はなバルーンblog

藤子不二雄や、好きな漫画・アニメの話がメイン(ネタバレもあるので要注意)

白黒版『鉄腕アトム』を観た

2011-08-11 21:15:48 | 手塚治虫
 先日、白黒版『鉄腕アトム』のDVD-BOX 1を購入した。
 よりによって『ジェッターマルス』を観ている途中に買わなくてもと思われるかもしれないが、実のところ『ジェッターマルス』を観ているうちに、元祖アニメ版『鉄腕アトム』も観たくなり、ちょうどボーナス時期で多少懐が暖かかったので、ついつい買ってしまったという訳だ。


 一口にDVD-BOXと言っても、93話も収録されているからどれから観たものか迷うのだが、最初は第1話を差しおいて、第34話「ミドロが沼の巻」を観た。やはり、藤子ファンとしてこの話は外せない。
 実際に観てみると、話には聞いていたが、カットごとにアトムの顔がコロコロ変わって笑える。この時代、すでにスタジオ・ゼロのメンバーの画風は確立されているから、絵に特徴が出ていて誰がどこを描いたか結構わかりやすい。たとえば、冒頭に出てきたギャングはもろに安孫子絵だったので、藤子アニメを観ているかのように錯覚してしまった。いや、藤子アニメだってここまでちゃんとした安孫子タッチは再現できていないだろう。
 DVD-BOXの中でも「ミドロが沼の巻」は特別扱いされていて、副音声で藤子不二雄A・つのだじろう・鈴木伸一各先生の解説が付いて、さらにこの三人による座談会まで収録されている。藤子ファン兼手塚ファンの私にとっては非常に豪華な内容だ。

 その後は、「黒い宇宙線の巻」「人間牧場の巻」「13の怪神像の巻」「細菌部隊の巻」などを観た。手塚ファンの方はサブタイトルでおわかりかと思うが、これらは『鉄腕アトム』以外の手塚作品を原作として使ったエピソードだ。『ゲゲゲの鬼太郎』の第2作などでも鬼太郎以外の水木短編を原作としてアニメ化していたが、これは白黒版アトムがすでに通った道だったのだ。
 このDVD-BOXは白黒版『鉄腕アトム』の前半2年分を収録しているわけだが、最初の1年ですでに原作がほとんど尽きてしまって、総集編(「アトム・サヨナラ・1963年の巻」)を挟んだり、一度アニメ化した話をリメイクしたり(「ケープ・タウンの子守唄の巻」など)、アニメオリジナルエピソードを制作したり、前述のように他の手塚作品を原案に使ったりと、とにかくありとあらゆる手を使って話を作っている様子がうかがえて、実に興味深い。
 原作付きの話も「赤い猫の巻」「マッドマシンの巻」「三人の魔術師の巻」「アルプスの決斗の巻」など何本か観たが、30分枠に収めようと結構大胆な改変が行われていて驚いた。原作付きはこれから本格的に観ていくところだが、前後編ものが1編しかない(「エジプト陰謀団の巻」&「クレオパトラの首飾りの巻」)のだから、残りのエピソードも改変を覚悟して観た方がいいんだろうなあ。

 と、今日までに白黒『アトム』を観た大ざっぱな感想としては、30分のテレビシリーズアニメ第1作という事で、どうしても技術の稚拙さや動画枚数の足り無さは否めない。しかし、制約の多い中で出来るだけの物を作ろうとするスタッフの熱気は伝わってきた。原作の面白さとは別の意味で面白い(=興味深い、と言った方がいいか)作品だと思う。


 それにしても、このDVD-BOXは非常に作りが丁寧だ。従来不明だったOP・EDのバージョン違いが可能な限りフォローされているし、先の「ミドロが沼の巻」のように、フィルムが紛失している作品も、海外版の映像+国内版音声の組み合わせで復元されている。また、付属の解説書は48ページ×3冊の大ボリュームで非常に読み応えがある。
 全てのアニメがこのようにソフト化されれば理想なのだが、現実はそんなに甘くない。制作年代を考えると、この白黒版『アトム』をはじめとする虫プロ制作の一連の手塚アニメは、非常に幸福な形でソフト化された希有な例と言えるだろう。それだけに、DVDとしては格安の値段で買えるのはありがたい。