TBSテレビで始まった「運命の人」というドラマは、山崎豊子の最新作が原作で大ベストセラーとなった、1971年に実際に起きた「西山事件」、すなわち、毎日新聞記者が当時の大きな政治課題であった「沖縄返還」の政治的舞台裏で、交渉相手であるアメリカとの間に、国民には決して知らされない「極秘文書」が存在していて、その最高機密文書のコピーを西山記者が外務省の当時の女性職員から受け取って「密約疑惑」として報道した後、政府の頑な対応に業を煮やした記者本人が、当時の社会党代議士にそのコピー文書を手渡し国会での追及に及び、その極秘文書の存在と漏洩が明らかになり、西山記者と女性職員が秘密漏洩の罪で逮捕、起訴されるに至った事実に基づいたドキュメンタリー的ドラマである。
山崎豊子が史実に基づいて取材し、一応フィクションの如く書いた小説が原作とは言え、過去にも「大地の子」をはじめ数々の事実を基に記した作品のドラマ化や映画化が話題になっているが、いずれもテレビドラマとしての高い評価を得ている場合が多く、今回も期待しつつ、日曜劇場としての放映枠の時間では観られない場合もあるので録画したものを観ることとなった。
まだ初回と第二回が終了しただけなのだが、西山記者をモデルにした主人公、政治部記者・弓成亮太を本木雅弘が演じ、その弓成に秘密文書を渡す外務省職員の三木昭子を真木よう子が演じていて、その周辺の関係するキャストもなかなかの布陣で、見応えのある作品となっていると思われた。
しかし、この事件は沖縄返還の年1972年前後が舞台となっているので、今年で返還40周年を迎える沖縄県にとっても、日本政府にとっても、相手国であるアメリカ合衆国にとっても、時が経っていることで、多様な憶測ではなく史実と共に、政治の表舞台とその背景に潜む真実を暴こうとした、一人の政治記者と「国民の知る権利」などを背景に、裁判となった事件だけに、当人の西山記者はその後毎日新聞を退職し、有罪判決を受け故郷の実家の家業を手伝うという人生を送られ、外務省職員だった女性も有罪判決後、男女のスキャンダルな事件として話題となったために、離婚されたという事実もあった様である。
この事件は「国家公務員法違反」という有罪判決で決する裁判となったのだが、毎日新聞の西山記者本人と共に、当時のライバル紙であった「読売新聞」の政治部担当記者として登場する、作品では「読日新聞」の山部一雄記者のモデルは、なんとあの「ナベツネ」こと、渡辺恒雄であり、今から40年前の事件とその背景とはいえ、現在の西山氏と巨人軍騒動でまたもワンマンぶりを発揮しているナベツネ氏の人生の分岐点でもあったと思われる。
いずれにせよ、テレビドラマではあまり本木雅弘と真木よう子の不倫関係とその肉体関係などは描かれてはいないのだが、私はこの事件の本当の真相よりも、そういうスキャンダラスな男女関係がともかく注目されてしまって、肝心な「日米の密約」や「沖縄返還に関する多大な日本政府の財政的見返り負担、すなわち沖縄を返してもらうために払った代償の多額だったことなどがかき消されてしまった上に、その翌年に、なんと表舞台のドンであった、当時の佐藤栄作首相が「ノーベル平和賞」を受賞したというノンフィクションが忘れられないのである。
つまり、新聞だけではないがテレビ、週刊誌も含めて、多くのマスメディアが、本当の真相や事実を報道しようとすれば、大きな障害や「飛び矢」が跳んできたりする場合もあるし、新聞記者や国会議員、またはその関係者に至るまで、身辺に危険が及ぶ様な恐れを感じることもあると思われるのである。
全く舞台は違うし、このような事件とは比べようもない私の経験なのだが、私の地方議員としての16年間の活動の中でも、ささやかではあったが、行政の不正や事実に反する答弁や証拠の改ざんなど、どうしても可笑しいと思う様な証言や、中には匿名の情報なども電話や手紙でいただいて、その裏を取るという側面は難しいけれども、「疑惑」として質問したり追及したりしたことが何度かあったのである。
その過程で、ある問題に関しては、とある議員から「内容証明」付きの文書で攻撃されて、再度この問題を机上に上げれば、名誉毀損で訴えると脅されたり、また別の問題指摘では当該団体の幹部が何度か訪ねて来られて、始末書まがいの文書で「詫び状」の様な文章を出さねば許さないと言われたり、家族に何が起きても知らないと脅されたこともあった。
今だから話せる面もあるのだが、一地方議員で政党や有力な支援団体や所属組織を持たない、いわゆる「市民派」議員として、実直に「可笑しなことは可笑しい」と指摘し、無駄遣いや前例踏襲の行政姿勢や習慣に対してメスを入れようとするだけで、抵抗勢力とでも言うべき、職員や組織から強い反発を受けたり、脅迫染みた言動を受ける羽目になったのであった。
新聞記者や議員として「行政の矛盾や疑惑」を正すという仕事に没頭してしまうと、突然大きな障害や壁にぶつかることがあるというのは、誰でも想像がつくことだと思われるのだが、実際の日々の取材や問題意識の中で、「取り上げるべきか否か」を判断する基準がだんだんと鈍って来たり、「君子危なきに近寄らず」となってしまっては、元も子もないのである。
この「運命の人」のドラマでは、今後どの様にこの二人だけでなく、真実の報道や裁判を通しての「公務員の秘密遵守」などの問題が、どの様に描かれていくかを見守りながら、決して権力や大きな脅しに屈せず、堂々と報道し、国民の知る権利の一端を知らしめる新聞記者たちの魂と心意気を感じさせる主人公の言動などに期待するところである。
