身元不明の白骨死体。
現代なら失踪者のDNAデータから
簡単に身元を割り出せる?
というわけにも
まだまだいかないようで…
CT scans help reconstruct faces of unidentified victims to solve cold cases 未解決事件解明のため、身元不明の遺体の顔の再構成にCTスキャンが一役
Inova Alexandria Hospital で身元不明の頭蓋骨のCTスキャンのために専門家たちが集まっている
By Rachel Saslow
Inova Alexandria Hospital のCTスキャンは普段は脳卒中、血栓症、あるいはその他の臓器損傷の診断に用いられている。しかし最近、同院ではCTスキャナーが新たな目的で用いられている:何年間も行方不明となって死亡した子供の頭蓋骨を検査する目的である。この一年、National Center for Missing & Exploited Children(NCMEC:行方不明および搾取された子供たちのためのセンター)は3例のそのような未解決事件ならびに一件の成人のケースの背後にある謎を解き明かす一助とするために Inova の放射線部門と手を組んできた。「頭蓋骨がここに来るまでが既に十分に恐ろしい話なのです」と、Alexandria に本部を置く非営利団体 NCMEC の法医学画像診断の専門家 Joe Mullins 氏は言う。「小さな箱を開け、森の中で発見された7、8才の子供の頭蓋骨を取り出すのは辛いです。しかし誰かがそれをしなければならないのです。それゆえ、私たちは、行方不明の子供を探り当て、彼らにそれぞれの名前を戻してあげる手伝いをしたいと思い全力を尽くすのです」
Mullins 氏の仕事はアメリカのテレビドラマ“Bones”や“CSI”そのもののように見える。彼はアドブ・フォトショップを使って、推測されるその人物の系統や年齢に基づいて筋肉や皮膚などの仮想的なレイヤーを構築し、死者がどのようであったかを再構成する。FreeForm モデリングと呼ばれる技術によって、Phantom というジョイスティック様のアームを用いて、まるで粘土のようにコンピューター画面上で彼が行う作業を確認することができる。死者を知っている人たちに認識してもらえることを期待して出来上がった画像はチラシとして配布されたりメディアに届けられたりする。
しかし、Mullins 氏が顔面の再構成を行うためには、まずCTスキャンでデジタル化した頭蓋骨像を手にする必要があり、これによってX線技術やコンピューター技術を用いて3次元のイメージを作ることができる。Mullins 氏はCTスキャン、FreeForm、フォトショップを用いたこの方法を約5年前から取り入れている。彼は、自分以外にこの方法を使う法医学アーチストを世界で2、3人しか知らない。ほとんどの法医学アーチストは軟部組織の代わりになるものとして成型用の粘土を用いて頭蓋骨を再構成している。
カリフォルニア州法務局の法医学アーチスト Barbara Anderson 氏はこの技術を用いたことはないが、頭蓋骨が古く脆弱なケースではこの方法はきわめて価値があると考えている。なぜならこの方法では標本が直接手で触れられる機会が少なくなるからである。
「未解決事件でこれまで不可能だったことができるようになると思います」と、彼女は言う。それが粘土に取って替わるかどうかは時間の問題でしょう」
Mullins 氏と Anderson 氏が共に指摘する点として、より多くの法医学アーチストがデジタル化に進んでいない理由としてソフトウェアの高い費用がある。しかし、この技術がさらに高度化しているように考えられることからその点は必ずしも改善していないと、Anderson 氏は言う。
「成功はすべてアーチストの能力に委ねられています。100%です」と、Anderson 氏は言う。「世界で最良のツールを持つことはできますが、アーチストが事例や骨を理解するのに時間を割くことがなければ、よく似せることはできません」Getting creative 独創的に考える
何年もの間、Mullins 氏は Smithonian's National Museum of Natural History でCTスキャンを用いてきた。そこではCTスキャンが、ミイラ、恐竜の骨、あるいはストラディバリウスのヴァイオリンなどの物体を検査するために日常的に用いられていた。そこでは形質人類学者 David Hunt 氏が、死者の系統、一般健康状態、あるいは識別のための細部を見つけ出す目的で頭蓋骨を解析していた。しかし一年あまり前に Hunt 氏の機械が故障したため、マサチューセッツ州 Provincetown の当局が1974年に Cape Cod のビーチで発見された殺人の被害者である遺体 “Lady in The Dunes” の頭蓋骨を送り込んできたとき NCMEC は独創的に考える必要があった。Mullins 氏が顔面の再構成を開始するためにどうしてもCTスキャンが必要だった。
そこで Inova Alexandria 病院の登場となる。NCMEC 副代表の John Rabun 氏は、Inova Alexandria の最高責任者で年来の職業上の友人である Christine Candio と連絡をとった。
「どんなに微力でも、この気の毒な女性の身元を発見し、彼女の家族に気持ちの区切りをつけさせる手助けができれば、それは光栄なことだと思いました」と、Candio 氏は言う。そうして Provincetown 警察は2010年5月に “Lady in the Dunes” の新しい画像を公開した。残念ながら本ケースはいまだに解決に至っていない。
同病院の CT 臨床部門コーディネーターの Robert Winters 氏によると、彼の部門はこのプロジェクトにわくわくしていたという。「チーム全体が『見てみたいし、関わりたい』といった感じでした」
Smithsonian の CT はその後修理されたため NCMEC はそこでまたスキャンを再開している。しかし、NCMEC の当局者たちは、同病院との提携することで、国内の警察官に CT スキャンを行うために地域の医療センターと連携する気にさせることにつながると期待している。そのようにして、画像が Mullins 氏の元に送られ、彼は直ちにデジタル再構成を開始することとなった。より大きな構図で見ると、警察が簡素化された過程によって小児の事例だけでなく、すべての種類の未解決事件を解明するのに役立つだろう。
「検視官の部屋の棚に置かれていて、それをどうしたらいいのか誰もわからない、米国だけでその他の数千個にのぼるそんな頭蓋骨を救うことになるでしょう」と Mullins 氏は言う。A small part of the job 仕事の一部
頭蓋骨の再構成は Mullins 氏の仕事のごく一部に過ぎない。彼は時間の多くをエイジ・プログレッション(age progression)に割いている。これは、2年以上行方不明となっていた子供の写真を元に、現在彼らがどのようになっているかの画像を作成するものである。最大限正確な予測像を推測するため、しばしば、その子供の兄弟や両親の写真を用いている。さらに死体安置所の子供の写真を撮るという粛然とした仕事があり、彼の表現によればそれは『彼らをデジタル的に復活させること』であり、その結果彼らの画像がメディアに公開されることになる。
James Madison University で美術とグラフィック・デザインで学位をとった Mullins 氏は同センターのすべての頭蓋骨再構成を扱っている。彼のケースの中に、ロサンゼルス近郊の浅い墓で2006年に発見された身元不明の女性の遺体についての仕事がある。警察は依頼をかけ、頭蓋骨を写真撮影し、検視官や法医人類学者によって解析を受け、その情報をアーチストに渡してスケッチを作成した。そのスケッチは2年間出回ったが結果は得られなかった。
「もし新たな手がかりが得られず、私たちがこの新しい技術を持っていることを警察が耳にすることがあれば、彼らはやり直しのため私たちに頭蓋骨を送ってくるのです」と、Mullins 氏は言う。「それは彼らがあらゆる手段を使い尽くした後です。私はテレビのショーに出ているだけのように現場には出向くことはありません」
彼は2008年に頭蓋骨を受け取り、それを Smithsonian の Hunt 氏に送った。その遺体が10代後半から20代前半で、健康状態にあり、かつ健康な歯を持っていたヒスパニック系かアフリカ系アメリカ人の血を引く女性であることを Hunt 氏は割り出した。
「もし彼女に大きな骨折があったり、鼻中隔彎曲があったり、歯並びが悪かったりするなら、それは法医学アーチストにとっておあつらえ向きである。なぜなら、それらは軟部組織に変換される材料となるからです」と、Mullins 氏は言う。
この頭蓋骨ではそれは当てはまらなかったが、Hunt 氏は Mullins 氏に別の手がかりを与えた。彼女がディオンヌ・ワーウィックの鼻のようだったと言ったのである(Hunt 氏は Mullins 氏に対してしばしば有名人に例えてみせる)。Narrowing the possibilities 可能性を狭める
Hunt 氏は頭蓋骨を見てただちにその系統を知ることもあると言うが、それほど簡単ではないこともある。そのような場合、頭蓋骨を計測することが可能性を絞り込む助けになる。
頭蓋骨のCT 画像と Hunt 氏の助言を元にして、Mullins 氏はフォトショップで女性の顔の再構成を開始した。鼻の格好や幅、耳介の格好、眉毛の位置、さらには髪の毛の生え際の予測まで、「顔の軟部組織についてのそれらすべての情報は頭蓋骨に刻みこまれています」と、Mullins 氏は言う。
Muyllins 氏は人物の系統に基づいて目鼻立ちの配置や計測値を計算する公式を用いる。Hunt 氏も Mullins 氏も、人骨からだけではその人物の体重を決定することはできない。しかし時には、遺体には衣類が付随していることもあり、それが死者の体重を知るヒントになりうる。
デジタル再構成には約1週間を要した。警察官は2008年6月に公開の会合でその新しい画像を公開した。ある市会議員がその画像を見て、それが Stephanie Quezada ではないかと警察に話した。彼女は2005年に20才で失踪していたのである。彼女の写真が載せられているポスターが数年間彼の事務所に貼られていたのだった。
4ヶ月後、DNA鑑定の結果からその頭蓋骨が Quezada のものであることが確認された。
過去5年間に NCMEC が行ってきた30ほどのデジタル再構成のうち、Quezada のケースはこの新しい技術が用いられて解決できた唯一の未解決事件である。
「毎日朝起きて私を仕事に向かわせようとするのは希望です」と、彼は言う。「希望がなければ、自分の仕事はできません」
アメリカには色々な職種があって、
専門性を発揮している人たちがいるのだなぁと、
あらためて感心させられる。
文中の『法医学アーチスト』は
forensic artist を無理やり訳したのだが、
本当はどう訳すべきなのだろうか?
死者の魂を救うために、
日本でも、
警察と病院がもっと協力し合う
必要があるのかもしれない。