MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

食事で失神

2009-08-13 07:56:20 | 健康・病気

前エントリー『救命病棟…』と違って、
今回は現実のお話。
おなじみ Washington Post 紙の
医学ミステリー (Medical Mysteries) のシリーズから。

8月4日付 Washington Post 電子版

Why Did Eating Make Her Faint? なぜ食べることで彼女は気を失っていたのか?

Eatingfaint

フーバー・ダムを訪れたときにけいれん発作に襲われたことが Martha Bryce さんのまれな状況の始まりだった。 「救急隊のお世話とならなければならず、実際、ダムを閉鎖してしまうことになってしまいました。」と、彼女は語った。

 それまでそのような症例を経験したことはなかったが、心臓医の David Lomnitz 氏は、なぜ自分の新しい患者が食事のとき失神を繰り返すのかが判明したと確信した。
 2004年9月、最初の予約診察の時、当時36才であった医療コンサルタントの Martha Bryce さんは打ちひしがれていた。その4年前に彼女はてんかんと診断され、発作を予防する薬を処方されていた。しかし、彼女が食事を始めると起こり、完全に気を失うのを避けようとして頭をテーブルの上に置くことを余儀なくされる頻回の発作を医師たちには説明することができなかった。
 医師たちにはあまり関心がない様子で、彼女に対し、こういった発作はてんかん発作の症状だろうと説明した。看護師でもある Bryce さんはその説明を承服しかねていた。
 しかし、ゾッとするようなできごとがあって、むずかしい病気である可能性が持ち上がったことから、現在はコネチカット州 Norwalk にある Norwalk Hospital の心臓内科の副部長となっている Lomnitz 氏の診察予約をした。「彼女の話に私はピンときました」と、彼は言った。
 何年も前、研修期間に彼が聞いたことのある症例からヒントを得た彼女の病気に対する直感は彼女のそれまでの診断を覆し、彼女に対する治療を根本的に変えることになったのだった。
 何かがおかしかった最初の症状はまさにドラマチックだった。
 2000年1月に Las Vegas への出張中、コネチカット州 Ridgefield に住む Bryce さんは自宅に帰るための夜行便に乗る前にフーバー・ダムを訪れてみようと思い立った。
 コンクリートの巨大な建造物の写真撮影用の展望台に立った時、『突然、これまで経験したことのないような気分を感じた』と、Bryce さんは思い起こした。気を失い、大発作に見舞われ、舌を噛んでいたということを、意識が回復してから彼女は知った。
 「救急隊のお世話にならなければならず、実際、ダムを閉鎖しまうことになってしまいました。」と Bryce さんは言う。その後4日間、彼女はLas Vegas の病院で精密検査を受けた。脳腫瘍、薬物反応、その他の疾患を医師たちは除外した。良好な健康状態で熱心に運動していた Bryce さんにはどこが悪いのか想像することすらできなかった。
 自宅に帰っても、神経内科医はさらに検査を行ったが、やはり何も異常は見つからなかった。一回きりの発作に見舞われた人のうち原因が特定できない人が11%ほどいるが、その中に入るのではないかと彼は説明した。安全のために彼は抗てんかん薬を処方し、6ヶ月間は運転しないように言った。
 その後一週間のうちに、気掛かりとなる新たな問題が起こった。食事中に Bryce さんは気が遠くなり、時に短時間意識を失うようになったのだ。こういった発作は飲水のときには起らず、固形の食物を摂取する時だけ起った。最初は時々だったが、やがて毎日起こるようになり、とりわけ朝食時が多かった。
 その発作はてんかんとは無関係であると神経内科医は彼女に言い、朝食を抜かないよう助言した。最初のてんかん発作そのものは4ヶ月間みられなかったため、彼は内服をやめさせ、もし次の発作がなければ来院の必要はないと彼女に告げた。
 彼女はこの気が遠くなる発作とうまく付き合ってゆくすべを身につけた。家族や友人たちは、食事開始の数分間、彼女が頭をテーブルの上に置いているのを見ることにも慣れた。発作は頻回に起こるようになっていたが、仕事上の客をもてなす時、まるで熱心にメニューを念入りに調べているかのように、あるいはハンドバッグの奥の方で何かを探しているかのように見せかけて、頭を垂れた。
 2001年、彼女は妊娠、それと同時に発作は止んだ。この発作は起こり始めの時と同じように突然消え失せるのではないかとBryce さんは考えた。しかし、息子が生後数ヶ月となった時、発作が再び始まり一層頻回となった。しかし医師からはきちんとした説明を受けることは叶わなかった。
 2004年のできごとで Bryce さんは、医師たちに事態を深刻に考えてもらう必要があると強く思うこととなった。夫はロンドンに出張中で当時2才半になった息子と二人だけで家にいた時、Bryce さんはボール一杯のシリアルを食べながら息子が遊んでいるのを見ていた。すると何の前触れもなく彼女は意識を失い、気が付くとけいれんに見舞われて床の上に倒れていた。その発作は2000年にあったものに比べると軽かったのだが…。
 「起こったことを考えると恐ろしかった」と彼女は言う。救急室を受診したが、医師たちには何も発見できなかった。Bryce さんは別の神経内科医を受診した。
 5年以内に2回の原因不明のけいれんを起こしたとなるとやはりてんかん発作であろうと、彼は彼女に告げた。気が遠くなる発作は、恐らくてんかん発作の活動に先行する前兆であろうとも述べた。Bryce さんは抗てんかん薬を再開され、運転をしないように言われた。
 てんかんの診断に疑いを持った Bryce さんは心臓医である友人に自身の異常について話した。
 「『もちろん心臓の精密検査は受けたんだろうね?』と彼は言いました」。彼女は受けていなかった。彼女が主治医である神経内科医に専門医への紹介を依頼したところ、彼は彼女を叱りつけ、それより Yale-New Have Hospital の てんかん外来に行くべきだと告げた。そこの医師たちなら『あなたの状況を納得ゆくまで理解させてくれるはずです』、と彼は言った。
 結局、言われた通りにはせず、彼女は Lomnitz 氏の診療予約をとり、情報を集めるためインターネットをつぶさに調べ始めた。調査により、1993年に設立されたグループ STARS(Syncope Trust and Reflex Anoxic Seizures の略)というイギリスのサイトを見つけた。そのサイトには、非定型的な失神や、実際には心疾患が原因でありながらてんかんと誤診された患者が記載されていた。
 アメリカ心臓協会によると、気を失うという意味の医学用語である“失神”は典型的には一過性の不十分な脳血流に関係しているという。それは低血圧、薬剤、ストレス、疼痛、血を見ること、脱水、あるいは心疾患、代謝疾患、肺疾患の合併などによって引き起こされる共通の症状である。時に、Bryce さんの例で見られるように、その原因がかなり変則的なことがある。
 Lomnitz 氏は研修トレーニングを New York Hospital で行ったが、同病院には失神の研究にうちこんでいる研究室がある。彼には Bryce さんの問題を起こしていると考えられる疾患など、失神のまれな原因についての知識があった。
 「彼女の病歴から、私は彼女が嚥下性失神 swallow syncope であると考えました」と、Lomnitz 氏は言う。嚥下という行為が心臓の電気的システムを妨害し、短時間拍動を停止させ、そのために意識が遠のいたり、失神に近い状態を起こすのである。
 この異常はきわめてまれなため、通常、症例報告として医学文献で認められる。1999年、Howard County General Hospital の二人の医師が嚥下性失神と診断した2症例を記載した。一人は冷たい炭酸飲料水を飲んだ後に、もう一人は大量の食事を摂取した後に起こしていた。
 自身の考えを検証するために、Lomnitz 氏は彼女の心拍数を24時間追跡し、その情報を彼の診察室に送信するモニターを28日間装着した。
 それをつけ始めて24時間もたたないうちに Lomnitz 氏は Bryce さんに電話をし、彼女は間違いなく嚥下性失神であると告げた。彼女が食べ始めた時、彼女の心臓は5秒から10秒間、拍動が停止したのである。
 次のステップは、根本となる原因を見つけ出すことだった。嚥下性失神が食道の狭窄や他の解剖学的欠陥によって起こる患者がいると Lomnitz 氏は言う。しかし、Bryce さんには、検査によってなんら身体的異常は認められなかった。
 そこで Lomnitz 氏はペースメーカーの埋め込みを勧めた。これは、心拍を調節するために電気的刺激を用いるものである。この手技を受けることには気が進まなかったBryce さんは、まずは薬物療法を試してみることを選択した。しかし、効果がなかったため、2005年1月にペースメーカーの手術を受けることとなった。
 「ペースメーカーが作動し始めた直後から新たな発作は起こっていません」と、Bryce さんは言う。
 彼女のケースについてはいくつかの疑問が解決されていない。なぜ妊娠中に発作が消失していたのかについては、Lomnitz 氏にも彼女の他の医師たちにもわかっていない。
 嚥下性失神はなんら明らかな誘因なく出現しうると Lomnitz 氏は言うが、自分の発作がフーバー・ダムに行ったことに関係しているのではないかと Bryce さんは思っている。
 「ペースメーカーが埋め込まれてから、ハイジャック防止の検査装置を通らないこと、大きなスピーカーや電磁石に近づかないこと、それと、こともあろうにフーバー・ダムに行かないことといった警告文を読みました」と彼女は言う。(コロラド川から電力を生産するのためダムでは電磁石が使われている)「おそらく潜在的に電気生理学的な問題を心臓に抱えていたところ、ダムに行ったあの日に増悪したのでしょう」

