MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

治療に先行する診断技術

2012-11-20 19:46:58 | 健康・病気

いまだ確固たる治療法のないアルツハイマー病。
一方でその診断技術は着々と進歩している。
十分な治療の選択肢が存在しない中、
早期に診断することの意味が今、問われている。

11月15日付 New York Times 電子版

For Alzheimer’s, Detection Advances Outpace Treatment Options アルツハイマー病診断の進歩の速さが治療法の選択肢を上回る

Detectionadvancesoutpace
Awilda Jimenez さんは物忘れが始まってアルツハイマー病の検査を受けた。結果は陽性だった。
By GINA KOLATA
 昨年 Awilda Jimenez さんの物忘れが始まったとき、彼女の夫 Edwin さんは不安で身体が震えた。彼女の母親が 50才代でアルツハイマー病を発症していたのである。61才の妻もまたその可能性があるのだろうか?
 本疾患を診断する新しい脳検査があることを知り、それによって彼の懸念が払拭されることをひそかに願いながら、不安にかられて彼女がそれを受けることに同意した。6月、医師によれば彼の妻はアリゾナ州でこの検査を受けた第一号の患者となった。
 「検査は明らかに陽性です」と、Phoenix にある Banner Alzheimer’s Institute の脳画像の部長で彼女の主治医である Adam S. Fleisher 氏は言った。
 それ以降、Jimeneze 夫妻はこの衝撃的な結果に必死に対処してきた。彼らはアルツハイマー病研究の新しい時代の問題に直面している。本疾患の診断能力が治療のはるか先を進んでいるのである。認知症やその先の死に向かう容赦ない進行を止めたり、あるいはせめて顕著に遅らせたりすることのできるものは何もない。
 Jimenezes 夫妻のように適切な選択肢を持たない家族はこう尋ねることしかできない:これまでと異なる生き方をすべきなのか?身辺整理をすべきなのか?実験的薬剤の臨床試験に参加すべきなのか?
 「脳検査が陰性であることを願っていました」と Jimenez 氏は言う。「ですから陽性であると分かったとき、大変気落ちしました」
 6月に市場に出てきたこの新しい脳検査技術は急速に普及している。Eli Lilly 社によると、すぐにこの検査が施行できる病院や画像センターはすでに300ヶ所以上あり、ほとんどの主要都市に存在するという。Eli Lilly 社はこの検査でプラークを検出するのに用いられるトレーサー(Amyvid)を販売している。
 この検査では脳内のプラーク(ベータ・アミロイドというたんぱくのフジツボ様[barnacle-like]集積)が示される。これは認知症状とともに、アルツハイマー病を決定づける特徴である。認知症状はあるが過剰なプラークを持っていないような人はアルツハイマー病ではない。今やその人が死亡して剖検を受け脳にプラークが点在しているかどうかがわかるまで待つ必要はなくなったのである。
 メディケアを含む多くの保険者は、数千ドルの費用がかかるこの新しい検査に対してまだ支払いをしない方針だ。しかもこれを受けることには深刻な危険を伴う(頭痛・筋痛・倦怠感・嘔気など)。連邦法は保険者や雇用者に遺伝子検査に基づいて差別しないようにしているが、同法は脳検査には適用されない。脳プラークを持つ人は長期医療看護保険を奪われる恐れがある。
 脳検査の解釈を懸念した米食品医薬品局(FDA)は新たな制度を義務づけた。医師は検査を始める前にそれらを正確に読影することができることを示す試験を受けなければならない。Eli Lilly 社によると、これまでのところ700人の医師に資格が与えられたという。他の種類の検査にはそのような義務づけはない。
 その他の異例な特徴として、放射線科医は患者について何も聞かされないことが FDA から求められている。一般に彼らはその他の種類の検査の読影には臨床情報を取り入れるよう訓練されていると、医薬品局の画像診断用化合物審査部門の部長 R. Dwaine Rieves 医師は言う。
 しかし今回の場合、臨床情報によって、基礎疾患として医師たちが疑っているものに一致するような方向に放射線科医の報告が意図しないまま誘導されてしまう可能性がある。Rieves 医師によると、アルツハイマー病では“臨床的印象は人を誤らせる”という。
 「これは画像診断の領域における大きな変革です」と彼は言う。
 他のアルツハイマー病の専門家と同様、Fleisher 医師はこのアミロイドスキャンの FDA の承認につながる研究の一端として数年間にわたってこの検査を用いてきた。被験者たちはこの検査が意味することを知らされていなかった。しかし、今、市場に出たこの検査では、そのルールは変化している。
 Fleisher 医師の最初の患者が Jimenez 夫人だった。家族の大黒柱である彼女の夫は、Jimenez 夫人の母親の介護をするためにニューヨークからアリゾナに転居したときコンピュータのコンサルタントの職を失った。検査のために数千ドルも支払うなど全く問題外だった。しかし、Fleisher 医師は Run Radiology の放射線科医 Mantej Singh Sra 医師を捜し出した。彼は大変仕事熱心で Jimenez 夫人の検査を無料で行うことに同意した。彼の計画はアリゾナで初めて検査を行いそれを宣伝することだった。
 Sra 医師が検査を行ったあと Jimenezes 夫妻は結果を聞くために Fleisher 医師の元に戻った。
 残念なことに Jimenez 夫人の脳内に非常に多くのプラークを認めた Fleisher 医師は、不安に対する支援を受けるよう彼女に精神科医受診を勧め、実験的薬剤の臨床試験に加わるよう提案した。
 しかし夫の Jimmenez 氏はその考えに賛成しなかった。予期せぬ副作用を心配したのである。
 「確かに心をそそられますが、どのように判断すればいいのでしょう?」と彼は問う。「どの時点で最愛の人間にリスクを負わせるべきでしょうか?」
 ニューヨークにある Mount Sinai Medical Center では、多くが裕福な彼の患者たちは同メディカルセンターでの検査費用 3,750ドル(約30万4,000円)に臆することはないと Samuel E. Gandy 医師は言う。脳内プラークの可能性を示唆するには不十分な症状を示す患者を対象に、彼は少なくとも週に1件は検査をオーダーしてきた。
 彼の患者のほとんどは、長期医療看護保険を受けられなくなることを恐れたり、あるいは単にプライバシーを守りたいがために自らの氏名を内密にしたがるという。
 ニュージーランドの女性はある医師から彼女がアルツハイマー病だと宣告され、別の医師からは前頭側頭型認知症だと言われた。後者はアルツハイマー病より若い年齢で発症する進行の早い稀な脳の疾患である。彼女は検査を受けた。検査結果はきれいなものだった。有意なプラークの蓄積はなかったのである。つまり彼女は前頭側頭型認知症だった。Gandy 医師によれば、残念ながら彼が彼女に提案できることは何もなかったという。薬剤臨床試験さえなかったのである。
 またパーキンソン病の診断を受けたある男性は完全に動けなくなり痴呆症になっていた。彼は最初からアルツハイマー病だったのだろうか?
 検査によりそうであったことがわかった。
 Gandy 医師の最初の患者となった電子工学技師でビジネスマンの Alexander Dreyfoos 氏は、自分の経験についてほとんどオープンにしたくない人間の一人だった。彼は裕福に独立しており、プライバシーや保険については心配していなかった。
 しかし彼はアルツハイマー病に強い不安を感じていた。79才で死亡した彼の母親がアルツハイマー病だった。「私をわかることさえできなくなるまで彼女が悪化するのを見ていました」と Dreyfoos 氏は言う。そして自身の記憶力が低下してゆく徴候に気付き始めていた。
 「2、3年前、自分が最高潮にはないことに気付きました」と彼は言う。
 Dreyfoos 氏は民間会社に自分のDNAの配列を決定してもらい、アルツハイマー病のリスクが高める遺伝子 ApoE4 を持っていることを知った。また Massachusetts General Hospital ではアルツハイマー病に特徴的な脳の萎縮が見られることを知った。彼によると、医師は彼の記憶力と論理的思考能力を検査し、心配するのも無理はないと告げたという。
 そしてついに Dreyfoos 氏は Mount Sinai の Gandy 医師のところに行き、自分がそうだと確信したアルツハイマー病の実験的治療を進んで受け入れた。Gandy 医師も彼がその疾患だと考えたが、検査を勧めた。
 その検査ではアミロイドの異常な集積は認められなかった。Gandy 医師としては Dreyfoos 氏はアルツハイマー病ではないと考えている。
 Dreyfoos 氏は驚いて、「なんとそうだったのか」と言った。
 Gandy 医師によると、その検査を行ったところ、アルツハイマー病と考えられていた人の30%がそうではなかったことがわかったという。しかし、悪い結果を知らされた人たちはその受け入れに苦悩することになる。
 夫人の疾患の進行を遅らせようと必死の Jimenez 氏は現在、インターネットで見つけた治療法である、ウコン、コエンザイムQ10、スタキサンチン、オキアミ油、イチョウの葉、ココナツオイルなどを彼女に与えている。それらが有効であるというエビデンスはなく、それぞれは月に約5ドルから15ドルかかる。しかし、Jimenez 氏は次のように言う。「私は何をすればいいのでしょう?この疾患に対しては誰もが無力感を覚えるので何でも試してみることを厭わないのです」
 彼は将来を心配し、経済的にどのようにやっていくか不安に感じている。その診断を知らない方がよかったのではないかと彼は思っている。
 「それには経済的にも、感情的にも、そして精神的にも消耗させられます」と Jimenez 氏は言う。「すべては首の皮一枚でつながっているのです」

