認知症患者は増える一方であり、
団塊の世代がすべて75才以上となる2025年には最大で730万に達し、
高齢者のおよそ5人に1人が認知症になると推計されている。
しかし、逆に言えば高齢者の5人に4人は非認知症であり、
その中には若い人たちと同等の記憶力を保持した 『スーパー高齢者』 も
相当数存在しているとみられている。
認知症患者の研究だけでなく、こうした 『スーパー高齢者』 についても
研究を進めることが重要と考えられている。
SuperAgers' Brains May Hold Key To Maintaining Memories
『スーパー高齢者』 の脳に記憶力維持の鍵
BY LINDA CARROLL
80才代になっても知的に明敏であり続ける幸運な人たち、すなわち 『Super Agers(スーパー高齢者)』 は同年齢の人たちとは異なったふうに老化する脳を持っている可能性がある。このことが最新の画像研究で示された。
Northwestern University の研究者らは、記憶に関連する脳の領域が、“普通に”老化した高齢者の脳と比較して、『スーパー高齢者』 と呼ばれて現在生きている人での画像検査、そして亡くなった 『スーパー高齢者』 の剖検脳において厚いことを発見した。
これまで記憶障害の他の多くの研究は、認知障害を起こした人たちに焦点が当てられてきた。今回 Northwestern の研究者らは、スーパー高齢者の知見が、なぜ多くの人たちの精神機能が年齢とともに減退するのかの一層の理解につながるかもしれないと考えている。
「スーパー高齢者では(この脳の領域が)20~30才も若い人たちよりも厚くなっていることがわかっています」と 本研究の共同著者で Northwestern University の Cognitive Neurology and Alzheimer’s Disease Center の神経科学研究教授である Changiz Geula 氏は言う。
「我々が研究に非常に関心を持っているのは、私たちが調べたことの基礎が純粋に遺伝的なものなのか、それとも経験によって修飾を受けるものなのかということです」と Guela 氏は言う。
本研究者らは、スーパー高齢者を、80才を越えていながら記憶力が平均の50才から65才までの人たちと同等に強力で、他の認知機能検査で同年齢の人たちより同等かそれ以上の得点を得る人たちと定義した。
この研究に参加したスーパー高齢者の一人 Lou Ann Schachner さん86才は、何が彼女と夫の記憶力を保持させているのかわからない。しかし、それは、彼らの健康と「長く幸せな結婚生活を送っている」ことに関係している可能性があるのではないかと彼女は推測する。
同じように Alma Alspach さん 86才も、自分の脳を若く保っているものが何かはわからないが、彼女によれば非常に活動的で社交的であるという。「私は新しいことに興味があります」と彼女は言う。「そのため、私はただブラブラと過ごしたりじっとしていることはありません。私は家の中にいるより外にいる方が多いのです。大抵、忙しくしています」
Schachner夫妻もまた長年に渡って無駄なく時を過ごしてきた。そして Lou Ann さんは定期的に泳いでいると言う。
この最新の研究では研究者らはスーパー高齢者 31 例、年齢はマッチしているが認知的に平均的な対照群 13 例、および50才から65才までの中年対照群 18 例の脳を画像検査した。
Geula 氏らは、スーパー高齢者では前帯状回と呼ばれる脳の領域が、年齢をマッチさせた同輩者に比べて厚く、中年ボランティアの脳と同等だった。この領域は記憶の貯蔵に関連している。
本研究の第2部では、研究者らは5例のスーパー高齢者の剖検脳を5例の平均的な高齢者、および5例の軽度認知機能障害(mild cognitive impairment, MCI)を持つ人の脳と比較した。
前帯状回はスーパー高齢者で最も厚く、MCI のある人に比べると平均的な高齢者の方が厚かった。