けいれんを伴わない意識消失(失神)発作を見るとき
むしろ脳以外の問題、
特に心臓の病気をまず思い浮かべるのだが、
この『嚥下性失神』は、確かにめずらしい病態らしい。

お医者になるのは、大変ですね
食道ヘルニア、アカラシア、食道がんなど、
食道に狭窄があり、摂食によって食道が急速に
拡張することで迷走神経が刺激され心拍抑制が生じ
意識を失うと考えられている。
一方、食道になんら病変がないケースも60%に
見られるそうである。
そういったケースには元々心臓疾患がある場合があるが、
全くの原因不明のケースも存在する。
嚥下性失神は広い意味の反射性失神に含まれるが、
反射性失神の誘因としては嚥下のほかに、
排尿、排便、咳嗽などがある。
鑑別診断として、
てんかん発作、一過性脳虚血発作などが挙げられるが、
やはり詳細な病歴の聴取や発作形式の把握が
最も重要と考えられている。
Bryce さんの主治医だった神経内科の偉い先生方は
てんかんがベースにあるとの先入観から
他の疾患である可能性を思いつくことができず、
漫然と高てんかん薬を処方した。
(おそらく脳波異常もなかったのだろう)
幅広い知識はもちろん必要だが、
最初の印象を一旦は完全にリセットして考えてみる、
そういった姿勢が臨床医には必要なのかもしれない。

コメント
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