かぶれの世界(新)

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「産業の米」の凋落

2005-12-18 09:01:49 | 社会・経済
半導体はあらゆる機器に使われると言う意味で誇りをこめて「産業の米」と呼ばれた。昨今の我が国の半導体産業の凋落は目を覆うばかりである。私のビジネス・キャリアは半導体集積回路を製品に利用する立場で、表裏一体となって仕事をしてきた。正に産業として同志達の地盤沈下であり胸が痛む。 

ボタンの掛け違いはバブル時代から
80年代には世界の半導体の50%以上は日本製だったのにいまや20%、更なる業界再編が囁かれている。何故こんなことになったのだろうか。私の実感として、それはバブルの時代に人件費が高騰し半導体量産品の競争力が無くなった時の長期戦略に遡る。

日の丸半導体の強みは圧倒的な現場の物作り力だった。品質がよく且つ安価だったから飛ぶように売れた。しかしプラザ合意後の円高とバブル期までの人件費の高騰及びもの作り軽視経営はボディブローとなり、90年代に入り半導体量産品の価格競争力を著しく低下させた。その後一度として競争力低下に歯止めをかけることが出来なかった。

もの作り軽視と情報流失
端的に言うと日本の高度な半導体生産設備がもの作りのノウハウとパッケージになって韓国などに流れていったのが致命的だったと考える。バブル期のもの作り軽視が現場スタッフを失望させ我が国の競争力の根幹となる情報の流失に拍車をかけたのである。半導体は「産業の米」と言われたが農業の米ほどに国家としての戦略はなかった。

世界戦略の欠如
99年に韓国に渡りパソコン用液晶パネル調達の為、三星及びLGトップと交渉にあたった時、彼等の戦略が日本メーカーのそれと余りに違うことに気が付いた。日本メーカーの独壇場だったLCDが負ける日が来るのも真近いと実感した。半導体とは事情が違うが基本的に同じメンタリティがあった。

韓国は日本と異なり国内市場が小さい為最初から世界市場戦略がある。世界市場の要求を満たす設備投資と競争力のあるコストを目標とすることを明確にプレゼンした。一方日本ではトップメーカーといえども、先ず国内の先行ユーザーに供給し明確な需要増を見ながら段階的に生産能力を上げていこうとした。世界展開の意思はあったが、うまく行かなければ逃げ帰る所があった。

最悪の逐次戦力投入したわけ
国内メーカーはいわば「逐次戦力投入」の戦術を取った。そして需要が一気に高まったところでコスト・供給共に韓国勢が市場を席巻した。日本メーカーはバブル時代の放漫経営の付けでキャッシュフローがショートしており大規模な投資をしたくとも出来なかったともいえるが、韓国勢もアジア危機直後でまだ倒産の恐れさえあった時であったことを忘れてはならない。

当時購入する商品の技術担当だったA課長の言葉が未だに忘れられない。技術がどんどん進み商品が進化している間は日本メーカーから買うしかないが、技術進歩が止まると韓国から買ったほうが安く量も確保できると。彼は明らかにリアルタイムで戦略の差を体感して日々の仕事をしていた。

歴史は繰り返す
平行していまやディジタル家電のもう一つの花形、光ディスクも全く同じシナリオで韓国勢が世界を制覇する勢いだった。共通するのはなまじ単独で成立可能な国内市場があるが故に明確な世界戦略を持たずして戦力の逐次投入をしたことである。決して半導体メーカーだけではなかった。日本価格で先ずは商品を立ち上げてと言ってる間に世界市場を持っていかれた。

自動車とどこが違うのか
しかし何で半導体は地盤沈下、自動車はわが世の春となったのか。この点では、私はディジタル機器は誰でも出来る取替え可能な「モジュール型」製品、自動車は取り替えるだけでは済まず調整が必要な「統合型」でありもの作り力の優劣が結果を左右すると言う説を支持するが、それは十分条件ではない。

自動車は「統合型」であるが故、得意なもの作りの力を生かし高品質の商品を提供するが、同時に自動車メーカーには明確な世界戦略とそれを推進し実現するだけのキャッシュフローの裏づけがあったことが今日の差を生んだのである。

教訓として残ったか
日本の電機メーカーはバブルの後遺症で、投資したくても手も足も頭もない時代があったのは不幸なことであった。LCDや光ディスクと半導体はやや事情が異なるが底流には共通するものがあった。もはや手遅れであり、次のテーマで同じ轍を踏まないこととしか言いようがない。

友の苦境のニュースを聞きペンを執った。親しくさせて頂いた上司や同僚がまだ現役で苦労されている最中でとても論評しにくいテーマであった。■


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現場にいた者として私の経験を補足しておきたい。 (sandy)
2005-12-20 00:15:04
現場にいた者として私の経験を補足しておきたい。

私はマスコミにも時折登場するトヨタ系の著名なコンサルタント達の話を聞く機会が何度かあった。彼らは少なくとも当時は「統合型」と「モジュール型」の差を理解しておらず、極めて現場思考だった。

それはそれでは悪くはないが、彼らは影響力の大きさに比して経営全体を見る視点に欠け、顧客 の世界戦略策定になんらの貢献をせずむしろブレーキになっていた。不思議なことに最も優れた世界戦略を実行したトヨタ系のコンサルだったのは歴史の皮肉かもしれない。

結果として、構造的に生じる競争力の差を克服できず凋落を加速させる要因の一つになった。コンサルを受けた大企業の精鋭が集結した企画部門は当然それに気が付いていたが、メリハリのない長期戦略策定をしてしまった。彼等のジレンマは理解できるが、エリートゆえの弱さの結果でもあった。
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