フッフッフの話

日常の中に転がっている面白い話、楽しい話!

「草原からの使者」2

2010-01-16 11:00:48 | 
 前回の続き。ダービーの結果はいかに!
  日本ダービーは午後3時40分スタート。何も考えられない数時間である。オール・オア・ナッシングである。
発走30分前、パドックに行き馬の下見をする。ハイセーコーの人気は抜群である。
片隅に小さな蒙古馬のたてがみを、蒙古人の年老いた馬丁が梳いている。ダービーの巨大な馬達と、始祖を同じくするとは思われない。
勝政は、年老いた馬丁と身振り手振りで話す。タバコをパッケージごと手渡すと、吃驚し喜びを表す。
次のダービーの一位二位について、意見を聞く。すると、期待したハイセーコーの名前は無い。
「えっ!ちがうのか」老人はしっかりうなずく。均整のとれた馬体だが、牡馬としては線の細いタケホープを指して、
「ネグ。ネグ」(一位の意未)新聞を広げて確かめるが、老人は譲らない。
そして二着は、イチフジイサミだと予想する。予想ではなくて、確信である。
「信じるぞ!じいさん」老人はもう一度しっかりうなずく。

 勝政は、じいさんの言葉に賭けた。”神秘”に賭けたのである。兄弟3人の札が揃った。
父は、「お前はバカか」と言った。ファンファーレが鳴り響き、日本ダービーの発走である。
恐怖は限界に達していた。そして、1着タケホープ、2着イチフジイサミ、3着ハイセイコー。 場内にはどよめきだけが残った。

 勝政は、全てを約束通り相続した。一億円に近い配当金は、兄弟二人に等分に分けた。
兄は銀行の頭取に、和男は札幌で獣医を開業して、夫々に幸福になった。
あのモンゴルの老人は、”草原からの使者”としか言いようが無い。

人間の実力のうちで最も物を言うのは何かとの問に、努力とか忍耐または能力、誠実さとの答えに対して、
父は運だと回答した。全ての積み重ねによって運が開けるとの意味であろう。

 
コメント
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