記事中の新しい検査法とは、
放射性薬剤の Amyvid(フロルベタピールF18)を
静脈内注射したのち
ポジトロン放射断層撮影(PET)を行うものである。
脳内にアミロイドβ(プラーク)が存在すると
Amyvid はこれと結合し PET で検出される。
米国FDA は本年4月10日にこのPET用診断薬を
承認した。
これによりこれまで剖検でしか得られなかった
アルツハイマー病患者の脳内プラークの存在診断が
生前に行えるようになった。
ただしこの診断技術はアルツハイマー病の確定診断として
完全に確立されたものとなっているわけではない。
本検査の感度(アルツハイマー病であって陽性となる割合)は
比較的高いが偽陽性となるケースもある。
つまりアルツハイマー病以外の疾患や正常高齢者でも
陽性に出ることがある。
このため現時点では厳密には本検査を
『アルツハイマー病と診断する』ために用いるべきではないと
されているそうである。
それではこの検査の目的は一体何だろう?
無症状ながら検査を受け
不幸にも陽性所見が出てしまったとしたら
その人の心境はいかばかりであろうか?
アルツハイマー病に対する根本的治療が存在しない現在、
早期の診断がどれほどの意味を持つかは疑問である。
将来、この検査薬が本邦で承認される前に、
国内でこの検査をどのような目的で行うべきかを
しっかり議論しておく必要がありそうだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする