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周回遅れの読書録2016(2)

2016-06-26 22:24:01 | 本と雑誌
1か月半でたったの2冊しか読んでないが、これまで継続して読んできたリーマンショック関連本の中で最も勧めたい本だったので急ぎ紹介させて頂く。これまで、サブプライム販売の現場とか、最初に崩壊したベアスターンズ社内、震源地のリーマンブラザーズ社内、規制当局(ポールソン・バーナンキ・ガイトナー)の夫々の立場から見た回顧録とか物語を読んだ。これに加えて多くの日本の専門家の解説本も読んだ。

しかし、どうも全体像が見えなかった。その中でリーマンショックの風景が最もよく見えた本が、今回紹介する「愚者の黄金」(Jテッド)と「世紀の空売り」(Mルイス)だ。両書を読むとサブプライム・ローンを証券化し金融技術を駆使して作成した金融商品が、規制当局から売る側・買う側を含め殆ど総ての関係者が内容を理解しないまま短期間に急増し破綻に向かって行った様子が描かれている。6-7年前に出版されてたのに気付かなかった。

「世紀の空売り」(Jテット)は金融商品の販売場から、「愚者の黄金」(Mルイス)は金融商品を作る側から見たリーマンショックの爆心地を生々しく描いている。前書は大手の金融機関が売りまくった金融商品(CDO、CDS等)を丹念に調べて深刻なリスクがあることを察知し、短期間に暴落する方に賭けて奮闘するオタク的アウトサイダーの物語だ。後書はJPモルガンが作った最新の金融技術(CDS)が、金融業界全体に広がる過程で同社の堅実なビジネス精神が引き継がれず暴走した様を描いている。

両書に共通しているのはサブプライム・バブルやリーマンショックを引き起こした原因が、証券化やリスク管理する為の金融技術と決めつける風潮(日本の専門家も含め)と一線を画していることだ。現実は政府や連銀(FRB)からリーマンブラザーズやモルガンスタンレー等米国の誇る投資銀行までどういう商品か何も知らず、バブル崩壊が世界的な信用リスクに発展するリスクを察知できなかったことが描かれている。

今迄読んだ財務長官や連銀議長の回顧録やリーマンブラザーズ内で何が起こったか謂わば失敗した側の記録だ。今回紹介する本は金融技術商品を生んでトップから現場まで内容を理解してリスク管理したJPモルガンや、執念深く調べて暴落を予測した市井のオタク投資家等のいわば成功者から見たリーマンショックの風景の方が説得力がある、ということでもあると思う。

(3.5)2 世紀の空売り 2010 Mルイス 文芸春秋 原題名「ビッグ・ショート」で最近映画化された話題の佳作。HBS出身の弁護士とアスペルバーガー症候群を病む医師が小さな投資会社を興し、(私から言わせると)オタク的執念でサブプライムを組み込んだ金融商品が内包するリスクを予見し巨大な市場に立ち向かう。そこまで言っておいて、最後に敗者も勝者も皆大金を手に入れて舞台から去ったというくだりは衝撃的だ。

(3.5+)2 愚者の黄金 2009 Jテット 日本経済新聞 リスクを管理する為の金融技術が生んだデリバティブが、高いリターンを求める金融機関が中身を理解しないままリスク隠しの道具に使われていく、その危険さを規制当局が何かおかしいと思いながらも見逃す姿が生々しい。JPモルガンがデリバティブを生み出した90年代からプレイヤーが入れ替わりながらも、2008年の世界信用リスクまでリーマンショックの全体像を描いている。人が変わってもJPモルガンの堅実なビジネススタイルを貫く遺伝子が凄みを感じる。

それにしても、最近読書が進まない。もっと読み易い小説なども気分転換に使えば勢いが付くかもしれない。或いは昔やってた様に同時に2,3冊並行して読むとか。次から何か工夫してみたいと思う。■

凡例:
 (0):読む価値なし (1)読んで益は無い (2):読んで損は無い
 (3):お勧め、得るもの多い  (4):名著です  (5):人生観が変わった 
 0.5:中間の評価、例えば1.5は<暇なら読んだら良い>と<読んで損はない>の中間
 -/+:数値で表した評価より「やや低い」、又は「やや高い」評価です。
2: 古本屋で手に入れた本
L: 図書館で借りた本
新: 「定価」で買った本

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