A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

ケイス・ブルーム+工藤礼子+工藤冬里@渋谷WWW 2014.11.11(tue)

2014年11月15日 02時23分20秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


Sound Live Tokyo 
ケイス・ブルーム + 工藤礼子

出演:ケイス・ブルーム/工藤礼子/工藤冬里

歌を作って歌うことは人間に本来的に備わった能力

シンガー/ソングライターという活動形態は、シンプルですが、それだけにあらゆる人間的、社会的、自然的広がりと同じだけの広がりを持ち、たった一つの歌でその全てが露呈する恐るべきジャンルです。

「誰でも歌を作って歌うことができる」、かつ「誰もが歌を作って歌うことができるわけではない」と言うと矛盾して聞こえますが、今回が初来日になる伝説的シンガー/ソングライター、ケイス・ブルームと工藤礼子の歌を聴けばこの矛盾は矛盾でなくなり、必然性として、歓びのうちに感得されることでしょう。



『Sound Live Tokyo』(以下SLT)二番目の公演。ケイス・ブルームの名前は聞いたことはなかったが、工藤礼子と共演するなら間違いないとの確信があった。また、渋谷WWWは筆者にとって、個性的な女子アーティストとの出会いの場という印象がある。最初にWWWで観たのは灰野敬二と対バンした石橋英子(2011年4月24日)。ドラマーとして知っていた石橋のヴォーカルを初めて聴いた。Phew(高橋悠治と共演 2011年5月28日)、ジョセフィン・フィスター(2013年4月23日)、青葉市子(GEZANイベント 2013年8月20日)などここで観た女子の面影が甦る。だから、ケイス・ブルームという未知の女性シンガーへの期待にWKTK(ワクテカ)気分でスペイン坂の石段を駆け上がった。
マイケル・スノウ+恩田晃+アラン・リクト@渋谷WWW 2014.11.5(wed)& 6(thu)

●工藤礼子+工藤冬里

Photo: Hideto Maezawa

工藤冬里&大村礼子のユニットNOISEによる『天皇』(1981)というLPは、80年代初頭の地下音楽カオスに於いて、ユニット名やタイトルとは裏腹に、一点の曇りもない清浄なヴァージニティ(純血性)を発散していた。エンゼル(綴りはEngel)レコードというレーベル名は、天使というよりチョコボールのエンゼルマークを想起させた。その後、工藤冬里はソロもしくはマヘル・シャラル・ハシュ・バズなどの不定形ユニットで活動。大村礼子と結婚し、ニューヨークやイギリスでの生活を経て、現在も全く変わらず不定形且つ不可知な表現活動を続ける。陶芸家としても活動。SLTには昨年マヘル・シャラル・ハシュ・バズで参加した。
倉地久美夫/マヘル・シャラル・ハシュ・バズ@東京キネマ倶楽部 2013.10.4(fri)


Photo: Hideto Maezawa

工藤礼子は年に数回マヘル・シャラル・ハシュ・バズに参加したり、吉祥寺マイナー所縁のアーティストと共演したりしつつ、ソロ名義で数枚のアルバムをリリースしている。いずれも冬里のピアノとギターを中心にした最小限のバッキングで、子供が気紛れに綴ったような無垢な詩をエンゼルヴォイスで歌う、心の中の最も繊細な場所に飾っておきたい小品集である。二人のデュオ演奏は、10年前に新宿ゴールデン街のバー「裏窓」の10人だけのプライベートな空間で観たきりだが、目を離すと消えてしまう泡(あぶく)のような存在感が印象に残っている。


Photo: Hideto Maezawa

ダークなロングドレスの礼子は、居心地悪そうにステージに立ち、ピアノの冬里と目配せで意思を通じあっている。ポロポロ零れるようなピアノの音の隙間を抜けて歌われる歌は、子供の頃にいつも夢見たエンゼルの歌声。WWWの暗いステージが、昭和40年代の小学校の講堂に思えてくる。一曲終わるごとにピアノの後ろで隠れるように水を飲む自信なさげな佇まいと、凛としてしなやかな歌声は、一見ミスマッチのようだが、礼子にとっては極々自然である。冬里のピアノは、伴奏であり自己主張であり気紛れであり強烈である。昨年のマヘルに感じた不可解さは、意図したものでは無く、礼子同様自然体のなせる業であった。最後の曲でケイス・ブルームが影のように現れリコーダーを吹いたのも余りに自然だった。



工藤礼子 Setlist
1. Fair and deep sea
2. しらさぎ
3. くも
4. やまばと
5. 爆報フライデー
6. This is my song
7. NGC3603
8. ひとりで夕日を


●ケイス・ブルーム

Photo: Hideto Maezawa

フォークに限らず、アメリカという広大な国には無数の「伝説的」で「幻」のアーティストが存在するのは事実。そんな中で20年以上経ってから「発見」され、「復活」が報じられることは、宝くじに当たるような幸運と言える。しかし彼らは決して墓場から蘇ったわけではない。生活者として生を営みつつ、表現・演奏活動も途切れることなく続けてきたのだ。その事実が彼らの生活圏を超えて報じられることがなかっただけである。だから「再発見」され「復活」したアーティストの演奏を聴いて「昔と変わっていない」「現役時代を髣髴させる」などと評価するのはお門違いであろう。


Photo: Hideto Maezawa

ケイス・ブルームもまさに生涯現役シンガーである。70~80年代前半に入手困難なレコードを数作発表したのち、コネチカット州の片田舎で演奏・教育者として音楽活動を続けてきた。公式サイトには「CLASSES(教室)」というページがあり、0~5歳児を対象とした音楽教室の案内が載っている。長年子育てや馬の養育に従事してきたから、ケイスの歌詞は身の回りの出来事への愛情に溢れた視点で描かれる。子供たちが飽きないようにと、明るい旋律と言葉遊びが散りばめられた歌は、時に豊富過ぎる抑揚が一風変わって聴こえるかもしれないが、「アシッドフォーク」より「子供の歌」と呼ぶほうが相応しい天真爛漫さに貫かれている。後半工藤冬里をスライドギターに、礼子をコーラスに迎えた演奏中に、何度も「Let's Sing Along(一緒に歌いましょう)」と呼びかけたことは、みんなで歌うことこそケイス・ブルームが目指す音楽の地平への道筋であることに他ならない。
「歌を作って歌うことは人間に本来的に備わった能力」
「カオティックで有害でもあり得る感情の痛みを、創造的なエネルギーに転化することで、子供や大人の人生は変容する」

Kath Bloom公式サイト



ケイス・ブルーム Setlist
1. Bubble Bath
2. Terror
3. Let The Music Come
4. Another Point Of View
5. Found Love
6. Oblivion
7. The Things That I Do To Forget About You
8. At Last
9. I Wanna Love You
10. Deeper Shadows
11. I'm Getting Close To You
12. Pass Through
アンコール1. Finally
アンコール2. Fall Again

満場の観客が受け取ったポジティヴなエナジーは、ケイス×礼子×冬里三人の心の交差点から発信された「骨の中に閉じ込められた燃える火」(エレミヤ書20:9)だったに違いない。



人類が
笑った時に
歌う歌




<SOUND LIVE TOKYO ライヴ・スケジュール>
SLT公式サイト
Photo by:Miro Kristel

11月17日 (月) 渋谷WWW
『裁かるゝジャンヌ』 ローレン・コナーズ + 灰野敬二

11月23日 (日) 六本木SUperDeluxe
東京都初耳区 (ライブ・パフォーマンス) ゲストアーティスト:MERZBOW×中村達也/MURASAKI

12月2日 (火),3日 (水),4日 (木) 六本木SuperDeluxe
東京都初耳区 (サウンド・インスタレーション)

12月27日 (土), 28日 (日) 六本木SuperDeluxe
Antigone Dead People/Small Wooden Shoe + dracom
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