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煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

ピンク・バイアグラ

2010-05-31 21:36:14 | 健康・病気

本エントリーでは性欲の科学と治療についてのお話。

5月24日付 Washington Post 電子版

FDA considers endorsement of drug that some call a Viagra for women 米国食品医薬品局が女性向けバイアグラとも呼ばれる薬の承認を検討中

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By Rob Stein
Monday, May 24, 2010
 詩人、哲学者あるいは大勢の欲求不満の男性たちを悩ませてきた『女性は何を欲しているか?』という問題に連邦の諮問委員たちはまもなく取り組もうとしている。
 この難問は米国食品医薬品局(FDA)の委員会の審議対象となる予定であり、バイアグラが男性に作用するのと同じ、すなわち性生活を刺激するという目的で女性向けに作られた初めてとなる薬の承認が検討される。ドイツの巨大製薬会社 ベーリンガーインゲルハイム社は、文字通り色気のない名前の “flibanserin(フリバンセリン)” という薬を売り出したいと考えているが、この薬には女性の脳の化学物質を変動させることで、性欲を誘発する効能があることが示されている。
 FDAの性と生殖に関する医薬品諮問委員会によってこの申請を検討するための会合が6月18日に開かれる前であるにもかかわらず、発売をめざす他の薬と同様この薬が女性に対する医療の平等性確立への念願の第一歩となるのか、あるいは実際には不必要で危険すら伴う薬を販売するために不確かな疾病を捏造する製薬業界の新たな事例となってしまうのか、などの問題についての議論に、このたびこの薬が承認されそうな見通しが火をつけてしまったようだ。
 「幸福で健康な性生活を送れることを現実的かつ重要な問題と捉えている女性がいるのです」と、ワシントンを拠点とする支持団体、National Women's Health Network の Amy Allina 氏は言う。「しかし、この『ピンク・バイアグラ』については多くの疑問があります」
 1998年の承認後、大ヒットに至ったバイアグラの躍進は、女性に対しても同じような効果を有する薬物への一連の関心を引き起こした。製薬会社のファイザー社は、その『小さな青い錠剤』は弱まった女性の性欲にも刺激的に作用することを期待する一方で、女性の性的指向は男性のそれより一層複雑であることを明らかにしている。一方、ドイツの Boehringer Ingelheim(ベーリンガー・インゲルハイム)社は、米国だけで20億ドルの市場と見込まれていることを受け、近々flibanserin が初めての処方薬となることに対して楽観的な見方をしている。
 「女性にも選択肢が与えられるべきであると思います。Flibanserin は多くの女性にとって安全で有効な選択肢となりうると期待しています。」と、同社で flibanserin の臨床研究の先頭に立つ Michael Sand 氏は言う。
 Flibanserin は当初抗うつ薬として開発されたが、うつ病の治療薬としては効果がないことが科学者により明らかにされた。しかし、この薬物には、女性の性欲促進という予想外の副作用があるとみられたのである。そのことから、重大な精神的苦痛を起こし得る原因不明の性的想像・空想・欲求の喪失である性的欲求低下障害(HSDD: hypoactive sexual desire disorder)に対して本薬剤の研究を開始した。ある研究によれば、女性の10%が HSDD に悩んでいる可能性があるという。
 「彼女らはセックスを嫌っているのではありません。関心を失っているだけに過ぎません。それについて考えることをやめているだけなのです」と、同社の薬剤を研究してきた University of Virginia の精神医学・神経行動科学教授、Anita H Clayton 氏は言う。「それまではスイッチが入っていた状態だったのです。それは彼女らにとって喪失状態と言えます。それがないために寂しい想いをしています。そしてそれを取り戻したいと思っているのです」
 Northern Virginia の主婦 Lana さんは、自身の徐々に進む原因不明の性欲の喪失による結婚生活の危機を恐れていたと言う。
 「そういったことはどこか秘密にしておくべきと考えるものです」と、Lana さんは言う(姓を匿名にするという条件で語ってもらった)。「『男性は電子レンジのようなものであり、女性はクロックポット(電気鍋)のようなものである』という例え話を聞かれたことがありませんか?そう、私はショートした電気鍋のようなものだと感じていました。私は女盛りだと思われていましたが、実際にはしぼみ始めていたのです」
 同社は、米国、カナダ、およびヨーロッパで、HSDD と診断された18才から50才の5,000人以上の閉経前女性を対象にした臨床研究に資金を提供した。一日量 100mgを毎日内服することにより、申告に基づいた一ヶ月間の満足できた性行為の平均回数(この種の薬剤でFDAが重要な基準として用いている)を、2.7回から4.5回に増加させた。一方、プラセボ薬の内服群では3.7回であった。
 一部の批評家からはその差が微々たるものであるとの批判があった。しかし、Sand 氏ら研究者によれば多くの女性にとってこの差は重要であるという。
 「今わかっていることは、満足のいく性行為の増加が全体的として得られたことであり、性欲の量の増加とそれと同時に見られる苦痛の減少は、女性の声を聞くなかで有意義なことであると考えられます」
 厳密にこの薬がどのように作用するかは不明であるが、脳内の化学物質、セロトニンの量を減少させる一方で、ドパミンとノルエピネフリンの二つの物質の濃度を増加させているようである。
 一部の女性に、嘔気、ふらつき、眠気など、軽微な副作用が見られたが、重篤な合併症は報告されていないと Sand 氏は言う。
 批評家によれば、HSDD を正式な精神的疾患と定義することに製薬業界が中心的役割を果たしており、重要な研究に資金提供することでそういった疾病領域の存在を誇張してきたという。
 「実際には違っているのに自分たちが病気であると思う人もいるでしょう。患者として扱われる必要がない場合でも患者にさせられてしまうのです」と、オーストラリア University of Newcastle の講師で、近刊予定の著書 『Sex, Lies and Pharmaceuticals』 の作者である Ray Moynihan 氏は言う。
 多くの女性とって性欲の低下は正常な加齢現象の一部である。それ以外の人では、他の医学的疾患、人間関係の機能不全、あるいはパートナーによる虐待などに基づく一徴候である可能性がある。
 「実際にそれは病気なのでしょうか?それとも、彼女らの経験、パートナーから受ける苦痛、あるいは彼女ら自身における変化といった社会的メッセージなのでしょうか?」、Harvard Medical School 内科の准教授 Susan Bennett 氏は問いかける。
 Flibanserin を処方によって入手可能とすることに伴う見込まれるリスクと便益を評価するため、FDA の委員会(男女同数のメンバーで構成)は、性的欲望、性的興奮、性的満足および精神的苦痛など捉えどころのない情動的な概念といった微妙な領域についての検討が求められる。
 「女性たちが持つ性的解放への欲求は大いに価値のあるものです」と、New York University School of Medicine 精神医学の臨床准教授 Leonore Tiefer 氏は言う。「女性を、そして彼女たちの性を真に理解しようとしない営利指向の企業にこの問題が乗っ取られていることを危惧しています」
 たとえばホルモン補充療法で見られるのと同じように、何年にもわたってこの薬が服用された後、はじめて明らかになるであろう長期的副作用の可能性に加えて、flibanserin が女性たちを濫用に走らせてしまう可能性を懸念する人たちもいる。
 「本剤の作用により、性的虐待を行うパートナーを逆に彼女たちが求めてしまうようなことにならないでしょうか?」と、女性の性障害に対する薬剤の開発における製薬業界の役割についてのドキュメンタリー映画 “Orgasm Inc.” を制作した Liz Canner 氏は問いかける。「それによって通りすがりの男性なら誰でも欲しくなるようなことはないでしょうか?」
 Sand 氏はそういった懸念に異議を唱えている。
 「これは、私たちのまわりで見かける、コップの水に溶かせば、突然、性的興味の強い女性に仕立て上げる媚薬のようなものではありません」と Sand 氏は言う。「この疾病がある種製薬業界によって作り上げられたものであるという考えは誤りです。これは新しいものではないのです。これは長い間女性が悩まされてきたことなのです」
 FDAによれば、承認を待っている特定の製品について論じることはないとの見解だ。一方、Notehrn Virginia の主婦 Lana さんは、この薬が近い将来手に入れることができるようになることを望んでいると語る。
 「この薬を飲み始めてから再び少しずつセックスのことを考えるようになっています。セックスについての夢も見るようになりました。セックスについての夢なんてもう何年も見たことはなかったのです」と、彼女は言う。「私に性欲が戻ってきました」

