電脳巡警 その2

続きです。

1巻にはもう1編、
「レディ・レガシィ」
という、前後編の短編が収録されている。
これがまた面白いのだ。
──というわけで、ストーリーの紹介を。

まず、通報を受けたカンとバルは、レンタルビデオ屋へ。
通報の原因は、客とのトラブル。
殴られたあとが痛々しい店員いわく、
「お客さんが借りたソフトを消去して返却したので、それを指摘したところ、そのガラの悪い客が怒りだした」
とのこと。
カンとバルはとりあえず、「俺はやってねえ」という、ガラの悪い客を捕まえる。
ちなみに、問題のソフトは、「レディ・レガシィ」というポルノ。
客がやったのか、店員のチェックミスかわからないが、まったくバカバカしい事件。

署にもどり、バルはソフトをチェック。
やはり完全に消去されている。
「だれかが2度目に再生しようとしたとき、消去されるように仕込んでいたとか…」
と、バルがいうと、カンはあきれる。
「エロビデオ消去を企む謎の巨大犯罪結社! カッコよすぎるぞ」

そこに、荷物をはこぶのを手伝ってくれと、同僚があらわれる。
レンタルソフト専門の盗品故買屋を押さえたそうで、押収品のリストをつくっている。
箱の中身はポルノでいっぱい。
そのなかに、例の「レディ・レガシィ」が。
再生してみると、これも中身が消えている。

バルが、この種のソフトの未返却・消去・盗難などの被害をリストアップ。
すると、あちこちに「レディ・レガシィ」のタイトルがあらわれる。
「これは絶対普通じゃないですよ」

カンとバルはいつもの盗聴屋のところへ。
「そういうのが好みなの。へー」
などと、訳知り顔をしながら盗聴屋のおじさんは調べてくれる。
しかし、「レディ・レガシィ」は見つからない。
オンラインの店にもない。
市内のどの店からも消えている。
一体、これはなんなのか。

2人は、「レディ・レガシィ」をつくったプロダクションへ。
すると、煙があがっている。
プロダクションは火事で半焼。
マスターテープは熱線かなにかで念入りに焼かれ、その上で偽装火災が起こされている。

プロダクションの社長に、なにか「レディ・レガシィ」の残りはないかとカンが訊くと、「ワークならある」と社長。
マスターとは別に、編集作業のあたりをとるのに、一般用のビデオにダビングしたやつをつかったりする。
それがワーク。

「今はみんなデジタルだけど、うちみたいなとこはまだちょいちょいね」

と、社長はいうけれど、この未来世界にまだビデオテープがあるかどうか。
このあたり、15年以上前の作品として、味がでてきたところだ。

さて、社長とその部下のオタク君が部屋をひっくり返し、ついにワークを発見。
再生してみると、そのビデオは、オタク部下が「パワードニンジャVS火星のバイオスラッグ」という、しょうもない作品を上からダビングしてしまっていた──。

「ゴメンナサイ」

と、オタク部下君があやまったところで、前編は終了。

さて、後編──。
カンとオタク部下君は、どこかに残っているかもしれない「レディ・レガシィ」を探して、ポルノボックスをまわることに。
カンは、「レディ・レガシィ」の中身を知らないので、部下君を連れて歩くほかない。
そのあいだ、バルはネットワークにまだソフトが残っていないかどうか調査。

で、カンとオタク部下君は、泊まった安ホテルで有料TVをチェック。
すると、それらしき映像を発見。
ちょうどいま終わったところで、すぐまたはじまるはずだと待っていると、ぜんぜんちがう番組がスタート。
「都合により変更します」というテロップが流れる。

2人はフロントに押しかける。
が、暴漢に間違えられ、フロントのじいさんにショットガンを突きつけられてホールドアップ。
通報を聞いてやってきた、市警の同僚バートを驚かせる。
(このあたり、本来バート視点でえがかれている。視点の切り替えが効果的だ)

さて、車に乗せられた2人は、バートから意外な言葉を聞かされる。

「それならもってるぜ、俺。コピーしちゃった。女がこう毛皮着てるやつだろ。署のキカイ、たいがいのコピーガードもクリアするぞ。やってみな」

明日もってきてやる、とバート。

「でも、いっとくけど、すごくつまんねえぞ。つくったやつら、バカだぜきっと」

翌日、署でバルがモニタリングしながらビデオを確認。
予想以上のつまらなさ。
それはともかく、キャストおよびスタッフの前歴は問題なし。
なにかの犯罪行為が映っているわけでもない。

「撮影許可とってないところはあるか」
と、カンが訊くと、
「とってるとこなんかないっす」
と、部下君。

通行人に、極度にカメラ嫌いの王様でも映っていたのだろうか。
そこで、ホテルのラウンジを撮影した場面で、背景に入った人物たちの検索を開始。
厚生省事務次官、マーカス・バグウェルがヒット。
バグウェルと歓談しているのが、ゼネティックデータ事業部ブレナー副部長。
それから、シュウア・メディコのサカザキ専務。
ならびに、シュウアのSP。

「厚生次官とデータ会社と医療会社のおえらいが、ロイヤルロードのラウンジでお茶を飲んでいる──」

日常的な光景だ。
しかし、なんの話をしているのか。
バルがマザーコンピュータのパワーもつかって、次官たちの口のうごきから、話の内容を再現。

「DNAデータというのは説得力がありますし──」
「登録制は──年度の新生児をめどに──」

話の内容は、個人の遺伝情報を雇用統制に利用しようというもの。
エロビデオを狙っているイカれたやつらかと思っていたら、それ以上にやばい。
すると、バルが、この一部始終を外部からモニタリングされていたことに気づく。
さらに、机の裏に爆発物を感知。

とっさに爆発物を飲みこんだバルは、スクラップに。
カンは逃走する車を追うが、車は口封じにあらわれたシュウアのポリスに蜂の巣にされてしまう。

そして、エピローグ。
ビデオの内容だけでは、事件というわけにはいかない。
しかし、会話を復元したビデオを、バルはフリーネットワークに流してしまっていた。

「情報を失う危険を感じたもので。あとは、みなさんの手にゆだねることに──」
「へたすりゃパニックだぜ」
と、カンは驚く。

後日、マスコミに目立ったうごきはないものの、アクセス数はかなりの数に。
話題になるのも時間の問題。

「マスメディアがうごくのは、いつも一番最後ですからね」
と、バル。

そしてラスト、バルの新しい体が署に届いてオシマイ――。

消去されたポルノの謎から、一転、遺伝情報を利用した雇用統制へ。
話の広がりかたが面白い。

それから、こうやって逐一要約していってわかったけれど、セリフ回しがじつにうまい。
正確に描写しようとすると、大変厄介だと思われる専門的な部分を、セリフの雰囲気と話の流れだけでこなしていく。
その手際はほんとうに見事だ。

ラストのアクションシーンは、署内にこんなに簡単に爆発物が仕掛けられていいものかと思わないではない。
それに、外にいた車だって、わざわざ目立つように逃げ出す必要はないだろう。
でも、読んでる最中は気にならないからいいとしよう。

そして、最後の「ネットに流してしまった」は、まだ現代性を失っていないところだろう。

というわけで、1巻目の紹介はここまで──。



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