F全集『パーマン』第1巻感想

 藤子・F・不二雄全集第1回配本のうち、『オバQ』に続いて『パーマン』第1巻をじっくりと読んでみた。
 今回刊行された第1巻は「少年サンデー掲載集」の一冊目にあたり、「週刊少年サンデー」掲載分の作品が発表順に収録されている。この全集は『パーマン』に限らず、どの作品も掲載誌別・初出順を収録方針の基本としているが、この形式だと色々な雑誌に掲載された話が混ざっている従来の単行本とは違って、掲載誌による作品の描き分け方が明確に感じ取れるように思う。


 『パーマン』の場合、てんコミだと大事件と日常的な話がほどよく混ざっている印象だったが、今回の全集第1巻では、どちらかと言うと大事件に比重が傾いている感じだ。「砂漠のジン魔神」をはじめとして遠征も多く、長距離飛行でマントがよく活用されている印象がある。「時速91キロで何時間かかる」と言った計算もよく出てきているが、それも遠出をしているからこそだろう。
 また、今回ちょっと意外だったのは、かなり早くパーやんまでの4人が揃っていた事だった。てんコミでは2巻の最初が「パーやんですねん」だったせいもあり、もう少し時間をかけてメンバーを揃えていたと思っていた。さらに、「パーマン全員集合!!」も、サンデーのみの初出順だと連載の前半だ。これは、パーマンセットが奪われてみつ夫が動物(旧版ではパー)にされかかると言う大ピンチを描いた話だけに、連載後期の山場で描かれたものとばかり思いこんでいた。考えてみれば、パー坊がいない4人で「全員集合」なのだから、そんなに遅く描かれたわけはないのだが、これもてんコミで3巻収録だった印象が強かったようだ。

 『パーマン』の初出データは今までも知っていたが、単行本を読む時にはいちいち気にしていなかったので、てんコミ(FFランドも準拠)の収録順こそが『パーマン』の時系列だと思い込んでいた。
 F全集第1回配本3冊の中で『パーマン』だけは単行本初収録作品がないので、セリフの改変だけに注目していたが、収録順が違うと話自体への印象も結構違うものだ。おかげで、思ったより新鮮な気持ちで作品を読み返す事が出来た。以前にもちょっと触れたが、「砂漠のジン魔神」冒頭部分がが初出時のアオリ文句まで復元されていたのは嬉しかった。藤子両先生の「だましてごめんね」の絵は雑誌からの復刻だったが、おそらくFFランド収録の時点で原稿から消されてしまったのだろう。このような細かいこだわりが感じられるのは、本全集のいいところだ。


 その一方で、セリフのあつかいについては、納得の行かないところもある。
 「スーパーマン」「時速91キロ」が復活して「脳細胞破壊銃でパーにする」はNGだと言うのは根本的な編集方針のようなので、F先生の最終判断がそうだったのだと、今回の編集にあたって解釈されたと考えれば仕方がないと言えない事もないが、「パーにする」と直接関わらない部分の細かいセリフの言い回しが、1995年に出されたてんコミ改訂版のままになっている箇所が多くて、てんコミの旧版にすっかり馴染んだ者としてはどうも違和感がある。全集の『ドラえもん』では、なるべくてんコミの初期版にセリフを戻すようにしていたのとは、対照的だ。
 具体的には、「はじめましてパー子です」の「パーマンじゃなくてクルクルパー」や、「パーマン全員集合!!」の「スーパーマンをあまく見るな」などがそうだ。前者は2号やパー子の身振り手振りが意味不明になったままだし、後者は「わしをあまく見るな」になって、スーパーマンが余計におっさん臭く感じられてしまう。脳細胞破壊銃は仕方がないにしても、このあたりは何とかして欲しかった。

 と、ここまで書いたように、特に「パーマン全員集合!!」の扱いにはちょっと文句がある。みつ夫のために必死になる仲間三人の姿が印象的で、好きな話なだけにこだわってしまうのだ。しかし、セリフ改変はあってもカラー口絵に初出版扉絵が収録されたのは素晴らしい。怒り狂っている(と、あえて書かせていただく)スーパーマンが実にいい味を出している。
 この全集ではカラーにはあまり期待していなかっただけに、他にも今まで見られなかったカラーイラストが入っているのは嬉しい。特に「パーマン全員集合!!」の単行本版扉はどう見ても連載時の絵柄ではなく、描き直されたと一目で分かる絵だっただけに、元がどうだったのかは気になっていた。
 カラーと言えば、綴じ込みの月報によれば「小学一年生」以下の年齢対象雑誌掲載分を収録した『パーマン』第6巻はカラー版が予定されており、これも楽しみだ。「小学一年生」掲載分は、すでにぴっかぴかコミックスで多数カラー収録されているだけに、全集でもカラーでとなったのだろう。こちらも、嬉しい判断だ。



 もう一度感想をまとめておくと、この第1巻はヒーローとしてのパーマンの活躍が印象に残る巻だった。「牧場をとりもどせ」なんて、冒頭はのどかそうに始まっているのに「弾丸がまだ六発、おれの体に残ってる」と重い話で、久しぶりに読んで驚いてしまった。続く第2巻も「サンデー」掲載分だし、「鉄の棺おけ突破せよ」のような話もあるので、ヒーロー色がより強く感じられそうだ。
 それにしても、『パーマン』と言い『ドラえもん』と言い、F先生は四月バカネタがお好きなんだな。「世の中うそだらけ」はタイトルまで被っているところが面白い。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )