かぶれの世界(新)

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W杯ファンの熱き遠吠え(2)

2006-05-31 15:47:07 | スポーツ

今朝方の対ドイツ戦の結果は期待以上だった。中継放送したテレビの評論家は強豪相手に健闘したことより、2点リードを守れなかったことを厳しく評価していた。曰く、2-1になった時1点を守る戦略がなかった、フォワードを交代させた意味が分からない。しかし、私は従来指摘されていた課題がかなり改善されており、本番前の準備としての前哨戦の目的をしっかり果たしたと思う。

最も大きな成果は従来なら端から圧倒され試合にならなかった格上の相手と互角以上に戦いチームが自信を持ったことが何よりの成果と思う。次に日本は格上相手でもチーム戦略が機能することが確認できたことである。最後までコンパクトなゲームプランを実行出来た。序盤一方的に押し込まれるシーンもあったが流れの中での危険な場面は少なかった。

3番目に、その結果として自陣に押し込まれても防御と攻撃のラインが間延びせず、相手チームに効果的なプレッシャーをかけるミスを誘発し、マイボールになると間髪を入れず攻撃に移る場面があり、相手を慌てさせた。やはり中田ヒデと中村が中盤に入ると相手に脅威を与えるチームに変わるから不思議だ。特に中田の存在感は光っていた。

私が指摘したディフェンスの課題も良くなっていた。ドイツの詰めが早かったせいもあるが、日本選手の球離れが非常に早くなり、マイボールなのに相手に詰められて危険な場面になる回数が少なかった。防御に回ったときシンプルなプレーで一旦ゲームを切るスタイルは、意識してやったのではないかと思う。

時間の経過と共に速いパス回しの攻撃は機能し始め、特に後半ドイツのディフェンスの動きがやや鈍いと感じたのは意外だった。日本選手には判断力の速さもあった。スルーパスが通り何度も決定的なチャンスが生まれた。シュートは防がれたものの枠の中に飛んでおり、もう1点か2点取ってもおかしくなかった。

誰もが指摘したように、セットプレイでディフェンスの高さが足りない弱点を突かれ同点に追いつかれた。1点目の失点は宮本が潰れ、2点目は後ろから前に出た選手の動きにマークが付いていけなかった。日本防御陣に高さとフィジカルな強さの両方で見劣りがするのは否定できない。

高さが足りないのは試合の前から分かっていたことで、本番では徹底的に弱点を攻められることを覚悟すべきだろう。今からフィジカルな強さも求められない。対策として後半守りを固める時フォワードの巻を投入したらどうかと息子と変なところで意見が一致した。

今日のゲームを分析して本番では日本の弱点と同時に早い攻めの怖さも知ったはずだ。ドイツはホームゲームでやや前がかりで来たため日本の速攻が効果的だった。豪州、クロアティアはもっと守備を固めロングボールでカウンターを狙う作戦を取るものと思われる。日本は余り得意とはいえない作戦だ。ゲームプランBをどうするのかも課題だ。

加地の負傷が心配だが、急遽交代した駒野もしっかり機能した。その他の選手の体調は悪くなさそうだ。今日の試合結果は本番に期待を持たせるものだった。でも余り期待すると負けたときのショックが怖い。頑張れ日本。■

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W杯ファンの熱き遠吠え(1)

2006-05-29 22:58:47 | スポーツ

W杯開幕まであと11日に迫った。サッカーファンとして待ちきれない気持ちだ。活躍すればオリンピックやWBC以上の熱狂になるだろう。これから1ヶ月余り日本人は総てサッカー評論家になる。今日から折に触れてサッカーを語りたい。先ずは日本の闘い方について。

地元ドイツのある予想では日本は1分け2敗で予選最下位と評価が低いとのニュースを見ても、他の国の見方はそんなもんだろうと驚かなかった。選手一人ひとりの力を見れば残りの3チームより低い評価が出るのは当然だろう。逆に日本メディアの楽観的な予想も非難できない、誰も悲観的な予想を聞きたくないから。

しかし、普段は厳しいことを言う私も一言言いたい。3月のWBCを思い出せば、MLB選手が2人しかいない日本だがチーム力としては遜色なく実力で世界ナンバーワンになった。「スモールボール」と言われるチーム戦略が機能し他国チームを上回った。

