A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

再開記念『盤魔殿アマルガム vol.35』ヘンリー川原/Tibor Szemző/Stefan Goldmann/吉田美奈子/Yoonkee Kim/Goldmund/アントロポセンの空舟

2021年11月24日 00時51分40秒 | 素晴らしき変態音楽


盤魔殿DJ 今月の1枚  
盤魔殿DJ陣が毎月お気に入りの音源をご紹介。こだわりの選盤からどんな世界が広がるかお楽しみください。

●DJ Athmodeus a.k.a. 持田保
ヘンリー川原 / 電脳的反抗と絶頂:エッセンシャル・ヘンリー川原 (EM Records)2021


ダグラス・ラシュコフが名著”サイベリア”にて90年代前半の米国デジタル・アンダーグラウンドとサイケデリックスやオカルティズムの異種混合文化についてレポートしたように、日本における90’s秘教的サイバー文化を音楽的に紐解く存在がこのヘンリー川原である。1991年から1996年という短期間に日本オカルティズムを代表する出版社”八幡書店”をメインに23作(23!)の作品を発表。サイキックTVファンにもお馴染みのヒューゴ・ズッカレリの立体音響システム、ホロフォニックスの日本型展開としてデジタル式立体音響ヴァーチャル・フォニックススを確立したヘンリーによるケミカル変性意識世界にただただ圧倒される。ライナーノーツで八幡書店代表である武田崇元氏が当時を振り返って「オカルトと神道とサイバーパンクがごちゃまぜみたいな」と評していたが、たしかにそんな時代だった。レイヴ・カルチャー前夜のデジタル・サイケデリアとチルアウト。ヴェイパーウェイブ世代にも刺さりまくること間違いなしの「かつて存在したはずの未来」をアンビエンスに奏でるイリーガル桃源郷。


●DJ Vaby a.k.a. 大場弘規
Tibor Szemző / The Other Shore - Various Compositions 1992 – 97(CD)


アート&アヴァン系マニアには知られた、78年始動のハンガリー実験アンサンブルGroup 180。ここに参加した重要人物であり、音楽のみならずインスタレーションや映画制作も行ったブダペストの重鎮Tibor Szemzőが99年にリリースした作品。本作はアンサンブルやパーカッショニストと共に作り上げた、もはや何処にもカテゴライズ出来ないユニーク過ぎる92~97年までの3つの録音を纏めた音源集。清水寺の住職による祈りと信仰に関する語り(これが、なかなかの聴き応え)、軽快なパーカッション、流麗なストリングスを混ぜた「The Other Shore」、日常風景がボソボソのテクスチャーでミックスされるサウンドスケープコラージュ「Symultan」、そしてシンプルな室内楽とパーカッションの絡みによる「Gull」、この凄まじい音楽性/世界観は皆様に是非1度は体験して頂きたいと切に願う今日この頃なのです。
 

●DJ Necronomicon a.k.a. 剛田武
Stefan Goldmann & .es / At A Moment’s Notice(The Wormhole)2021


盤魔殿との関係も深い気鋭の音楽家にして個人的にも良き友人であった橋本孝之氏の当然の逝去の報はコロナ云々など吹き飛ばす大きな衝撃だった。5月10日の橋本の死の3か月後にリリースされたベルリン出身の電子音楽シュテファン・ゴルドマンの最新作。2012年7月12日大阪ギャラリーノマルに於けるゴルドマンとドットエス .es=橋本孝之+saraとの共演ライヴ音源が収録されている。ぶっつけ本番の即興演奏。金属的なエレクトロニクスがギャラリーのナチュラルエコーで輪郭が曖昧になり霧と化して会場を包み込む中、鋭角的な橋本のサックスが霧笛のように切り裂き、saraのピアノが雨粒となって弾ける。反復する電子音とパーカッションに鋭角的なフラメンコギターや慈しみのハーモニカが共鳴し合い、狭い画廊に無限のサウンドスケープを現出させる。
当時の音源を使ったアルバムをリリースしたい、というオファーがゴルドマンから橋本孝之に届いたのが2020年8月。その際にトリオセッションの音源を聴いて、今聴いても面白いということで快諾した。それから1年経ち、2021年8月にリリースのニュースが届いたが、すでに橋本は他界しており、それを知らなかったゴルドマンは大変驚き残念がっていたという。奇しくもリリース元は時空の穴を意味するWormholeレーベル。まさにタイムカプセル、もしく遅れて届いた孤独のメッセージだろうか?異端音楽家の魂が「盤」という形で未来永劫に生き続ける証である。


