MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

教皇の目論見

2009-05-13 22:49:20 | 国際・政治

前回のエントリーで、
ヴァチカンのコンクラーベを舞台にした
小説&映画『天使と悪魔』を取り上げたばかりだが、
現実社会の教皇も色々とお悩みのご様子だ。

国際紛争において
偉大なる宗教指導者の果たす役割とは一体何か?
どのようなスタンスをとるべきだろうか?
あくまで中立な立場を貫くべきか?それとも
あるいはどちらか一方に正義があると明言するべきか?
ホロコーストをはじめとする反ユダヤ主義に対する
ヴァチカンの姿勢は微妙な状況にあり続けている。
今回、就任後初めて中東を訪問したドイツ人教皇、
ベネディクト16世においては、
反ユダヤ主義との間に確実に一線が引かれているとは
言い難い言動が指摘されている。
果たして今回の中東訪問の意義は?
そんな話題である。

5月11日付 Washington Post 電子版

Pope, in Israel, confronts dark history of Germany
教皇、イスラエルの地でドイツの暗い歴史に対峙

Benedictxii

 ローマ教皇ベネディクト16世は、5月11日月曜日、イスラエル訪問の初日に、彼の祖国ドイツの暗い歴史に対峙することとなった。そこで彼は、6人のホロコーストの生存者と握手し、「大虐殺の犠牲者の方々の命は失われたが、決してその名を失うことはないだろう」と述べた。
 最近ホロコーストを否定した司教(聖ピオ十世会)の破門を解く決定を彼が行って以来、ユダヤ人とのぎくしゃくした関係を緩和しようとするベネディクトの企ては部分的な成功を収めたに過ぎなかったようだ。イスラエルにあるホロコースト記念館で二人の高官は、当地での演説で謝罪しなかったことや、『殺人』や『ナチス』の言葉を使わなかったとして教皇を非難した。
 また、戦時中の教皇、ピウス12世がホロコーストでユダヤ人を救うべく十分な努力を行ったかどうかについてのヴァチカンとイスラエルの間にある積年の見解の相違の解決に明確に進展をもたらすことはなかった。
 しかし、エルサレムにある Yad Vashem ホロコースト記念館で花輪を捧げ、『永遠の炎』に点火した月曜日に教皇が見せた感情的な一面はこれまで殆ど目にすることがなかった。
 声や手を震わせながら、この82才の教皇はなくなった人たちについて流暢に語った。
 「私は、彼らの両親が子供の誕生を心待ちにしていた時の喜びに満ちた期待をただ想像することしかできません。この子に何という名前をつけようか?彼、彼女にはどんな未来があるのか?あのような悲しい運命が待ち受けていることを誰が想像できたでしょうか?」
 「静かにここに立っている時、彼らの叫びが今でも私たちの心に響きます」
 2度目となるローマ教皇のイスラエルへの公式訪問はおそらく9年前の初回のような高揚なドラマの再現とはならないだろう。当時はベネディクトの前任者ヨハネ・パウロ2世が、ユダヤ教の最も聖なる場所 Western Wall(嘆きの壁)で、キリスト教徒のユダヤ人差別を謝罪し手書きのメモを残した。
 それでも今回、ベネディクトは、赤絨毯、聖歌隊、旗や赤いカーネーションを振る子供たち、イスラエルのノーベル平和賞受賞者 Shimon Peres 大統領による Benedict の名を冠した新しい小麦の株の贈呈など満載の格別な暖かい歓迎を受けた。
 「あなたには平和の推進者、偉大な精神的指導者の姿を見ます」と Peres 氏は言い、ナノテクノロジーを用い、小さなシリコン粒子に記録した30万語のヘブライ語で書かれたユダヤ教聖典のテクストをベネディクトに寄贈した。
 「ヴァチカンにはこういったものは一つもお持ちでないでしょう」と Peres 氏は冗談めかして言った。
 ユダヤ人との緊張を緩和することがベネディクトの最優先の目論見であることは明らかだった。しかし、空港に到着した時、イスラエルのそばにパレスチナ人の独立した国家を提唱する注目すべきコメントは新しい強硬派のイスラエル政府とは相容れない立場に彼を置く可能性があった。
 イスラエル人もパレスチナ人もともに、『確定的で国際的に認められた国境に囲まれた自分自身の祖国で平和に暮らすべきである』とベネディクトは述べた。
 イスラエルの Benjamin Netanyahu 首相はベネディクトがこのように語った時すぐそばに立っており、イスラエル当局は後で、この教皇の訪問の目的は政治的なものではないとし、対立の火種をもみ消そうとした。イスラエル外務省の Yigal Palmor 報道官は、米国やヨーロッパ諸国によって共有される何年も前から続いている立場を教皇が表明したのだと述べた。
