A Challenge To Fate

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【私のB級サイケ蒐集癖】第38夜:善男善女の不統一教会クリスチャン・フォーク~ザ・マイノリティ(少数派)/ザ・ヤング・フォーク(若者たち)

2022年07月28日 01時01分37秒 | 素晴らしき変態音楽


新興宗教団体関係のニュースを連日目にする。振り返ってみれば、今から40年前の1982年に入学した大学の新入生歓迎会で初めて知った言葉が「原理研」だった。先輩たちの話では「原理研」とは大学生活においては排斥すべき存在であり、「打倒原理研」「原研を打っ潰せ」と謳った立て看板やビラが校内のあちこちに掲示されていた。全共闘、革マル、中核派、赤軍派といった学生運動については知っていたし、学生寮の物置には赤ヘル、黒ヘル、トラメガ、スローガン入り垂れ幕などが残っていたが、80年代には過去の遺物のように思われた。それに代わって心ある大学生が戦うべき相手が「原理研」であり親団体の「統一教会」だったような印象がある。「反原理研」活動に青春を燃やす友人もいた記憶がある。その他にも、校内の銀杏並木の下で「あなたの魂を清めましょう」と近づいてくる「浄霊」という手かざし宗教もいたし、自転車に乗って「一緒に卓球をやりませんか」と爽やかに誘ってくるモルモン教の白人男性も出没した。バンド活動にしか興味がなく、いつも黒づくめの格好でギターを担いでいた筆者は、その手の勧誘を受けることは殆どなかったが、学内には他にも有象無象の宗教関係の誘惑があったに違いない。純真な大学生は新興宗教の格好のターゲットなのだろう。卒業後、90年代初頭に訪れた母校の学園祭では、オウム真理教が大教室を借り切って麻原彰晃の空中浮遊ビデオを上映していた。世間では合同結婚式や霊感商法で話題になった統一教会や東京ドームで生誕祭を開催した幸福の科学が話題になり、その挙句に1995年のオウム真理教の地下鉄サリン事件に至る。

筆者は胡散臭い新興宗教には近づかないようにしている一方で、結婚式はキリスト教、親の法事は仏教、初詣は神社という節操のない宗教観を持つありきたりな日本人の典型だと思う。しかし、外国へ行くと宗教観は大きく異なる。詳しく語るほどの知識はないが、欧米におけるキリスト教の影響の大きさは芸術文化の歴史を見れば明らかだろう。聖歌、賛美歌、宗教曲は言わずもがな、霊歌やゴスペルは教会の福音音楽がルーツだし、グラミー賞にはコンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック(CCM)というカテゴリーがある。60年代後半のサイケデリック時代にも神への信仰を歌うシンガーやグループが数多く存在した。新興宗教やヒッピー・コミューン思想に基づいたアウトロー的なバンドも少なくないが、現在クリスチャン・サイケ/クリスチャン・フォークなどと呼ばれるバンドの大半は、善き市民として生活する若者たちであり、敬虔なキリスト教徒だった。SEX, DRUGS & ROCK’N’ROLLの誘惑に屈しない(もしくは屈する手前の)純真な青少年少女たちが歌う神への祈りこそ、ケネディ大統領やキング牧師の暗殺や、ベトナム戦争泥沼化で病んだアメリカ合衆国の穢れた魂を清める浄霊の歌声なのかもしれない。

●ザ・マイノリティ The Minority『バッハからロックまで From BACH to ROCK』(Atlantis Records – CS-0678 / 1969)


リゾート地の水辺をバックに晴れやかな笑顔が並ぶジャケット写真だけで癒される。フロリダ州ウェスト・パーム・ビーチの第1バプティスト教会で結成されたゴスペルコーラス隊+ロックバンドの1stアルバム。ザ・マイノリティ(少数派)というバンド名は、自虐的な意味ではなく「真実への狭き道を見つける者は少数しかいない」という聖書の言葉に因んでいる。1967年夏に開催された「湖畔の教会(Chapel-by-the-Lake)」での「黄金海岸聖戦(Gold Coast Crusade)」というイベントで結成され、『俗な街の歌(Songs to the Secular City)』のレコーディングに参加。フロリダ州メルボルンからマイアミまで公演し、ユニークなフォーク・ロック・ビートのゴスペルを届けた。1968年夏には10の州とカナダをツアー。エレキギター、12弦ギター、ベース、バンジョー、ドラムからなるバンドと、高校生・大学生からなるコーラス隊による神を讃えるヴォーカル・ナンバーを収録。アルバム・タイトル通りビートの効いたロック・ナンバーとアカペラの賛美歌が混在する。「探せ、さらば見つからん」「歌え、祈れ、そして歩け」「彼は再生する」「彼(神)は私のすべて」といったタイトルからも信心深さが伝わってくる。特に「自由はただじゃない」と連呼する曲のパワーは、当時流行のファズ・ガレージロックを圧倒する魂のパワーを感じる。曲によってはトリオやデュオの爽やかなフォークソングもあり、アルバム全体を貫く陽気なポジティヴさが眩しい。


●ザ・ヤング・フォーク The Young Folk『若者たち The Young Folk』(Cuca Records - 6990 / 1969)


某レコードショップの格安コーナーで出会った1枚。針葉樹が生い茂る田舎道を横一列になって歩く男女5人の笑顔に魅了されて購入。男性二人が弾くフォークギターに乗せて歌う男女のコーラスハーモニーは、裏ジャケの野原で歌う写真通りの歌声喫茶ならぬ歌声ピクニック。A面はキングストン・トリオ、イアン&シルヴィア、ビング・クロスビーなどのカヴァー、B面は「生ける神」「主よ憐れみたまえ」「神に栄光を」「ホーリー、ホーリー、ホーリー」「偉大なるアーメン」といった賛美歌。メンバー写真も氏名も明記されているが、今となっては何処の誰か調べようがない匿名性、歌も演奏も特筆すべき個性はないが故の異物感、モノラルマイク一本スタジオ一発録りのナチュラルリバーヴの酩酊感。自主制作レアサイケに通じるオブスキュアな魅力を醸し出すカルト作品である。リリース元のCuca Recordsはウィスコンシン州ソーク・シティを拠点に1959年から70年代初頭に活動したレーベルで、地元のミュージシャンを中心に、ポルカや伝統ジャズ、R&Bやゴスペル、フォークやポップスのレコードを1000タイトル近くリリースした。そのカタログはウィスコンシン州の音楽史を記録した貴重な資料としてウィスコンシン大学マディソン校の音楽ライブラリーに保存されている。ザ・ヤング・フォークも地元で活動していたアマチュア・グループのひとつで、活動記念に制作したアルバムなのかもしれない。当時20歳前後だったとしたら現在70代の元メンバーは、今でも神に祈りを捧げながら、年に一回くらいこのレコードに針を落とすことはあるのだろうか。そう思うと愛おしさが増してくる。

信仰と
親交深め
進攻す



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