さらに、スーパー高齢者は、アルツハイマー病の特徴であるタウ蛋白のもつれ(tangle)を持つ細胞が他の2つのグループに比べ最も少なかった。また平均的な高齢者は MCI を起こしている人に比べこのもつれが少なかった。Geula 氏によると、このことから記憶力の悪化におけるタウ蛋白の重要性が強調されるという。
アルツハイマー病研究ではこれまで多くが、この疾患に関連のあるアミロイドという別の蛋白に焦点が当てられてきた。この最新の研究は可能性のある治療の研究としてタウ蛋白をより詳細に調べるよう他の研究者たちを駆り立てることになるかもしれないと Geula 氏は指摘し、もつれの存在で前帯状回の萎縮が説明できるかもしれないという。
「この研究が我々に教えてくれることはもつれから脳を護ることが有用であるということです」と Geula 氏は言う。
脳の専門家たちはこの最新の知見が、我々の人生の晩期における記憶力の低下、記憶力の維持の説明に重要であると考えている。本研究は Journal of Neuroscience に発表された。
スーパー高齢者の概念は実に面白いと思います」 UCLA の David Geffen School of Medicine の神経内科准教授の Liana Apostolova 医師は言う。「“正常の”加齢による低下とみなされることが起こらないこのグループに対する研究をもっと見てみたいと思います。興味がそそられます。あの活動性をもたらすものが何かを知りたいと思います」
今回の知見はさらに新しい研究を示唆する可能性があると Apostolova 氏は言う。それには、どのような環境因子が人をより長く賢く生きさせてくれるのかということへの洞察が含まれる。
そして本研究は、「人が若い時に記憶できたのと同じように記憶できるということにどのような遺伝的要因が関与しているのか」を見つけ出すことに科学者を導いてくれる可能性があると Apostolova 氏は言う。
これまで考えられていたよりもはるかに多くのスーパー高齢者が存在することが期待されると Caterina Rosano 医師は言う。
「真に皆さんに知ってもらいたいことは、皆さんが思っているほどひどく衰える運命にはないことです」University of Pittsburgh の疫学准教授である Rosano 氏は言う。「脳のこの特定の部位に影響を及ぼす要因について我々が知っていることはたくさんあります」
「身体的活動はきわめて、きわめて重要です。そしてそれは、ジムに行ってルームランナー上で何時間も飛び跳ねなければならないといった様なものではありません。ただ単に教会まで歩くことやガーデニングすることだけでも十分に効果があるのです」
80~90代でありながら脳の画像や記憶力で見ると数十歳も人たちと同等な、
いわゆる 『Super Agers』(スーパー高齢者)は新たな可能性を示す存在となっている。
このような高齢者はエネルギッシュで人生を前向きに捉える傾向が強かったという。
しかしそれは、活動的生活を送っていたために認知機能が維持されているのか、
脳の機能がもともと良好なため活動性が高いのかはわからない。
ただスーパー高齢者の脳では、平均的な高齢者と比べ、加齢に伴う老廃物が
きわめて少なく、記憶や注意力に関与する脳が保たれていることが明らかにされている。
また記事中には記載されていなかったが、スーパー高齢者の脳では
『フォン・エコノモ(von Economo)神経細胞』 が普通の高齢者より
明らかに多かったことが確認されている。
この細胞はウィーン大学のフォン・エコノモ博士により発見された神経細胞で
知的行動、状況への対応、行動の決断などに関与するといわれているものだ。
フォン・エコノモ神経細胞は前頭前皮質の多く存在し、この細胞の減少が
アルツハイマー病やパーキンソン病など様々な神経変性疾患に関連していると
いわれている。
しかし、それではなぜスーパー高齢者の脳では
タウ蛋白のもつれが少なく、フォン・エコノモ神経細胞が保たれているのか、
という重要な点についてはまだ何もわかっていない。
これには特定の遺伝子の発現状況が関わっているのかもしれない。
今後、さらに研究が進められ、ボケない対策を手に入れて
日本の認知症1,000万人という懸念される恐るべき時代の到来を
何とかして阻止したいものである。
ドラマの話といい、スーパー高齢者の話しといい。