 しかし、教皇の到着後間もなく、地域の争いがその邪魔をすることになった。パレスチナの聖職者 Taysir Tamimi は、ある異教徒間の集会でマイクロフォンを奪い取り、イスラエルによる最近のガザでの戦争や西岸地域の占領を糾弾する予定外の演説を行った。
 そういったことがなければきわめて台本通りの一日で終わるはずだったところに、このできごとはドラマをもたらすこととなった。ヨルダン西岸地域とガザ地区のイスラム最高位にある Tamimi 師は、彼を説得して演壇から降ろそうとしたキリスト教の聖職者を無視した。群衆の中には拍手喝采したものもいたが、明らかな不快感を示すものもいた。教皇は明確な反応を示さなかった。
 これに対しヴァチカンは『この割り込みは会話があるべき姿の直接的な否定となった』との声明を行い非難した。
 ベネディクトは教皇となる前、ユダヤ人とのよい関係を推進する人物であると好評を博していたが、彼の経歴や教皇就任以来のユダヤ人の感性に対するこれまでに感じられる彼の無神経さはイスラエルに不安を抱かせている。
 この教皇はホロコーストを否定するイギリスの司教の破門を解いたことで、今年初め、ユダヤ人の怒りを買ったが、ベネディクトは、この司教の過去を知らなかったと後日説明していた。イスラエルの最近のガザへの軍事攻勢のさなかに、その地域はさながら、『広大な強制収容所のようだ』とヴァチカンの上級職員が話したことで、関係はさらに悪化した。
 しかし、カトリック教徒とユダヤ教徒との間の論争の最大のポイントは、やはり、第二次世界大戦におけるピウス12世の果たした役割である。ベネディクトは彼を『偉大な聖職る者』と呼び、ユダヤ人が戦時中の彼の行いを憂慮しているにもかかわらず、彼を聖人にまつりあげようとする取り組みを支持している。
 Yad Vashem では、ベネディクトは記念館の主要な箇所を訪れなかったが、実はそこの写真の説明文には、ピウスはナチスによるユダヤ人虐殺に抗議することなく、概して“中立な立場”を保ち続けたと書かれている。
 Yad Vashem の評議委員会の委員長であり、イスラエルの前チーフ・ラビであったMeir Lau は記念碑でのベネディクトの演説は重要とみなしたが、物足りない点もあるとも述べた。
 「 “killed” と “murdered” の間には明らかな違いがあります。ホロコーストの何百万人と表現するのと、600万人と表現するのとの間にも違いがあります。6という数字は述べられませんでした」自身がホロコーストの生存者である Lau はイスラエル・テレビにこう語った。「そこには明らかに謝罪はありませんでした」
 Yad Vashem の館長 Avner Shalev もまた概括的にはこの演説を称賛したが、彼が期待したもののうち二つは叶わなかったと言う。教皇が反ユダヤ主義に触れなかったこと、そして誰がホロコーストを行ったかについて明言しなかったことである。「彼はナチスもナチスドイツもあるいはその協力者にも言及しませんでした」と Shalev は言う。
 しかし、教皇に会った生存者の一人 Edward Mosberg は満足していると言った。
 「これはきわめて重要なできごとでした」と、Mosberg は言う。
 ベネディクトは聖地パレスチナへの一週間に及び巡礼の旅を行うことでイスラム教徒やユダヤ教徒と心を通わせようとしている。彼はイスラエルに到着する前には隣国ヨルダンで3日間を過ごしていた。
 3年前、イスラムの預言者モハメッドの教えのいくつかを“邪悪で非人間的”、特に“武力によって信仰を広げよとの彼の命令”などと表現した中世の文章を彼が引用した時、イスラム世界の多くの人たちを怒らせた。彼はその後、自分の発言がイスラム教徒の怒りを招いたことに対して遺憾の意を示した。
 ヨルダンを出発する前、彼はイスラムに対して“深甚な敬意”を持っていると語った。
 しかし、イスラム教徒は、ユダヤ教徒と同じく、月曜日にはベネディクトに対して明らかに混在した反応を持った。
 教皇がエルサレムの大統領居住地を訪れている間、3年前にハマスの兵士たちに捕えられ、ガザ地区にいまだに監禁され続けているイスラエル兵士 Gilad Schalit の両親と会った。
 ベネディクトがイスラエル人捕虜の家族には会いながら、イスラエルで捕らわれの身となっている11,000人のパレスチナ人のいかなる縁者にも会おうとしていないとガザのパレスチナ人たちは怒りをあらわにしたのである。

どちらかに肩入れすれば必ず他方からの反発を招き、
関係は悪化する。
いかに偉大な宗教指導者であっても
紛争解決の糸口を掴むことは至難の業といえそうだ
(いや、かえって難しいのかもしれない)。
カトリック教会とユダヤ教、イスラム教との関係。
もう少し勉強しなくてはならない。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする