸した家がきちんと管理されていないのではないかと、夫人は立腹。
夜、屋敷を見張っていると、男が3人、別べつに屋敷に入っていった。
なにか恐ろしいことが起きているにちがいないと、夫人も屋敷へ。

2人の男たちは食堂で談笑しており、もうひとりの男は配膳室で聞き耳を立てている。
食堂にいたのは、フロリゼル王子と見知らぬ青年。
青年は王子に、すぐこの場をはなれるように告げるが、王子が相手をしないでいると、ポケットから小びんをとりだし中身を飲んで倒れる。

夫人は王子の前に姿をあらわし、毒を飲んだ青年を助ける。
王子と2人で配膳室にいってみると、さっきの男は自殺していた。

一方、助かった青年は弁明する。
社会を良くしようと思っていたのに、仲間とともに恐ろしい手段に訴えることになった。
仲間から逃げだし、一時パリに潜伏したが、みつかり、組織に服従することになった。
王侯への憎しみから、今夜はフロリゼル王子を殺害しにきたのだったが、けっきょくそれは果たせなかった、うんぬん。

しかし、青年の煩悶とは異なり、夫人はたいそう実際的。
青年には死体を片づけるようにいいつけ、王子には賃貸契約を解消するように告げる。
身分の高い方に貸せば、低い者に貸したときのごたごたがないだろうと思っていたけれど、偉いひとには危険がつきまとう。

《殿下のお人柄には心から感服いたしましたが、土地建物の問題に関しては、感情に左右されるわけにはまいりません。》

賃貸契約は解消するが、この屋敷には二度と借家人を置かない。
そう、夫人は王子に約束をする。

「余分な屋敷(承前)」
話はもどって。
夫人はサマセットに、自分はエヴィアンに旅行にいくから、この屋敷をつかってほしいとサマセットに提案する。
サマセットは承諾。

なぜか絵描きになるときめたサマセットは、屋敷で画業に専念。
また、屋敷の一部をひとに貸すべく貼紙をする。
かくして下宿人があらわれる。
ジョーンズという病弱な紳士で、アイルランド人の後家の看護婦がついている。

下宿人本人は姿をみせない.
しかし、人相の悪い連中が訪ねてくるように。
下宿人は確実に犯罪者だと思われ、部屋を貸したサマセットは思い悩む。

さらに下宿人ジョーンズ氏の友人だという若い娘が部屋を借りにくる。
娘とジョーンズ氏が外出すると、サマセットはアイルランド人の看護婦を酔いつぶし、下宿人の部屋に侵入。
そこには、部品やら、時計やら、つけひげやら、アザラシの外套やらが。
そこに、ジョーンズ氏が帰宅。

《「お察しの通り、あの懸賞金はわたしにかかっているんです。それで、どうしますか?」》

お人好しのサマセットは、なぜかジョーンズ氏と2人で酒を飲み、語りあうことに。
ジョーンズ氏は、自分はゼロと呼ばれている爆弾魔だという。
ろくに成功したことがないが、爆弾をつくり、無差別テロを起こそうと、日夜奮闘しているのだという。

「ゼロの爆弾の話」
ゼロは、30分後に爆発する仕掛けをほどこした爆弾を、仲間のマクガイアにもたせたときの話をする。

マクガイアは、レスター広場にあるシェイクスピア像のところに爆弾をもっていったが、警官隊がいたために断念。
それから気が遠くなりながら、子どもに渡そうとしてみたり、親切な夫人に託そうとしてみたり、辻馬車に忘れようとしてみたり。

辻馬車に乗ったものの、マクガイアはお金をもっていなかった。
たまたま、河岸通りを歩いていた煙草屋の主人ゴッドオール氏をみかけ、以前店で買い物をしたよしみから、お金を借りようとすると、あなたの顔は見おぼえがありませんと、ゴッドオール氏にいわれてしまう。
でも、ゴッドオール氏はマクガイアのあごひげのことはおぼえていた。
そのあごひげが嫌いなので、剃るようにと、ゴッドオール氏は1ソヴリン貸してくれる。
けっきょく、爆弾は川に投げこんで爆発。

「余分な屋敷(承前)」
話を聞いた翌朝、サマセットはゼロに立ち退きを要求する。
が、ゼロは従わない。
それどころかサマセットは、うっかりゼロと一緒に朝食をとったりしてしまう。
この無邪気な爆弾魔を警察に突きだすか、そうせずに説得するかで、その後もサマセットは悩み続ける――。

もう1回続きます。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )