不景気は底を打ち「出口戦略」を云々する議論が囁かれ始めた。かつて早すぎた金融引締めが景気回復の芽を摘んだトラウマがあり、当局は出口戦略に極めて用心深い姿勢がうかがえる。しかし、何が問題になるか現況認識をしっかりして、次に備えねばならない状況になったようだ。
悲観論者の推測が外れるのは結構だが、回復が早いと適切な再発防止が打たれなくなる問題も出てくる。今まで投稿した記事で、雇用と景気回復は別問題、消費者の変化などについて議論したが、今回は歴史的な過剰流動性の問題を紹介したい。
リスクマネーが蠢き始めた
24日の日本経済新聞は世界経済の潮の目が急速に変化していると報じていた。昨年9月のリーマンショック以来、ドルや円に逃避していたグローバルな投資資金が、リスク許容度を高め新興国市場と原油・食料などに流れ込み始めたという。グローバルな信用創造が復活し始めたと同紙は報じている。
結果として、BRICsなどの新興国の株価が軒並み急上昇し、一時期35㌦まで下がった原油価格が70㌦台に上昇した。日経平均も3月の最安値から40%上昇した。私の金融商品はわずかではあるが分散投資しており、この世界市場動向を反映した結果になった。3月初めに年初来マイナス13%だったが、6月初めにはプラス40%まで回復した。そういえば、金融機関に勤める知人は春頃には投資が新興国に戻り始めたといっていた。
未曾有のカネ余り
だが、どうも単純には喜べそうもない。私が問題だと思うのは、上記の避難していた資金に各国政府の巨額な財政出動が加わり、世界は未曾有のカネ余り状態になったということだ。記事によると、世界で流通するマネーの物差しになる「ワールドダラー」が前年を4割上回り4.5兆㌦に膨らんだという。この桁違いの流動性には多くの専門家が不吉を感じているようだ。
中央銀行の超金融緩和によって、絶対値でも増加率でも史上かつてない過剰流動性が生じ、リスク許容度を高めた投資家のマネーが行き場を求め、再びリスク資産に向かい価格を上げた。当局は景気回復を腰折れさせないように気を配る一方で、早くもミニバブルが生じ始めたのではないかと過熱気味の市場に神経を尖らせている、というジレンマがある。
このままでは規制が間に合わない
米国や欧州の政府は今回の世界同時金融危機の再発防止として、中央銀行の権限を強め銀行や保険からヘッジファンドまで全ての金融機関を一括して監視させる方針のようだ。しかし、早急に動かないとこのままでは事態の進行に追いつかず、昨年問題となった住宅市場とは別の分野にバブルが発生する恐れがあると憂慮する。
個人的には、原油などのエネルギーと穀物などの食料領域への投機の制限、もしくは、取引の透明性なども規制に含めるべきだと考える。このままでは、数ヶ月内に実体経済の回復に先立って回復期待を織り込んで資源価格のバブルが再発し、資金の流れを歪め強いては世界経済の健全な回復を妨げる恐れが十分あると思う。だが、資源投資の規制は米国の国益にならないと思っている節がある様に感じる。
歴史の教訓は活かせるか
実体経済が回復する兆しを見せ始めた現状の株価高騰は、「回復の期待が株価を上昇させ、それが期待を膨らませ更に株価を高めている」という、かつてのガルブレイスの言葉にぴったり当てはまるように感じる。実体経済はまだ「期待が期待を生む」状態からそう改善したわけではない。
この高名な経済学者の言を借りると、金融上の記憶は長くてせいぜい20年しか続かないそうだ。20年経つと、又もや同じ問題が形を変えて再発するという。だが、その後起こったことから言えば人の記憶は20年どころか5年が良いところだ。
1987年の大暴落以来、日本のバブル、続発した新興国の通貨危機、ITバブル、今回の金融危機と過剰流動性が重要な原因となった。20年も持ってくれれば私は生きているかどうか分からない、多分見届けられない。もしそうなら、結構なことだ。だが、今そこにある異常な流動性は相当に不気味だ。■