ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2014
テーマ:10回記念 祝祭の日 Jours de Fêtes
日程:2014年5月3日(土・祝)・5月4日(日・祝)・5月5日(月・祝)*前夜祭スペシャルイベント 5月2日(金)
会場:東京国際フォーラム、よみうりホール、よみうり大手町ホール 及び 大手町・丸の内・有楽町エリア
クラシックの祭典として10周年を迎えGWの風物詩となった音楽祭。以前張り切ってクラシックのコンサートに行って爆睡した経験があるので、暫く足が遠のいたが、昨年渋さ観戦で復帰。今年も天気がよく、国際フォーラム周辺にはフードブースが並び、屋外パフォーマンスが行われ、ワイングラス片手に多くの人が集まっている。残り少ない銀髪の年配男性が多い。かつてクラシック・ファンは音楽愛好家ヒエラルキーの上位グループに属していたが、下位レベルでも参画可能になったのは、この音楽祭の恩恵か、はたまた功罪か? 最上位グループのオペラ・ファンの聖域が侵されていないのがせめてもの救いである。
●渋さ知らズ オーケストラ「舞曲の祭典」
今年は25周年。その音楽はジャズ、ロック、歌謡曲、フォークなどが混在し、既存のジャンル分けに収まらないという特異性を持つ。さらに舞踏、ダンス、美術など音楽以外の表現要素が加わり、渾然一体となる演劇的祝祭感のある空間を創出していく。日本以外でもヨーロッパ各国で高い評価を受け続ける。
音楽祭出演3年目。パートは「脱ジャンル音楽パフォーマンス集団」とされる。何でもありの雑食集団だから、どこに行ってもアウェーだが、限界を知らないお祭りパフォーマンスで魅了してホームにしてしまうのも事実。「舞曲の祝祭」と題された今回のプログラムは、ロマ(ジプシー)の音楽と民衆パワーをテーマにした演奏だったが、出自からして帰属場所のない渋さにとっては得意中の得意。トルコ行進曲やハンガリー舞曲、カルメン、ボレロ、新世界などが飛び出し、ステージは愚か客席をゴジラやシルバードラゴンが練り歩く非(異)常事態に、無意味の集積が触れるもの全てを巻き込む強引なエネルギーが会場を満たし、人類美学の粋を極めた1時間となった。
●MURCOF(マーコフ)「Beyond the Retrospective」
メキシコ出身のエレクトロニック・ミュージシャン。「フェルナンド・コロナ」名でも音楽活動を展開。電子音楽にクラシック音楽の要素を融合させた独自の音響世界は多数のファンを集め、グリニッジ天文台プラネタリウム、モントルー・フェスティバル、バルセロナ・ソナー・フェスティバルなどでのパフォーマンスが好評を博している。
数十人が奏で歌い舞った渋さから打って変わってぼっちエレクトロ。ステージにはPCを乗せた小さなテーブルひとつ。髭面の男が現れPAからブーンと低周波音が流れ出す。アンビエントなドローン空間は、コンサートホールの秀逸な音響装置により、理想的なオーディオ体験をもたらす。クラウス・シュルツを思わせる浮遊電子音の催眠効果で意識が遠のく瞬間もあったが、ミュージックコンクレート的にパーカッションやヴォイスがカットインする場面は感動的だった。クールなリズムを刻むパートはポストロックとの接点を明らかにした。場所柄学究的なムードが濃かったが、六本木スーパーデラックスで観たら違う感想だっただろう。
★譜面を読めない電子音楽家の企み:Murcof、クラシックの世界へ越境する⇒コチラ
お祭りだ
レッツ・エンジョイ
クラシック
「祝祭フリージャズ」、「エレクトロニカ」と続いたら来年は「ノイズ」しかなかろう。今思えば大友良英の『題名のない音楽会』出演はその為の布石だったのかもしれない。
聡明な読者諸兄はすでにお気づきのことと思うが、工事現場や壊れたラジオと大差ない演奏を、金額の大小に拘らずお金を払って鑑賞するノイズ・ファンこそ、音楽愛好家ヒエラルキーの頂点にいることは言うまでもない。かつてさる王妃が、「お金がなくてコンサートに行けないなら、ノイズを聴けばいいじゃない」と言ったと伝えられるが、ノイズを聴くには鋼鉄の覚悟と気高い自己犠牲と無限の慈愛が必要なのである。