野球ほどの歴史がないサッカーだってそういうことが起こらないとは限らない、ファンとして私はそれを期待する。その視点から中田ヒデのコメント(日刊スポーツが英ミラー紙のインタビューに答えた記事を転載)が私の前々からのコンサーンを代弁している。彼は何がチーム戦略としてベストか再考を促している。

彼曰く、「日本代表のパス中心のプレーは長所であり、弱点でもある。プレッシャーがかかってパス回しが不可能なときでも、パスをつなごうとする。(華麗なパスサッカーで)個人としてのいいプレーをするのか、W杯で勝ち上がりたいのかを自問しなければならない」

23人の代表が決定した時、押し込まれた時慌ててパスで繋ごうとしてボールを奪われ失点するディフェンス陣の弱さが最大の弱点であると私は指摘した。ヒデの指摘と共通するところがあると思った。例えば今の日本のディフェンスの実力なら危険な状態になったら前線に大きくクリアするか蹴り出すほうが無難だ。海外のワールドクラスの選手でもよくそういうプレーを見かける。

ヒデの指摘がジーコやチームに伝わっているのかは分からない。彼は日本のメディアを信用しておらずこういう話をしない、すると「ジーコと意見が対立」とか扇情的に書かれると思っている可能性がある。彼の意見がチームにどう伝わったか日本のメディアから伝わることはまずない。しかし明日のドイツ戦を見れば感じが分かるはずだ。

日本のゲームプランはパス中心の早い攻撃とシステマチックなディフェンスをベースにするサッカーである。報道ではプレッシャーを仮定して狭い地域でワンタッチの簡潔なパスプレーの練習を繰り返しいた。個人技の確かさと判断の早さがマッチすると必ずチャンスが来るはずだ。

明日のドイツ戦は格上の相手に対し日本の戦略が機能するかどうか、特に押し込まれたときのディフェンスがどのくらい持ちこたえられるか良いテストになるだろう。■

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中国に追い詰められるイタリーの中小企業

2006-05-28 14:16:17 | 国際・政治

引き続き中国の経済急成長が世界に与える影響を見て行きたい。今回は、中国国内のプラクティスの問題ではなく構造的に中国との競争に弱い欧州の福祉国家、その中でも病人と言われるイタリーの状況について論じたい。

1年前繊維製品を始めとする中国の商品が世界に溢れ、イノベーションの少ない労働集約産業を低賃金で支える国にインパクトを与えると論評した。繊維商品については欧米が輸入制限をして開発途上国の失業者が急増するという最悪の事態は当面回避され現在推移している。

しかし、中国が世界に影響を与える商品は繊維商品だけではない。昨年末にイタリーの代表的な椅子製造の中小企業が中国の脅威をもろに受けて崩壊の危機にあると雑誌タイムは特集を組んだ。紀元前の二つの大帝国が違った形で戦い、イタリーの伝統的産業が追い詰められている。

イタリーは二つの欧州の中でフランスやドイツなどと同じ高福祉国家群に属し、過去5年間で経済は5%縮小し財政赤字と高失業率に悩んでいる。世界貿易に占める比率は95年の4.6%から昨年2.7%まで低下したという。しかも体質的に中国の輸出攻勢に弱い構造的な事情があり、それゆえ欧州の病人となかば揶揄されている。

その事情とは、今月14日のニューヨーク・タイムスで報じられたように繊維商品から靴、家具だけでなく、水道などに使われるバルブまでイタリーの伝統的な商品は数千の小規模の家内工業に支えられていることである。

イタリーの伝統的なパパママ産業は特定の地域、例えば欧州スタイルの椅子ならイタリー北部のマンザノ地方、に集中し製造工程毎に細かく水平分業化された1100社が椅子を作っている。販売はドイツ大手販売会社に牛耳られている。彼らはグローバルで活動する規模・販売や投資ノウハウなど全てに欠けている。

一方中国は創立以来たった5年の企業でも旺盛な投資で生産能力を高め、市場戦略を立て品質を高め、イタリー商品ほど高級でなくても価格センシティブなユーザーに浸透していった。いまや米国や日本のホテルに利用されている椅子のかなりの部分は中国製に変わった。

その結果、マンザノの椅子製造の家内工業の200社が廃業、残った会社も2,3の例外を除き多くは受注が昨年から半減して倒産寸前にあるという。こうしたイタリーの家内工業をベースとした産業構造は中国にとって「最適の攻撃目標」になっていると報じている。

イタリー産業の構造的な弱さはかつてリラ切下げで安易に調整していた。ところが、EUROへの通貨統合後この便利な調整弁を失ってしまった。それが今、イタリーのEURO離脱が現実味を持って議論されている理由でもある。しかし、これは解決にならないのは明らかである。

昨年のタイムの特集では根本はイタリーが競争力のない低生産性国であると指摘している。中国の勢いは誰も止められない。9.11後世界市場の低価格志向への変化の速度が格段に速くなったという。新しい環境に合わせて変化しようとしているイタリー中小企業の動きは極めて限られているようだ。

ある椅子メーカーはクロアティアやルーマニア、上海に生産を移行し、自前のマーケティング力を育て、イタリーの他の有名ファッション・ブランドのように高級化しメイド・イン・イタリーをブランド化しようとしているが、その数は限られている。最終的にグローバル・プレーヤーとして生き残るのは数社となろう。

イタリーでも臨時労働者の雇用をもっと容易にしようという革新的な労働法(Biagi low)が検討されている。 スローフード発祥の地、イタリー回復の勝負の分かれ目はその商品が世界的な競争力をもてるかどうかによるであろう。

[蛇足」ところで日本のかつてのタオル産業のメッカ今治市で何が起きているかご存知だろうか。今治市の繊維産業はこぞって中国に進出しもしくは会社を売り事業主は資金を得、近郊に住宅用不動産投資や海外でマネーゲームを展開、一方今治市街は火が消えたように寂れていると言う。それがイタリーの未来かもしれない。■

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温暖化と大国中国の責任

2006-05-24 21:52:42 | 国際・政治

中国の地球規模の影響力

2004年中国のコンクリート生産量は世界の54.7%、鉄鋼は36.1%だった。経済の急成長に加え2008年の北京オリンピックに向けてインフラ構築中とはいえ凄まじい量である。中国の与える影響は経済にせよ環境にせよ良くも悪くも地球レベルであり、それが故に私は中国をウォッチしてきた。ミャンマーの軍事独裁より中国の言論統制が気がかりなのはその為である。今回は公害と温暖化について議論してみたい。

悪者は米国と中国

先月NHK総合テレビが「同時3点ドキュメント」と題して地球温暖化の深刻な実態をややセンセーショナルに報じたのを記憶されているだろうか。海面上昇で消滅の危機にあるツバル、温暖化ガス排出権を買い漁るニューヨークのブローカー、豊かさを求める権利があると主張する公害の町重慶の3地点から2月最後の10日間の同時中継である。

京都プロトコルから離脱した米国の決定はブッシュ政権の汚点として長く記憶されるであろう。しかし、次の政権が京都プロトコル及びその後継条約でリーダーシップを果たす可能性は非常に高いと私は予想する。米国は良くも悪くもそういう大きな政策の振れを持ったある意味身勝手な理想主義国である。

市民の意識

しかし、中国はどうだろうか。テレビは日本の高度成長時代の公害の町の象徴だった四日市を思い出させる排煙でどんよりした重慶の町を映していた。目を輝かして初めて買う車を品定めしている新中産階級らしき重慶市民が、我々にも豊かになる権利があるとインタビューに答えるのを見ると、改めてこれは容易ではないと思わざるを得なかった。

共産党一党独裁政権といえどもこの人達の良い生活をしたいという上昇意欲を押さえつけることなど出来ない。中国の自動車市場は今年日本を抜き世界第2位、2010年頃には世界一の規模になると最近報告された。これ一つとっても地球温暖化の流れを食い止めるのは容易ではない。

中国の労働者が豊かになる権利があると言う主張には私は言葉を失う。‘そのまま貧乏でいろ’とは言えそうにも無い。しかし中国は地球の人口の2割が住む特別な国である。中国の成長が現状のペースで続くと地球環境の許容能力を超え生態系を破壊するとの警告がある。

水不足と大気汚染

レスター・ブラウンは2003年「プランB」の中で中国の水不足、砂漠化が世界に輸出されていると指摘した。(日本の食糧輸入も形を変えた水の輸入だとも。)それは春先の黄砂だけではなくアマゾンの熱帯雨林伐採と大豆生産に導かれる。13億人の食生活変更のインパクトはとてつもなく大きい。

工場排煙の影響も深刻だ。今年始め昨年中国では大気汚染で年間40万人が死亡していると言う衝撃的なニュースが流れた。(99年「未来の選択」でハモンドは25万人と書いているから事態は急速に悪化している。)北京はどんな晴れた日でもどんよりと曇っており、大気中の炭素を含むエアロゾル濃度は東京の5倍、酷いときは10倍以上が観測された。マスクをした北京市民の写真はいまやおなじみである。

