12人に1人が持っているとされる片頭痛は
いまだ十分に解明されていない病気である。
2012/8/13のエントリーでは
片頭痛治療の新しいターゲットについて取り上げた。
一方、片頭痛と脳卒中の関連も以前より取りざたされている。
『視界がゆがむ』『奇妙な光が見える』『嫌なにおいがする』
などの前兆を伴う片頭痛を持つ人は、
片頭痛のない人に比べ脳卒中のリスクが2倍であるとの
報告もある。
これは、そのような前兆が
脳血流の低下によって引き起こされるとの考えに基づいている。
事実、片頭痛を持つ人たちの脳には
脳の血流低下(虚血)によって生じたと考えらえる病変が
高頻度に認められている。
しかし、こういった病変が、
繰り返す片頭痛発作の結果生じたものなのか、あるいは、
逆にそれらが片頭痛の原因となっているのか、については
わかっていない。
これに関する研究が最近発表されたとの記事を紹介する。
Migraines Linked to Brain Lesions in Women 女性において脳病変との関連がみられた片頭痛
By Laura Blue
片頭痛の原因は明らかでないが、その永続する影響の一つとして、血流低下によって引き起こされる脳の病変がある。
片頭痛が男性の3倍多い女性では、嘔気、嘔吐、光過敏などよく見られる症状以外に、強い頭痛によって別の結果に見舞われてしまう可能性があることがThe Journal of the American Medical Association (JAMA) で報告された。
しかしながら、これらの病変が健康に及ぼす影響はいまだ明らかでない。「患者は個々の片頭痛発作が“脳を損傷してしまう”可能性があると考えて生きるべきではありません」この研究の連絡先となっている著者 Mark Kruit 氏は今回の結果について TIME に対する e メールでそう述べている。「病変の大きさは小さく、それらが認知機能の悪化には関連しないことを患者は知るべきです。この研究結果に基づいて片頭痛患者の治療法を変える必要はありません」
片頭痛患者のこれまでの脳MRI検査では異常な“hyperintensities(高信号病変)”すなわち、血流低下の領域を示唆する明るい(白い)領域が認められた。しかしそれらの研究ではどちらが先なのか、つまり、片頭痛の患者が脳の病変を発現しやすいのか、それとも脳の病変が片頭痛を引き起こすのか、を決定できなかった。さらにそれらの研究では、個々の一連の片頭痛が脳の病変のサイズを拡大し症状の悪化につながるかどうかを追跡できていない。
そこでオランダの Leiden に籍を置く放射線科医で神経内科医の Kruit 氏はオランダの医師チームと共同で同国に住む約300人の成人で片頭痛を研究した。それら被験者の大部分は片頭痛を持っていたがそうでないものもいた。2000年の研究開始時と、さらに2009年に、被験者全員の脳を検査した。同じ年に撮影された画像を比較することによって、Kruit 氏らは、片頭痛患者と、頭痛のない患者の間で脳の病変の違いを検討した。また、9年の間隔で得られた同一患者の画像を比較することによって、片頭痛の病歴を持つ患者では時間とともに新たな脳の病変を生じやすいかどうか、片頭痛発作の多い人で存在する病変がより迅速に拡大するかどうか、あるいはこれらの病変が認知機能の低下と関連があるかどうかを調べた。
男性においては結果に差は認められなかった。片頭痛のある男性も頭痛のない男性もMRI検査で高信号病変を示す傾向は同じだった。
しかし、女性では話が違っていた。2000年でも2009年でも、片頭痛のある女性は、片頭痛のない女性より病変の容積が大きく、研究期間中、それらの病巣は、片頭痛のない女性におけるそれより速く進行していた。しかし、これらの病巣の拡大は、片頭痛の頻度や強さ、あるいは、片頭痛に先行することのある視覚障害や他の知覚異常などの前兆の存在と関連はなかった。このことから、それらの病変は、片頭痛発作の結果生ずる巻き添え的障害というわけではなく、むしろ頭痛の原因となる何かに関連していることが示唆されると研究者らは言う。
片頭痛のある女性に特によく見られる病変は深部白質高信号(deep white matter hyperintensities)と呼ばれている。過去においては、これらは認知症や脳梗塞に関連するとされてきたが、今回のオランダの研究者らが片頭痛の被験者に対して認知機能テストを行ったところ、本研究での頭痛の患者は片頭痛のない人たちに比べ、認知能の低下は認められず、脳梗塞のリスクの上昇も認められなかった。
そういうわけで、片頭痛を持つ女性は、それ以外の女性に比べ、脳内の異常な構造的変化を生じやすいものの、それらの変化はなんら臨床的影響を持たないようである。
ちなみに、University of Texas Southwester Medical Center の神経内科医 Deborah Friedman 博士と Mayo Clinic の神経内科 David Dodick 医師が、本研究に添えられた論説に次のように書いている。この結果は実際には“ある程度患者やその医師たちにとって安心させる”ことになるかもしれない。というのも、“総体的病巣の責任はきわめて小さく、おそらく臨床的に重要ではないからである。”
しかし、片頭痛と脳病変の関連にはさらなる研究を必要とする。それらが頭痛の根本的原因に関連しているようであり、その背後にある生物学(的メカニズム)を科学者たちが理解するのに役立つ可能性があるからである。そしてそのことが最終的にはより優れた治療法の解明にもつながるかもしれない。
古くから多くの人たちを悩ませてきた片頭痛はいまだに謎。
その原因として
血管説、三叉神経血管説、神経説など様々な機序が
考えられているが、
いまだ確証は得られていない(一つの原因ではないようである)。
そのため決定的な治療法もない。
わずかでも解明への手がかりを見逃さないことが重要である。