女性の性障害とは生理的な加齢現象なのか?
それとも製薬業界が薬を売るために作り上げた疾患なのか?
この薬の効果云々の前に根本的な問題が横たわる。
日本人女性ではなおさら人には相談しにくい事柄だろうし、
実状把握が困難な問題であるといえる。
これまで、女性用バイアグラと呼ばれてきた薬には
女性自身の潤いを保つダイフルカン(ジフルカン)がある。
ファイザー社によるバイアグラ発売の数年前から発売され、
FDAの認可も受けている。
しかし、この薬はもともとカンジダ性膣炎の治療薬であり、
局所的な効果のみで、性欲そのものに対する作用はなかった。
また、男性向けのバイアグラと同じ成分で
女性自身の血行を改善することで性感を高める
同じファイザー社の Womera という製剤もあるようだが、
本剤も性欲そのものへの効果は確かではない。
本記事にある flibanserin(フリバンセリン)は
肉体的に効果を発揮するこれまでの薬剤とは異なり、
脳内で作用し性欲を高める効果が期待できることから
画期的とされているようだ。
文中にあるようにその作用機序はいまだ不明だが、
ドパミンの増加を促す薬となれば
男性にも同様の効果を期待できるのかもしれない?
そういう意味では、この薬、認可されることになれば
セックスレス化や少子化の進む日本においては
優れたカンフル剤となりそうだが、
一方で、社会的に大きな問題を招いてしまいそうな
そんな心配が頭をよぎるのである。
その意味では厳密な使用条件を決めておくことが必要かもしれない。
なおフリバンセリンについての日本での記事は以下をご参照あれ。
2009年11月28日産経ニュース 

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