●DJ Ipetam a.k.a. Rie fukuda
gazer / 吉田美奈子


もうどこの街で働いた頃か忘れたが、その時々で思い出深い曲はいつもラジオで流れていた、そんな一曲。浮遊感たっぷりで気持ちよく、それでいて芯が強くて、隅々まで作り込まれていて.....あの局は一推しの一曲をヘビーローテーションするから、いつでも聴けると思いつつ、盤を求めて寄り道をする羽目になった。
その"午後の恋人"は盤の最後の方に入っている。本作は1990年リリース、吉田美奈子の12作目。少し調べてみると、前作から一年半後にリリースされており、一度作ったものを一旦棄てて、作り直したとか何だとか。
後ほど聴きなおした他のアルバムに比べて、イマジネイティブで幻想的、彼女のプライベートを覗き見している様な気持ちにさせられる一枚である。
そういえば、昨年閉店した高円寺の某所に、たまに飲みに来るとか噂を聞いた事があったが.....確固たる評価のある方だけに、まだ浅いファンがとやかく言うべきではないだろうが、滅多に人前に姿を出さず、神秘的な存在でいて欲しいと思わせる、そんな異世界に迷い込める一枚。
ボックスセットも既に手に入らないなんて、世の移り変わりも早過ぎる。

             
●DJ BEKATAROU a.k.a. 伊藤元
Yoonkee Kim / JUNALIS


幼少の頃よりピアノを習い、音楽に親しんだYoonkee氏は10代で出会ったパンクやグランジをきっかけに音楽制作を始め、2004 年にリリースされた"Asian Zombie”でその才能が世に知られるようになる。コンスタントにリリースするアルバムの他にもbandcampに膨大な楽曲をアップロードしたり、並行してドローイングも制作する等幅広く活動する。
さて、本作はアナログシンセサイザーやリズムマシンを中心とした楽曲から弾き語りによるものまで徹底したロウファイを楽しむことができる傑作である。
どのような音なのかを少し触れさせていただくと柔和な軟体生物が生き生きと活動するかのように立ち上がり、伸縮する電子音のダイナミズム!!!楽曲が進むにつれ多彩な表情を魅せ、リズムマシンから突き上がるビートにチープな生楽器音の流れが交わると意識と脳髄が攪拌され、アコースティックギターでの弾き語りが始まればその余りにもゆるくぬくぬくとした音の運びに雲の上で寝そべるような心持ちだ…このような緩さの中、、、時折の発光!!!水玉のように広がる音々の雫が鼓膜に跳ねれば正体不明の高揚感が脊椎を下る…!このように述べた上で全ての楽曲を通して感じられるのは人の気配、場の空気だ…氏のミュージックビデオにも見られるのだが日々の生活であるとかそこで感じていること…呼吸を記録しているのではないだろうか…そのように思えてならない…


●DJ Bothis a.k.a. 山田遼
Goldmund - The Malady Of Elegance (2008) CD Type


あまり盤魔殿っぽくない作品で恐縮なんですが、個人的に非常に好きな作品でして、長年愛聴しているので今回ご紹介します。ジャンルで言うとポスト・クラシカルと言うのでしょうか?Apple、Facebook、Google等の企業のCM音楽も手がけるアメリカの音楽家キース・ケニフによる、ピアノを主体とした音楽プロジェクト「Goldmund」による2ndアルバムです。非常に少ない音数ながらも、必然性のある音選びに長けているというか、わざとらしい御涙頂戴メロディみたいなハッタリを用いずに、聴き手の精神の部分にスゥーっと染み込む旋律を紡ぐことができていて、尚且つ、まぁ何かと患っているであろう人がレコード屋で見たら迷わずジャケ買いしてしまうであろう作品ジャケットも秀逸。ただ、こういうメランコリックな美しさみたいなものに耐性が無い方もきっといらっしゃると思うので、もちろん万人受けはしないだろうなとは思いつつ、娯楽の対象とはまた違う観点で音楽を必要としている方に届けばいいのかなと思いました。今のところ、「Goldmund」の作品だと本作が頭一つ抜けていて、同じくキース・ケニフのエレクトロニカ路線の別名義「Helios」だと2018年の作品『Veriditas』がおすすめです。ぜひ。