環境汚染の輸出

近隣諸国への影響も無視できなくなった。日本でも気象庁の観測データによると過去10年間で大気中のオゾンが約2割増えた。その原因は中国や東アジアの産業活動が排出した窒素酸化物が原因と推測されている。このままでは今後大陸から流れてくるオゾンで日本海側の森林が枯れる恐れがあると指摘されている。

地球規模の影響としては世界の屋根と言われるチベット高原の気温が80年から0.9度上昇、氷河が毎年7%溶けているとCNNは今月2日報じた。この地区の氷河は中国氷河の47%を占め、このままでは何時か干ばつが引き起こされ農業を破壊、更に砂漠化が進むことになると警告した。

温暖化の影響は測り知れない

昨年米国南部を襲い悲惨な被害を引き起こしたハリーケーン・カトリーナは海面温度上昇により巨大化したことがコンピューターでも確認された。99年にニューヨークを襲った熱波により蚊が繁殖、西ナイル熱を伝播し200人以上が無くなった。実はこれは温暖化が進む世界各地で起こる可能性があることなのである。

日本でも蚊の北限が北上していると報告されている。東京でも蚊が増えており、西ナイル熱がブレークアウトする可能性があると専門家は指摘している。東京湾の底にも休眠状態のコレラ菌がおり、ちょっとした温度上昇で活性化し、超良好な衛生状態で耐力を失った東京でコレラが大流行する恐れがあると藤田紘一郎氏は「コレラが街にやってくる」で指摘している。

責任ある大国としての振る舞い

中国政府は公害問題を認識しているが発想は一国主義で経済成長とのトレードオフとして考え、その長期的な地球規模のインパクトを十分理解していないように思える。先日朝日新聞には珍しく「国際的責任感薄い中国」と指摘する坂尻信義氏のコラムがあった。彼は人権や核拡散防止について述べたが地球環境についても同じことが言える。

国際システムの中で責任を担うステークホールダーになれと言う米国のメッセージに対し、中国のメディアは「利害関係者」とか「責任」という言葉を削除し、胡主席は何のアクションもとらずその意思も表明せず失望をかっていると論評した。

結局は次期大統領次第?

地球温暖化は既に超えてはならない一線を越えたと言う専門家もいる。先進国の身勝手かもしれないが現状では中国政府(ついでにインド政府も)は大国としての責任を果たす以外に解決策はない。温暖化については、勿論米国政府も次期大統領を待たず動き出すべきだ。

実際のところ三国とも地球環境認識に欠け、欧州の環境政党は一時の力を失ったように見える。現実的には次期米国大統領がリーダーシップを取らない限り、つまりアメリカが本気にならない限り、大きな進展はないと悲観的にならざるを得ないが。■

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中国の誇りと偽造

2006-05-23 16:57:36 | 国際・政治

約束

先の米中首脳会談で胡錦涛国家主席の訪米に先立ち、呉副首相は中国政府が著作権侵害問題を積極的に解決していくことを約束した。胡錦涛国家主席はシアトルでソフトウエアのコピーを厳しく指摘してきたマイクロソフト社のビルゲイツ会長に会いパソコンへの真性品のインストール促進と政府購入を明言した。大国中国が海賊行為で非難されることなど許されるはずが無い、胡主席の面子を保つことは絶対だった。

偽造大国

しかし実際のところ、中国ではあらゆる製品の模倣品が製造され、その規模は莫大だ。映画や音楽のビデオ、DVDから電動工具、計測器、医薬品、酒、種子まで、とにかくなにからなにまで偽物が出回っている。ちょっと古いデータだが2000年に中国で摘発された不正品の総額は11000億円に上ると言われる。

日本に関連する商品の一例をあげると、中国で年間に生産される1200万~1300万台の2輪車のうち、3分の2は模倣品と見られている。対策として最近日本を始め世界のメーカーはコア技術の中国企業への移転を極力抑制していると報じられている。

対抗策

しかし、抑制するだけでは急成長する中国市場の主要プレイヤーになれない。その為には付加価値の高い原材料の製造も、今後各社とも中国に生産ラインを移す方向にある。多くの重要な原材料に関して、中国はいまだ関連製造技術を持っておらず、中国政府は原材料や部品の現地化率に制限を設けている。