現在、アメリカ合衆国では、沖縄返還交渉での秘密文書が公開されているし、民主党政権となって岡田元代表が日本の公文書についても、30年を経たものは全て開示すべきと定めたので、日米間に「裏取引があった」という事実はほぼ立証されているのである。
山崎豊子が史実に基づいて取材し、一応フィクションの如く書いた小説が原作とは言え、過去にも「大地の子」をはじめ数々の事実を基に記した作品のドラマ化や映画化が話題になっているが、いずれもテレビドラマとしての高い評価を得ている場合が多く、今回も期待しつつ、日曜劇場としての放映枠の時間では観られない場合もあるので録画したものを観ることとなった。
まだ初回と第二回が終了しただけなのだが、西山記者をモデルにした主人公、政治部記者・弓成亮太を本木雅弘が演じ、その弓成に秘密文書を渡す外務省職員の三木昭子を真木よう子が演じていて、その周辺の関係するキャストもなかなかの布陣で、見応えのある作品となっていると思われた。
しかし、この事件は沖縄返還の年1972年前後が舞台となっているので、今年で返還40周年を迎える沖縄県にとっても、日本政府にとっても、相手国であるアメリカ合衆国にとっても、時が経っていることで、多様な憶測ではなく史実と共に、政治の表舞台とその背景に潜む真実を暴こうとした、一人の政治記者と「国民の知る権利」などを背景に、裁判となった事件だけに、当人の西山記者はその後毎日新聞を退職し、有罪判決を受け故郷の実家の家業を手伝うという人生を送られ、外務省職員だった女性も有罪判決後、男女のスキャンダルな事件として話題となったために、離婚されたという事実もあった様である。
この事件は「国家公務員法違反」という有罪判決で決する裁判となったのだが、毎日新聞の西山記者本人と共に、当時のライバル紙であった「読売新聞」の政治部担当記者として登場する、作品では「読日新聞」の山部一雄記者のモデルは、なんとあの「ナベツネ」こと、渡辺恒雄であり、今から40年前の事件とその背景とはいえ、現在の西山氏と巨人軍騒動でまたもワンマンぶりを発揮しているナベツネ氏の人生の分岐点でもあったと思われる。
いずれにせよ、テレビドラマではあまり本木雅弘と真木よう子の不倫関係とその肉体関係などは描かれてはいないのだが、私はこの事件の本当の真相よりも、そういうスキャンダラスな男女関係がともかく注目されてしまって、肝心な「日米の密約」や「沖縄返還に関する多大な日本政府の財政的見返り負担、すなわち沖縄を返してもらうために払った代償の多額だったことなどがかき消されてしまった上に、その翌年に、なんと表舞台のドンであった、当時の佐藤栄作首相が「ノーベル平和賞」を受賞したというノンフィクションが忘れられないのである。
つまり、新聞だけではないがテレビ、週刊誌も含めて、多くのマスメディアが、本当の真相や事実を報道しようとすれば、大きな障害や「飛び矢」が跳んできたりする場合もあるし、新聞記者や国会議員、またはその関係者に至るまで、身辺に危険が及ぶ様な恐れを感じることもあると思われるのである。
全く舞台は違うし、このような事件とは比べようもない私の経験なのだが、私の地方議員としての16年間の活動の中でも、ささやかではあったが、行政の不正や事実に反する答弁や証拠の改ざんなど、どうしても可笑しいと思う様な証言や、中には匿名の情報なども電話や手紙でいただいて、その裏を取るという側面は難しいけれども、「疑惑」として質問したり追及したりしたことが何度かあったのである。
その過程で、ある問題に関しては、とある議員から「内容証明」付きの文書で攻撃されて、再度この問題を机上に上げれば、名誉毀損で訴えると脅されたり、また別の問題指摘では当該団体の幹部が何度か訪ねて来られて、始末書まがいの文書で「詫び状」の様な文章を出さねば許さないと言われたり、家族に何が起きても知らないと脅されたこともあった。
今だから話せる面もあるのだが、一地方議員で政党や有力な支援団体や所属組織を持たない、いわゆる「市民派」議員として、実直に「可笑しなことは可笑しい」と指摘し、無駄遣いや前例踏襲の行政姿勢や習慣に対してメスを入れようとするだけで、抵抗勢力とでも言うべき、職員や組織から強い反発を受けたり、脅迫染みた言動を受ける羽目になったのであった。
新聞記者や議員として「行政の矛盾や疑惑」を正すという仕事に没頭してしまうと、突然大きな障害や壁にぶつかることがあるというのは、誰でも想像がつくことだと思われるのだが、実際の日々の取材や問題意識の中で、「取り上げるべきか否か」を判断する基準がだんだんと鈍って来たり、「君子危なきに近寄らず」となってしまっては、元も子もないのである。
この「運命の人」のドラマでは、今後どの様にこの二人だけでなく、真実の報道や裁判を通しての「公務員の秘密遵守」などの問題が、どの様に描かれていくかを見守りながら、決して権力や大きな脅しに屈せず、堂々と報道し、国民の知る権利の一端を知らしめる新聞記者たちの魂と心意気を感じさせる主人公の言動などに期待するところである。
現在、アメリカ合衆国では、沖縄返還交渉での秘密文書が公開されているし、民主党政権となって岡田元代表が日本の公文書についても、30年を経たものは全て開示すべきと定めたので、日米間に「裏取引があった」という事実はほぼ立証されているのである。
著者本人が、どれほど取材し、時間をかけて、人間模様を描こうとしているか、その苦労が伺えます。
それにしても、ナベツネのドラマへの不快感など、とんでもなく幼稚な詮索だと思います。
あくまでフィクションとして楽しみたいものです。