●DJ Qliphoth a.k.a. 宇田川岳夫
俺の中で鳴り止まない盤(もの):Naked アントロポセンの空舟 original soundtrack SHS-2101水族館劇場


水族館劇場の演劇公演「アントロポセンの空舟」サウンドトラック。水族館劇場は曲馬舘の流れをくむ芝居集団で、同じく曲馬舘から派生し、風の旅団を経由した劇団、野戦之月よりもダイレクトな政治色は弱まり、都市の闇を漂泊する名もなき漂泊の民と権力に仕える漂泊の民の相克を描き、抒情性やロマンチシズムは深い。雑司ヶ谷鬼子母神、三軒茶屋世田谷八幡神社、新宿花園神社など、神社仏閣の境内で彼ら自ら建設する仮設の芝居小屋で公演はすべて行われる。水が噴き出したり、役者が宙づりになったり、舞台を難破船や銀河鉄道が疾駆したりする巧みな舞台装置も魅力の一つだ。年末年始の日雇い労働者が仕事にあぶれる時期には山谷や寿町などの日雇い労働者の町で、炊き出しと同時に義援金を集めるための路上芝居「さすらい姉妹」の公演も行う。看板女優は曲馬館時代から活躍する千代次であり、これに風兄宇内や七ツ森左門などの個性的な役者がからむ。前芝居といって、公園の前に客寄せと客入れ、そしてプロローグを兼ねた芝居を15分ほど会場の入り口周辺で行い、客を仮説の劇場に入れていく。現実と幻想の狭間が崩れる感覚は実際に見に行くものの楽しみだ。曲馬舘から派生した劇団の劇中歌や劇伴音楽は定評があるが、水族館劇場の音楽も魅力的だ。野戦之月は大隈ワタルの演奏するクレツマーミュージック的な音楽が魅力だが、水族館劇場の音楽は状況劇場の小室等の音楽や、天井桟敷のJ・A・シーザーの音楽とも違う。懐かしさを誘う昭和歌謡と前衛的な電子音楽が場面に従って交錯する楽しみがある。初期の音楽はマディ山崎が担当していたが、現在は山本紗由が担当している。山本紗由はバイオリニストで、かつては由良瑯座の主宰するパフォーマンス集団モントザハトに所属していた。その後水族館劇場に加入し、役者兼バイオリン奏者として活動していたが、京都在住のためコロナ禍で東京公演に参加することが出来ず、ここのところ音楽担当に専念する形になっている。公演の際の音楽もかつては生演奏だった今日も今回は録音したものを使用している。一聴して驚くのは山本の作る音楽の多彩さだ。1曲目「アントロポセンのテーマ」のオーケストレーションと役者による合唱は聞くものを劇の世界に連れ去るし、9曲目「神殿崩壊」は途中まで1曲目と同じ主題を用いながら突然テンポが速く電子音楽的になり、舞台を照らす強烈な光とあふれ出る水、そして崩壊する舞台装置といった劇の場面が脳裏に浮かび上がる。その外の曲も名曲ぞろいで、劇と関係なく音楽としてもしっかり聴きとおせるアルバムだ。このアルバムのほかにも劇団は数多くのサントラやDVDを出していたが、現在は残念なことにすべてが廃盤だ。復刻と再発を強く望むものである。