例えば、高級車に用いる薄板鋼材のような材料も、今後日本の自動車関連の原材料メーカーは中国に工場を設立することになるだろう。そこでトヨタの場合、広州の完成車生産企業の持ち株比率は50%だが、エンジン生産企業は70%、RD企業は100%とすることにより規制をクリアし、かつ原材料製品技術の移転を防ぐ手立てをとろうとしている。

グローバル・サプライ・チェーン

この事情はIT機器も事情は全く同じで、日本メーカーは開発研究部門を日本に戻し半導体集積回路など核となる部品・ユニットを開発生産し、中国に輸出し組み立てるグローバル・サプライ・チェーンを構築した。中国に進出した台湾・欧米メーカーも同じグローバル生産システムを作った。これは極端に言えば中核技術を保護し、中国を組立工場として利用し続けるシステムだ。

中国の決意

このままではサプライ・チェーンの付加価値の少ない一部を分担するだけで利益の大半を得るのは海外企業だけである。中国政府は自国の大学・企業の研究開発機関にインセンティブを与え中国独自の科学技術開発を強く推進してきた。模造品とか海賊行為などといわれて大国の誇りが許さないと言うだけでなく、実利的にも付加価値の高いバリュー・チェーンへの移行は極めて重要な国策であった。

2003年中国国産初のDSP(ディジタル信号処理回路で携帯電話やディジカメに使う)を開発したと上海交通大学の陳進博士と政府が共同発表した。博士は米国の給料の半分になるのを覚悟して中国の将来に賭け帰国した気鋭の科学者だった。発表以来博士は中国科学技術のシンボルであり英雄になった。政府から巨額の援助を受け多くの研究開発を指揮することになった。

内部告発

ところが今月始め頃だったと思うが中国が自主開発したDSPが実は偽造品だったと業界紙に目立たないニュースが流れた。その時はそれ程注目しなかったが、その後日米で興味深い背景記事が出た。それを見ると中国の誇りと悩みのジレンマが集約されているように私には思える。

独自開発したというDSPは以前博士が所属した米国モトローラが開発したDSPをコピーしたものだと昨年末に内部告発があった。それ以来ネットに不正を告発するニュースが流れ、遂に12日大学から調査の結果不正が判明したと発表があり疑惑に終止符を打った。

デジャブー

このパターンは韓国で起こった黄教授の幹細胞論文偽造スキャンダルとよく似ていると思わないだろうか。黄教授も韓国科学技術を率いる国家的英雄であり、国民の期待の高まりを背景に学会は不正を見破れず、内部告発で不正が暴かれた。

中国でも内部告発がネットを経由して言論統制下とは思えない速さで広がった、或は告発が政府の新方針に合致したのかもしれない。NYタイムズによれば自前技術開発の国家的期待の圧力は非常に高く、博士は不運だった、類似のスキャンダルが水面下で沢山あると関係者の言を報じている。

冷静な反応

しかし、面子は潰されたものの中国政府商務部はねつ造調査が素早く行われたことを評価した。依然ウェブにスキャンダルに関する書き込みが続いているが、韓国と異なり陳進氏を擁護する声は無く、私の予想に反し淡々と問題を指摘し評論するいわば成熟した反応が殆どと言う。

米国の陳進氏の元同僚は彼が非常に優秀だったこと、何故こんなことをしたのか理解しかねるというコメントを残している。中国の同僚は同様に彼の優秀さと国内の自前技術開発の圧力の大きさを指摘している。ランプ暮らしから突然携帯電話の時代に移行し、全速力で走らなければいけない中国の焦りが招いた事件とも取れる。

競争が育てる

しかし、大学教育の急速な広がりと若者の上昇意欲を見ると、私は長い目で見れば中国が科学大国になるのは間違いないと思う。既に大学卒業は成功への切符ではなくなり、激烈な競争が続くと予想される。これまでの数人の天才より、これからの100万人の高レベルの競争が続いた時の進歩は遥かに早い。

日米半導体摩擦以前で私が技術者だった頃は米国の最先端技術を分解・分析し設計に反映する所謂リバース・エンジニアリングはよく行われ、彼らの特許を乗り越える技術を追求し技術レベルを高めて行った。中国の人達の彼らの冷静な反応はある意味、誇りと自信の表れと言うように私には感じる。ただの模倣品からの卒業はそう遠くない気がする。■

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