▼2021年11月23日(火) 渋谷DJ Bar EdgeEndにて


イベントが
出来る幸せ
噛み締めて

【次回の盤魔殿】
2021年1月8日(土) 阿佐ヶ谷TABASA
盤魔殿 presents「第2回 輝く、盤魔殿レコード大賞!!!(リベンジ編)」
開場・開演18時 終了20時30分 1000円+1ドリンク
盤魔殿DJ総出演!2021年度「盤魔王(バンマーキング)」決定戦。


【EVENT INFORMATION】
2021年11月27日(土) 渋谷 頭バー
The Third Mind vol.4


19時〜22時
1000円+1D
DJ出演:持田保、Rie Fukuda、DJ TKD、脳ブレイン
LIVE出演:直江実樹(短波ラジオ奏者)


2021年12月3日(金) du cafe 新宿(ディスクユニオン新宿1F)
石田昌隆『UKレゲエとパンクの接点』写真展示&トークイベント
18:00~20:00
料金:2,500円(A5版48ページ、限定30部、シリアル番号、サイン入りのZINEつき)
+要1DRINKオーダー

激動する国際情勢とそれに敏感に反応して変化を続ける音楽シーンの動向を世界を旅して追ってきた写真家・石田昌隆氏。今回は、UKレゲエとパンクの接点に着目し、石田氏が撮影してきたジョー・ストラマー、ジョン・ライドン、リントン・クウェシ・ジョンソン、アスワド、マッシヴ・アタックらの貴重な写真をご披露しながら、イギリスにおける黒人移民の歴史を踏まえ、UKレゲエとパンクの関係について語り尽くします。
聞き手は、石田氏の千葉大学の後輩にあたり、身体改造ジャーナリストとしてTBS系人気番組『クレイジージャーニー』でも紹介されたケロッピー前田が務めます。
【出演】
石田昌隆(フォトグラファー)
ケロッピー前田(身体改造ジャーナリスト)
【トークイベント参加方法】
※メールにてdu cafe新宿宛にお申し込みください。
申し込みアドレス→ ducafe@diskunion.co.jp
※メールの件名を【『UKレゲエとパンクの接点』トークイベント参加申込み】とし、本文に下記を明記してお申し込みください。
・お名前(氏名)
・電話番号
・参加人数
※受付が完了しましたら、du cafe 新宿より「予約完了」の返信がございます。メールの受信設定にご注意ください。
※お申し込み/ご予約は定員に達し次第、締め切らせていただきます。ご了承ください


2021年12月6日(月) 吉祥寺NEPO
【Grazin'】 剛田武が参加するアンビエントユニット「MOGRE MOGRU」ライブ出演。


1F open 17:30
B1 open/start 18:00/18:30
adv/door¥2,300(+1order)
streaming ¥1,000(準備中)
〈出演〉
ilyons
kill me Elkと職場の仲間達
MOGRE MOGRU(剛田武+Tanao+黒い瞳)

〈チケット〉
https://nepo.co.jp/contacts/index/1262?tab=booking
配信
https://nepostream.myshopify.com/


2021年12月13日(月)阿佐ヶ谷TABASA
ケロッピー前田 & 持田保 presents
狂気音楽 a.k.a. クレイジーミュージック探訪
~ エイドリアン・シャーウッド&On-Uサウンド 編

19:00 - 21:00
チャージ1000円 ドリンク(キャッシュオン)


2022年1月15日(土) 阿佐ヶ谷TABASA
唸る語る盤魔殿 Vol4.
PowerElectornics and Political Music In Japan

18時
料金1500円+1ドリンク
出演 帝都御社Y 大久保正彦(LINEKRAFT) 持田保 宇田川岳夫 
限定20名 予約者優先 物販あり 予約者特典あり


【特報!盤魔殿の新イベント】
2021年12月某日予定 渋谷DJ Bar EdgeEnd
盤魔殿 即興道場 Disque Daemonium Improvisation Gym
時間未定
参加料金1000円(1drink付)

楽器持参でどなたでも参加できる即興ジャムセッション。
ヴォイス、舞踏、パフォーマンスも歓迎です。
即興が初めての方大歓迎。
*ギターアンプとPAミキサーがあります。
*爆音演奏はできません。

詳細は後日ブログ、SNSにて公開します。
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